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映画『記憶にございません!』感想

予告編
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 本日7月27日は「政治を考える日」です。

 半世紀近く前の1976年のこの日、当時の首相・田中角栄氏がロッキード事件で逮捕されたことを受け、定められたんだそうです。
……ほんと、ちゃんと考えなきゃいけないことだらけですよねー。。。

 というわけで本日投稿するのは、映画『記憶にございません!』の感想文です。政治コメディで政治を考えるのもどうかと思いますが笑、こういうのも良いキッカケになるかもしれませんよね。


もしかするとこの言葉を使う奴は漏れなく悪党なのかもしれない


 作品のド頭、黒バックに注意書き文のみが映し出される……。映画『翔んで埼玉』感想文の中でも述べた気がしますけど、この『ビー・バップ・ハイスクール』的な手法(勝手にそう呼んでいるだけ)というか、『高校与太郎狂騒曲』の冒頭テロップを彷彿とさせる始まり方は、邦画でしか見受けられない類のコメディならではの世界観を一瞬で構築してくれる印象です。

 この文言のテイストは、たとえ大真面目でも大ボラでも悪フザケでも何でも構わないというのが便利だという認識でしたけど、本作になって初めて感じたのは、内容の如何に関わらず断定の形で言い切ってしまった方が面白いということ。黒澤明監督の『生きる』の冒頭に流れる「この男は死ぬのだ」というナレーションでも思いましたけど、強気なその語り口は、その後に控える物語の全容どころかベクトルさえ掴み切れていない観客にとっては否が応にも納得せざるを得ない力を持っているし、殊にそれがコメディともなれば「そんなワケねーだろ」と言いたくなる物語や展開のひとつひとつを許容し、リアリティや整合性さえも無視し、スクリーンを飛び越え観客を味方につける魔法の演出へと変貌する。無根拠のまま大鉈を振るうかの如き様は、(一緒にして良いのかビミョーだけど)なんだったらバカボンパパの「これでいいのだ!」にさえ匹敵するパワーがあるかもしれません笑。



 久っしぶりに面白い話だと思いました。「記憶にございません」という言葉の元ネタは小佐野賢治さん?とやらですか(←調べたら名前が出てきたのですが、自分には彼が何者なのかサッパリでした)。他にも色んなお偉いさんが言っていた気もするしね。ただ、言い訳の常套句として悪名高かったはずのこの言葉が、物語の始まりの為だけに機能したのではなく、この言葉そのものがちょっとした汚名返上(?)を為した上で物語を終局に向かわせるとは想像だにしていませんでした。タイトルが映画の起承転結にしっかり結び付いていた本作は、その脚本だけでも観に行く価値があると思います。



 無論、「冗談ですよ?笑」という暗黙の了解というか大前提があるからこそ、政治家をコケにする本作のような映画が撮れるわけですけど、その暗黙を承認させている工夫の数々が面白い。過去の名作を観ると、政治色が強い作品の内、良作・傑作等と呼ばれている映画は漏れなく、ミクロ・マクロを問わず世上の声をしっかりと映し出している気がします。

 それに対して本作はと言うと、政治の話でありながらそういった描写があまり見られない(さくらんぼの件ぐらいでしょうか? けれどそれも物語を着地させる為の一つのツールでしかなかった印象)。窓が少ない(≒外が見えない)部屋や廊下、車の中で交わされる密談……。窓が見えたと思っても超高層ビルだから人々の顔は見えない……。外食の時ですら貸し切りで他に客は居ない……。物語の舞台である政治の世界を露骨なまでに世間と隔絶した空間に仕立て上げることで、現実世界とはかけ離れた “架空の話” っぽさが生まれている気がします。世界観や登場人物のせいで一見、政治色が前面に出ているように見えなくもないですが、本作の本来の色味としては、実は政治色があまり感じられない。だからこそ “冗談” ——コメディ――としても観られるし、モデルとなっている(?笑)政治家の先生方も楽しめる。誰とは言わないくても「こういう奴、居たよな」と思える、いわゆる国民が為政者に対して抱くめちゃめちゃ偏見に満ちた懐疑的パブリックイメージをコテコテに肥大化させたような登場人物のオンパレードは、納税者なら思う存分に笑ってやれば良い。目が泳いでいる姿も、一人では何もできない、決められない様も、臆することなく為政者をコケにできる滅多に無い機会ですしね。いやむしろ納税者であれば、指差してコケにして良い権利があって然るべき笑

 そしてだからこそ、次第に真っ当な総理へと変わり始める主人公の存在が周囲の政治家と一線を画し、異彩を放ち出す。優柔不断な心情を反映させたように揺れていたカメラが、主人公の変化に伴って次第に安定していくのも素敵な手法だと思います。



 しかしまぁ、これらの仕掛け——国民と為政者の乖離という構図による錯覚——すら政界への揶揄、皮肉の類であるならば、三谷幸喜という男は相当の大悪人なのかも笑


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