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映画『ネクスト・ゴール・ウィンズ』感想

予告編
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最近サボってたけど久しぶりにまとめて映画感想文投稿しようかと④



タイカ・ワイティティを楽しむ笑


 サッカーの代表戦史上最悪の「0-31」という記録的大敗を喫した米領サモア代表チームの実話を基にした本作。
 僕自身はサッカーについてあまり詳しくないのですが、本作の主人公・トーマス(マイケル・ファスベンダー)は、きっと多分、とても有能で、そしてその能力に負けず劣らずプロ意識も高くて厳しい鬼コーチということなのでしょう。
 そんな彼が、米領サモアの代表チーム監督に就任する羽目になったのは、米領サモアの方々には申し訳ないのですが、やはり左遷のような雰囲気がプンプンと漂ってきます。少なくとも、序盤のうちはそんな描かれ方が為されていました。


 はじめのうち、サッカーに対する姿勢や勝利を求めるプロ意識等々、何もかもが異なって見えてくる環境は、彼にとっては苦痛以外の何物でもなかったかもしれません。けれど、次第に彼という人間を変えていく。チームを変えよう、救おうとやってきた者が、逆に救われる。そんな温かい物語でした。

 弱小チームの立て直しを任された彼が、一癖も二癖もあるメンバー……というかその土地の人々、文化、慣習、その他諸々に驚愕し、困惑している様を眺めていると、どことなく『だれもが愛しいチャンピオン』(感想文リンク)や『シャイニー・シュリンプス!』(感想文リンク)などの物語を彷彿とさせられます。自分自身では気付かぬまま、制御できないほど精神的に疲弊していた主人公が、新たな場所、新たなコミュニティの中で自分を見つめ直し、変わっていく、或いは成長していくというあらすじは、たしかに近しいものがあるかもしれません。


 そんな物語が、タイカ・ワイティティらしさ満点のユーモアあるテンポの良い語り口で描かれていきます。実は冒頭とラストで監督本人が出演し、ストーリーテラー的な役割を担ってくれている本作。こういう演出によって生まれた語り部感というか、俯瞰的な見え方もまた良い。とある試合の行く末を、ダイジェスト的に回想する形で描くシーンがあるのですが、これもまた監督本人出演による語り部感との相性が好いし、ダイジェスト的だからこそテンポも良い。

 そんなテンポの良さが光る一方で、どうでも良さげなユーモアがあちこちに散りばめられていく笑。
 序盤の、プロジェクターが投影する文字が「逆だ」「裏表だ」といった小さなおっちょこちょい。「1ゴール……」といって余韻に浸らせるかと思わせてからの、しつこいくらいの「1ゴール」連呼……etc.
 字面だけでは何のことかわからないかとは思いますが、テンポの良い展開との緩急をつけるユーモアの数々が、本作の味わいを柔らかくまろやかにしてくれていたんじゃないかな。


 実のところ、本作を構成する要素だけを抽出してしまえば「感動」だとか「希望」「絆」だなんていうキッチュなワードばかりが目立ってしまいそうなものの、このタイカ・ワイティティ監督テイストのおかげで、むず痒さなど無しに、とても気軽に観られてしまうのが本作の良いところ。
 その他、実話を基にしているとはいえ、予告編での「※だいたい真実」というテロップや、冒頭の監督本人による「ちょっと盛っている」発言も然り。この明るい雰囲気こそが本作最大の魅力なのかもしれません。
 



 一方で、(ネタバレ回避のために詳細は割愛しますが)トーマスが抱えていたものは暗いものでした。お馴染みのユーモアだけで片付けるには不謹慎に感じられてしまうほどに。

 ご覧になった方ならお分かりの通り、序盤のうちに描かれるトーマスという人間像からは、あまり柔らかい印象は見受けられません。サモア行きを告げられるシーンでの立ち振る舞いも然ることながら、たとえば飛行機に乗っている際、決して肘掛けを譲ろうとはしなかったり、キャスターが壊れているにも関わらず頑として持ち上げようとはせず、階段だとかもお構いなしにキャリーケースを引きずりながら移動していたり……。意地っ張りというか、頑固というか。

 けれど、そんな偏屈で破天荒な男の心を解きほぐし、終いには代表チームの一員として絆(ほだ)してしまうまでに至る。本作で描かれること——米領サモアでの日々、島の人々の暮らし、交流など——の数々が彼に与えたものはとても大きい。

 とはいえ、明確に何かしらを彼が与えられたり教わったりしたというわけではありません。けれど、島での暮らしや人々との触れ合いの中で学べたことがたくさんあったように思えます。


 ——「たった1ゴールが欲しい」——そんな願いから始まった物語ではありますが、本作は、勝利だけが幸福への道だとは描いていない。サッカーに限らず、人生においても同様。幸福は、場所や形を選ばない。そんなことを教えてくれていた気がします。トーマスの元妻・ゲイル(エリザベス・モス)とのことも、第三の性を持つジャイヤ(カイマナ)が示してくれたことも、本作においては同様の気付きへと導いてくれる要素。幸福の形は一つだけじゃないし、損失があるからといって幸福になれないわけじゃない。

 

 繰り返しになりますが、これらもまた、タイカ・ワイティティ監督テイストのおかげで説教臭さというか綺麗事を突き付けられている感じが無くなっていく。試合そのものも、他チームとの敵対描写なんかも深刻に見せない。クライマックスだって、“主を介してのやり取り”という体での言葉を用いることで、しんみりさせない、湿っぽくならない。鑑賞後も笑顔でいさせてくれる、とても楽しい映画でした。
 
 どうやらこの物語はドキュメンタリー映画にもなっているみたいですね。今度観てみようかな?。


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