見出し画像

映画『プロミシング・ヤング・ウーマン』感想

予告編
 ↓

PG-12指定


過去の感想文を投稿する記事【5】


 昨日投稿した映画『SHE SAID/シー・セッド その名を暴け』感想文の中で、ほんのちょっと引き合いに出した程度ではありますが、本作のタイトルを引用したんです。
なので今日は、映画『プロミシング・ヤング・ウーマン』の感想文を投稿してみましたー。

早いもので、もう一昨年の映画なんですね、コレ。



アンチヒーロー?


 タイトルからも窺い知れる通り、本作の主人公は女性。そんな本作の冒頭シーンが、男共の腰振り映像から始まるというのが面白過ぎる。

「彼奴らに理性的な部分など無い!」

と言い切るかのような毒っ気と潔さが溢れるシーン。「どうせ男なんて」という決め付けが、何故か性的な偏見や差別に感じられない不思議なカッコ良さがあるのも魅力の一つ。本作の中から女性の怒りのようなものが垣間見えるのもその理由の一つなのかな?

私刑、復讐、制裁、報復……。呼称は様々だけど、主人公キャシー(キャリー・マリガン)によって行われるそれらの行為は本作の見所の一つ。劇中でも描かれているが、ちょっとヤバめな雰囲気のある彼女。しかしだからこそ、非常識な手法でもって鉄槌を下す、そんなルール無用な姿にも納得できてしまう。

上手く言えないけど、ある種のアンチヒーロー(?)的な存在なんです。自分で書きながら「ハッ」としたよ。そうか、これはヒーロー映画なんだ!笑



 冒頭のシーン。愚かな男が一人、彼女が待つ蜘蛛の巣にまんまと引っ掛かる。その瞬間に流れ出す重低音と、彼女の鋭い眼光のカットは、まさにヒーローの登場シーン並みのインパクト。ここに限らず、彼女が本性を露わにしようとする瞬間には、低い音が流れたり、 遠くの方で雷鳴が轟いていたりする。ド頭に仕掛けられた重低音によるインパクトのおかげで、こういったギミックの都度、「お、始まるぞww」という期待感が溢れ出す。この〈お約束〉の構成がしっかりしているからこそ、僕のように「きっとこれはヒーロー映画なんだ!」という勘違いを生むしw、だからこそ “お約束が崩される” ことで、また新たな面白さが生まれる。


 要するに、彼女の標的になった輩が痛い目を見るわけなんだけど、その描写が単純な暴力ではないのがミソ。ここで述べる “痛い目” とは、身体的な痛みではなく、精神的なもの。相手がハッと我に返る、現実に気付き恐怖を感じる、そこで終わらせる。とどめも救いも描かれないまま、時間経過で次のシーンへと進んだり、しれっと先へ進む。どこか『さまよう刃』にも似た仕打ちというか、同じ痛みを味わわせるというよりは、恐怖を理解させること。

もっと言えば、そういった描写を省くからこそテンポ良く話が進むというメリットもあるだろうしね。何より男側のほぼ全員が、情状酌量に繋がるチャンスを見事に逸しているからこそ、この展開は面白い。

そして一番は、あのクライマックス。ネタバレ防止のために細かく言えないのが残念だけど、物語の中だけの締め括りではなく、その外の世界——現実世界——にまで繋がっているかのような着地に思えてならない。

#MeToo運動などを想起する人もいたはず。でもどちらかというと、まるで「逃げ切ったと思っているお前ら、まだ終わってないからな?」と言わんばかりの、彼女からのメッセージのようでも思えてしまいます。

「何年も前のこと?」
「若気の至り?」
「今とは時代が違う?」
「隙がある方にも責任がある?」

......はぁ??!怒

……もしかすると本作は、そんな世迷言や男の勝手で潰されてきた “前途有望な若い女性たち” による、怒りの映画なのかもしれません。



 各アワードで脚本賞を片っ端から獲得した本作は、そのストーリー性や展開の面白さ以外にも、撮り方一つで登場人物の心情や関係性など、様々なことが読み取れる面白さもあるんです。
個人的に一番良かったと思っているのは横並びのカット。(……言葉だけで上手く説明できるかなぁ……。写真の引用して良い範囲がわからなくて💦 note用に少しだけ書き換えてあります)

例えばお互いにソファーに座っていたり、向き合って話し合っていたり、シチュエーションこそ違えど、人物が二人、横に並んで映るシーンが幾つもあった。

 まず一発目は、序盤。キャシーが酔ったふりをして男にお持ち帰りされたシーン。画面の中心からどれくらい左右に寄っているかが、まるで二人の心境のバロメーターみたいになっている。
例えば二人並んだ時に、キャシーが左側、男が右側に配置されているこのシーンでは、その気が無い(正確には男側から襲ってくるのを待っている)彼女はソファの左端に座っている状態で、下心まる出しの男は、彼女を追うように、ソファの中心よりも左側に寄って座っている。ソファの、或いは画面の真ん中を軸に考えた時に、明らかに左右で均衡が取れていない位置取り。これだけで、”引いている女性(キャリー)とグイグイ迫ってくる男性”という構図がよくわかる。
ここでの描写がわかりやすかったからこそ、その後のシーンでもこの手法がよく活きていたように思います。こういったシーンが幾つも出てくる。

ある時はキャシーが男を威圧気味に追い詰め、左右のどちらか一方に寄っていることもあった。そしてそんな描写がある中で、唯一均衡が取れている画角で映っていたのがライアン(ボー・バーナム)。 たったこれだけで、事細かな説明など無くとも二人が相思相愛であることが窺い知れる。



 しかしながら、この手法が一番活きていたのは、物語の核心に迫るとあるシーン。この瞬間に、キャシーが何と対峙しているかは是非とも実際にご覧になって頂きたいところだ。

マディソンから渡された “あるもの” が机の上(画面の中心)に置かれ、それを目の前にすぐに動けずにいるキャシーは、画面の端に座っている……。

ああ!このままだとネタバレしちゃいそう!笑

語りたいことが多過ぎる。とにかく、凄く面白かったです。


#映画感想 #映画レビュー #サスペンス #映画感想文 #プロミシング・ヤング・ウーマン

この記事が参加している募集

#コンテンツ会議

30,711件

#映画感想文

66,387件

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?