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映画『ラストナイト・イン・ソーホー』感想

予告編
 ↓

R-15+指定



日本での劇場公開は一昨年の年末。この感想文を書いたのもその頃なので、今読むと若干ヘンな箇所もあるかもしれませんが、サッと見直して修正したので、問題ないはず……多分w

もしよろしければ併せて読んで頂けたら嬉しいです!


追体験


 突然ですが、僕は70~80年代のアイビーファッションが好み。あと、詳しくはないけど父親の影響でオールディーズを聴くのも好き(もちろん最近の流行も大好きだけど)。
いわゆる懐古趣味とかレトロ趣味ってやつなんだけど、本作の主人公エロイーズ(トーマシン・マッケンジー)も、華やかだった60年代のロンドンのレトロなポップカルチャーを愛する懐古趣味の女の子。

……とまぁ、そうやって魅力的に輝いていた部分だけを目にして、丸ごとその時代を肯定してしまいがちだけど、当時のその輝きの裏には暗く悲しい側面もあった。そしてそれは今尚、色濃く残っているということを突き付けられましす。

本作にも出てくるセリフですが、
「自分で選んだ」
「自業自得」
などという、男側に都合の良い解釈の、とても身勝手な言葉で、男性による搾取と、そしてそれを仕方ないことのように受け入れてしまっている男性優位社会への怒りや悲しみが伝わってくる映画です。今年(2021年に)観た『プロミシング・ヤング・ウーマン』(←感想文リンク)や『17歳の瞳に映る世界』(←感想文リンク)などにも通ずることを考えさせられました。



 エロイーズが夢の中で、60年代のソーホーにいた歌手志望の女性・サンディ(アニヤ・テイラー=ジョイ)とシンクロするサイコスリラー。最初はサンディを見つけただけなのに、気付けば感覚を共有していく流れの描き方が面白い。サンディの視点で描かれつつも、鏡にはエロイーズが映っていたり、カットが変わったり人影が重なったりする度にサンディとエロイーズが入れ替わったりする。特に鏡の描写が、どことなく今敏監督の映画『PERFECT BLUE』を彷彿とさせるような気もして面白い。

その夢の中でサンディの感覚を追体験してはいるものの、「なんだろうこの状況?」みたいな様子のエロイーズが鏡に映っている。サンディとエロイーズが入れ替わる描写も、”夢の中” という、コロコロ場面が切り替わる流れも相俟って、まるで映画『千年女優』を観ているようだった。

 実は本作では60年代のソーホーを用いるにあたり、様々な60年代ポップカルチャーのオマージュが込められており、監督自身もインスパイアされた作品群を発表している。それでいうと前述の今敏監督作品は入っていないから、オマージュでも何でもなく、紛れもなく、ただの僕の勘違い・思い過ごしでしかないのだけれど……笑。

まぁとにかくここの映像表現が面白いから是非観て欲しいってことです。



 鏡のシーンでいうと、中盤辺りの……(※軽いネタバレになるのでご注意を→)夢を叶えたい女性の気持ちを利用して近付いてくる数多の男たちのせいで、次第に心を擦り減らしていくサンディを、鏡越しから見ていたエロイーズが、彼女を止めようと鏡の向こうから声をかける……が、届くわけがない。
「気付いて」「やめて」と鏡を叩き続け、遂に鏡を破ってサンディを抱きしめる。この鏡を割る、もとい様々な〈壁〉をブチ壊したかのようなシーンがとても印象的でした。決して越えられないはずの境界を乗り越え干渉させるこのシーンは、サンディの経験を共有しているエロイーズがやるからこそ、より一層に印象深くなる。



 エロイーズが持つ霊感みたいな設定のこの特殊な能力は、違う時代や知らない場所の出来事を ”追体験できる” という意味で言えば、ある意味、映画とも似た側面があるとも言えるんじゃないかな。描かれる出来事を映像で眺め、見つめているうちに物語に没入し、登場人物に感情移入していくように……。

じゃあこの映画がどんなことを我々観客に教えてくれるのか。冒頭の話に戻るけど、レトロ趣味・懐古趣味、古き良き時代だと言って楽しんではいるが、そういったものがどういう背景の中で生み出されてきたのか、改めて考えさせられるんです。


 ラスト、エンドロールで(多分だけど)ロンドンの街並みを写した写真が幾つも流れる。ただただ街並みや建物だけが……。劇中で大家のミス・コリンズ(ダイアナ・リグ)が口にしていた「どこの部屋でも人が死んでいる」という言葉のおかげでイメージし易くなったのかもしれないけど、いつも何の気無しに通っている街の色んなところで、これまでに、或いは今でも男性たちによる搾取が起きていると思わされる写真群。

僕は本作をTOHOシネマズ新宿で観たんだけど、映画を観終わって街を歩いている時、(まぁ元々新宿に良いイメージは無かったけど笑)なんだかいつもと違って見えた。自分が男性だから気付いていないだけで、単純に街を歩くだけでも女性にとっては不安や危険、ストレスやプレッシャーが潜んでいるのではないだろうかと。

特に何かされたわけじゃない、タクシー運転手からちょっとしたセクハラ紛いの発言を受けただけで、その後の運転手の視線が恐怖へと変わったエロイーズと同様に……。



 こうやって、昔の事だと片付けてしまいがちなものに対し、”今だに男性による搾取は残っているのだ” と声を上げたかのような内容。

その上で!……めちゃくちゃ面白いんです。ベッドの横の電話や、「夏場は匂いがするから栓を閉めなきゃいけない」等のルールなど、マジで何とも思っていなかったものが伏線としてクライマックスで活きている。他にも、冒頭で流れる音楽の歌詞、壁に貼られた映画『ティファニーで朝食を』のポスターなど、あちこちに潜むオマージュも、ただの背景として見逃すにはあまりにも勿体ない。

そして何よりラストにエロイーズが鏡の前でやった動きは、物語の締め括りとして超素敵だった。様々な魅力が詰まりまくった一本です。


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