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映画『17歳の瞳に映る世界』感想

予告編
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PG-12指定



 以前投稿した映画『ラストナイト・イン・ソーホー』感想記事の中で、本作について少し触れた……っていうか名前を出したので、今日はその映画『17歳の瞳に映る世界』の感想を投稿しようかと。

この手の作品(と簡単に一括りにするのもいかがなものかとは思いますが)は、いつも女性の意見が気になるところです。結局のところ、僕ら男側は想像することしかできない。無意識に言動を誤っていたり、正しくない認識に陥っていることもある。
本作に限ったことではありませんが、特に本作については、色んな方の意見を伺いたいです。

一昨年の半ばくらいに書いた感想ですが、お読み頂けると嬉しいです。



瞼を閉じる瞬間


 邦題からも考えさせられる。というよりは、考えるよう仕向けてくれる。原題『NEVER RARELY SOMETIMES ALWAYS』という、時間間隔のような言葉の羅列が、一体何を示しているのかを端的に言い表したかのよう。僕を含めた男性諸氏の一部にとっては、”この入り口が無ければ本作を理解できない”……と、世の女性に思われているからこそ、この邦題になったんじゃないかとすら感じます。


 ついこの間に観に行った映画『プロミシング・ヤング・ウーマン』(←感想文リンク)然り、女性たちの怒りが込められているように見える昨今の一部映画は、共感という意味でこそ女性の方が観易いかもしれませんが、本来観るべきは男の方なんじゃないかと思わされます。

——「もし私が男だったら」—— このセリフがグサッと胸に刺さるに違いない。



 17歳の少女・オータム(シドニー・フラニガン)が、親の同意無しに中絶手術を受けるため、いとこのスカイラー(タリア・ライダー)と共にニューヨークへと旅へ出る物語。オータムが住むペンシルベニア州の法律では、親の同意無しでは中絶することができない。彼女が目にしているTV画面には、男性政治家が 「中絶は(胎児への)暴力だ」と声高に唱えている姿が映されている……。そんな(一部の)男側の声を描いておきながら、オータムが鏡の前で自身を傷付けるような行いをする。安全ピンで鼻にピアスの穴を開けたり、腹部を何度も殴ったり……。

ここが本作の凄い部分だと思っているのですが、「中絶は暴力だ」という言葉の前置きが、一見、字面そのままに受け取られかねないような流れに見えるのに、むしろその逆に感じられたんです。TV画面越しの言葉は、当事者の心情に寄り添えない、 理解できていない意見に聞こえるし、彼女の自傷紛いの行為からは、誰にも相談できない、声を上げても意味が無い、そんな世界に、半ば諦めや絶望を抱えながら生きている姿にも見えてくる。

暗い調光のせいなのか、彼女の大人びたクールな表情のせいなのか。正直な所、明確な理由はわかりません。家には女性軽視・蔑視の発言を繰り返すような父親も居て……とまぁ、挙げれば幾つも出て来るが、親に相談すらできない環境だからこそ、 彼女たちは ”今居る場所を離れて”、NYへと向かう。



 彼女に向かって「メス犬!」と野次を飛ばす男子学生や、セクハラをしてくるバイト先の店長。旅の道中でもナンパ男に声を掛けられたり、地下鉄では他の乗客が居ないことを良いことに自身の陰部を見せつけようとする変質者に遭遇したりする……。
どれもこれも、彼女たちが言い返せない、やり返せない状況や立場だと分かった上での卑劣な行為。 その都度、スクリーンには彼女たちの冷たい表情が映し出され、そのシリアスな雰囲気の中においては、男側の卑劣さや場違いなユーモアが異様なまでに浮き彫りになる。そこには、彼女らの気持ち・感情を想像させる間があり、延いては「想像しろよ」「いい加減に気付けよ」という、強いメッセージがあるんじゃないか……そんなことまで考えさせられる。そしてそれは、オータムとスカイラーの二人だけではなく、世の女性たちからの怒りのような印象にも見受けられます。



 想像する、という点で言えば、オータムが術前に医師から質問を受けるシーンが思い起こされる。幾つかの質問に、淡々と答えていく彼女。「暴力はあったのか」「強要されていないのか」など、質問の毛色が次第に変わっていくこの一連のシーンは、観ていてとても辛かった。

作品を通して、彼女を孕ませた男の存在が全く描かれていないのは、男側が女性の事を何も考えていないことを示しているようにも思えてくる。とても静かな映画である本作に込められた静かな怒り、静かな嘆きを象徴しているかのようなシーン。



 オータムもスカイラーもまだ少女。NYへ泊りの移動、そして手術というのは、資金的には苦しいものがある。旅の道中、簡易的に体を拭く際に「フランス式娼婦の入浴」とおどけていたスカイラーが、資金繰りのために “女” を使う。これまでの短い人生の中でも “女” がどう扱われているかを身をもって知っているはずの彼女が、知っていて尚、オータムの手術の為に心を殺す。

 バスで出会ったナンパ男とのキスシーンは筆舌に尽くし難い。キスをしながら、後ろ手にオータムと手を握り合うスカイラー。当然の如く男側は気付きもしない。まるでロマンチックな一時を過ごしているかのような面でキスを味わう男と、悲しみの表情を見せる彼女らの対比もまた、これまでに述べてきた “男がわかっていない、女性の怒り、悲しみ” を表すシーンの一つ。何も気付かない男性と、それに対して手を取り合う、連帯する女性たちという構図は、まさに今の社会そのものなのかもしれません。



 オータムは瞼を閉じない。全編を通して、彼女が目を瞑るシーンが排除されている。たとえば手術シーンなど、要するに麻酔が掛かって眠りにつく瞬間すらも割愛されている本作。術前から、術後に目を覚ます瞬間への繋ぎ方、その切り替わりがあまりにも粗いことからも、作り手のその意図が窺い知れる。

術後、ようやく彼女の柔和な笑顔がチラリと映り、そして帰路につく彼女が目を閉じ眠りにつくラストシーン……。ようやく閉じたその瞳の意味は、一見すると安心の表情にも見えなくもないけれど、実は違うように思われる。

旅の目的を果たし、帰るということは、また元の場所——人工妊娠中絶が禁止されている、すなわち女性の権利が奪われているペンシルベニア州――に戻らなければならないということ。これはむしろ安心などではなく、これから戻る場所が、彼女にとっては見たくもない世界なのだと語っているかのよう。改めて、”17歳の瞳に映る世界” という邦題に考えさせられた瞬間でもありました。

もうね、思う所があり過ぎてさ……。女性の意見も聴きたいところです。


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