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映画『ラーヤと龍の王国』感想

予告編
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 本文中で「最近でいえば~」みたいなことを述べてはいますが、例の如く公開当時の感想文なので、現在の時勢・時節とズレてはおります。何卒ご容赦くださいー。

繋がり


 相変わらず、ディズニーのアニメーション映画は素晴らしい。どこを掘り下げても面白い。

 抗いようのない脅威に怯え、分断することでしか平和を保てなくなった世界を舞台に、存在するかどうかも分からない〈龍〉こそが世界を救う最後の希望になっている本作。

〈龍〉という空想上のモノ、そういった曖昧な何かに縋りたくなってしまうのは、分断されてしまった世界という設定も相俟って、コロナ禍の現実社会とあまりにもリンクしている気がします。そしてそんな物語である本作のクライマックス……いや、もしかすると作品全体を通して提示していたものが、分断とは真逆のものであるというのも美しい。綺麗事と言ってしまうと嫌味っぽく聞こえてしまいますが、濁りや澱みの無い美しい世界観はディズニーの専売特許みたいな気もします。都会の喧騒に息苦しさを感じながら暮らす中、この後味があるからディズニーはやめられない。



 ある時、シスーが教えてくれた大切なこと——「深く繋がる」——。この “繋がる” の部分を立ててセリフを言っていたんです。僕は日本語版を観てから原語版を観たのですが、どちらとも明確に立てていた。繋がることが大切なキーワードであることをわかり易くしてくれる重要な要素。原語版を先に観ていたら気付かなかったかもしれないから、改めて吹き替えの存在には感謝しかありません。

(ちょっと脱線します。→吹き替えの話でいうと、シスーが人間に化けた時のビジュアルが「オークワフィナそっくりだなぁ」って思ったんです。もぉ終始「似てんなぁ……」って思っていましたけど、まさかオークワフィナ本人が声優を担当していたとは笑。はい、脱線終わり。)




 クマンドラ(物語の舞台となる世界)の人々が祈る時のポーズが独特なんです。最初のうちは、どこか既存の宗教と同様のものにしてしまうのはディズニー的にNG(或いは僕が知らないだけでこういう祈り方があるのかもしれませんけど)だからこんなポーズなのかなぁ、と思っていましたけど、祈る時のあの手の形でも〈繋がる〉という本作のテーマを表現していたようにも思います。

輪を象り祈る所作は、シスーら伝説の龍を崇めてきたクマンドラらしいし、もっと言えば石化してしまった人達の手の形も、物語上でとても重要な水(雨)を掬い取る受け皿を模しているようにも見えてきます(クライマックスシーンで一度だけそんな描写が挟まれていたので)。ディテールの詰め方が凄いなぁと改めて思わされます。まぁだからこそディズニー作品には「都市伝説」やら「裏設定」だとか言って妄想談義に耽る輩が後を絶たないのですが……笑。はい、僕もその一人です。


 クライマックスの展開、もの凄く良かったです。なんていうか王道の大団円ではあるんですけど、最近で言えば『シュガー・ラッシュ オンライン』(感想文リンク)然り、『ズートピア』(感想文リンク)然り(まぁ言ってしまえば全部かな?)、ディズニーアニメーション映画は、ちゃんとそれぞれの時代の潮流に合わせた着地をしている印象があります。そしてそれが尚且つ、作品のテーマに即していて、もぉ素敵。

本当に大切なのは人の心にあるもので、でもそれって物語でいうところの水みたいな存在でもあるわけで。根源的というか原初の力とも呼べる “水” も、人の心にある信頼や愛も、元々あるもの。沈んでいるかもしれないけど失ってはいない。そんな作品の精神性を歌っているかのようなエンディングテーマも素晴らしいです。今の暗い時代に観るからこそ感動できる一本かと思います。



 ディストピアにも見える渇いた大地を直走る冒頭から、場所を変えていく中で次第に緑豊かになっていくから、アドベンチャーでありながらどこかロードムービーにも相通ずるような変化の面白さもあるし、『スパイダーマン:スパイダーバース』(感想文リンク)を彷彿とさせるアニメーションも面白かったです。っていうかそもそも水のCGがスゲー笑。小難しいこと考えなくてもアニメーションとしてもシンプルに楽しめます。


 同時上映の短編『あの頃をもう一度』も超良かった。セリフは無く音楽とダンスだけで描かれていて、短い物語の中にも所々に『雨に唄えば』や『ラ・ラ・ランド』(感想文リンク)などの有名ミュージカル映画のオマージュ・シーンが盛り込まれていて面白い。しかも物語の中で “雨” がギミックになっていて、今思えばこれも本編とリンクさせた工夫だったんじゃないかな。そしてここで描かれていたことも物事の本質についてで、忘れかけているかもしれないけど本当に大切なのは人の心・想いなのだと教えてくれるショートムービー。仕掛け的にも物語的にも本編の内容とリンクする、つまりは “繋がり” を構築することで、内容それそのものも然ることながら、この組み合わせ自体も本作のテーマを体現させたメタ的なラインナップだったのかもしれません。


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