見出し画像

#40 多様な自然の顔を見る

男を大きく分けると、晴れ男と雨男に分けられる。
しかし、僕はいずれにも属さない。
僕は友人界隈ではこう呼ばれている。

台風を呼ぶ男、だと。

それはつまり雨男じゃないかという意見は不要です。

台風を呼ぶ男

2020年、埼玉にグランピング施設ができた。
フィンランドの雰囲気を楽しむことができるノーラ名栗という施設である。

その情報を得た僕と親友二人は、2021年6月に行くことに決めた。
当時はコロナ禍真っただ中だったこともあり、その状況も心配ではあったのだが、幸い6月は多少落ち着いた時期だった。

状況は整った。

いざ、埼玉のフィンランドへ!!

チェックインは27日の15時だから……あれ、直撃?

やっちまったーん。

気概も空しく、僕は台風を見事に呼んでしまったのである。

とはいえ、それで残念がる親友たちではない。

「ああ、さすがですなぁ」としみじみ思うだけなのだった。

ちなみにこの前に行った旅行も、その後に行った旅行も、
1日目はどちらとも台風が直撃した。

この経験から、僕は今でも旅行前の天気予報には戦々恐々としている。
その時期の僕にとって、週間予報ほど怖いものはないのである。

台風に負けず、いざ緑の中へ

当日はやはり雨だった。
だが、言うほどに強くはなかったので、僕らはグランピングを決行することにした。
電車とバスを乗り継いで、約2時間。

バス停から見た施設
見ての通り、地面がしっかり濡れている

この施設にはバーベキューとサウナ、そしてグランピングができるエリアに分けられている。
カードキーで入れるグランピングエリアへ入ると、
そこには緑豊かなフィンランドが広がっていた。

テントとバーベキュー小屋が1つの敷地になっている
写真で見るよりとても大きく広い
空が灰色なのが残念だが、緑がとても綺麗
雨に降られながらでも、心が癒される風景

雨音を聴きながらテントで寝そべる

僕らは到着するや否や、テントの中へと足を踏み入れた。

とてつもなく広い! ベッドも大きくふっかふか!

テントの中とは思えないほど充実した空間が、そこにはあった。
写真の通り大きいベッドはもちろん、冷蔵庫やエアコンも完備されている。
なので、快適な気温の中で、ゆっくりすることができるのだ。

台風による気圧のせいだろうか、僕らはベッドに横になったとたん、睡魔に襲われてしまった。
せっかく山奥に来たけれど、外は雨。散策もできない。

ごめんよ、皆。僕が台風を呼んでしまったせいで。

そのまま僕らはしばし眠ることにした。
雨は嫌だったけど、テントにぶつかる雨音が心地よく、そのまま気持ちのいい夢の中へと入っていくのだった——。

ザザー……ザザー……

サァー……サァー……

ポツポツ……ポツポツ……

ピチャピチャ……ピチャピチャ……

気づけば2時間も寝てしまっていた。
そろそろバーベキューの時間だと僕らは起きると、眠りに入ったときに鳴っていた雨音がピタリと止んでいることに気が付いた。

僕らは一斉に外へと出る。

それまでずっと降っていた雨が止んでいたのだった。

宴からの静かな夜へ

雨が止んだ後は男三人大宴会。
酒を呑み、肉に噛み付き、合唱もした。
雨音も決して悪くないけれど、やはり友といるときは晴れがいい。

わらじのような肉
これにがっつく男三人はまるで狩人のようだった
闇の中に灯る火というのは、なんとも心を落ち着かせる
夜のテント内
チルアウトな雰囲気の中で語り合う三人……
となりたかったが、酔っぱらってグダグダ。それもまたよし

この施設は22時以降は「クワイエットタイム」となり、起きててもいいが、周りの環境に配慮して静かにすることがルールになっている。
そのルールに則り、僕らは静かにこの空間を楽しむうち、ゆったりと眠りに落ちるのであった。

太陽と共に朝を迎える

僕はもともと朝にとてつもなく強い。
なので、5時に起床し、一人外で読書をすることにした。
そのとき読んでいたのは乃南アサさんの『六月の雪』だった。6月だからという安直な理由で選書した本だった。

だが、本に目を落とすより先に、僕は山の方へ視線を奪われた。

山の向こうに、太陽が見える。
毎日僕らを照らしてくれているのに、
僕は今まで太陽の顔を、まじまじと見たことがなかったのに気づいた。

だから、見たかった。
少しずつ、少しずつ、太陽が僕に顔を向けてくれる。

おはよう

今までの人生、両親や猫、友人達と最初に顔を合わせる朝を迎えてきた。
しかし、この日だけは違った。
生まれて初めて、最初に顔を合わせた相手が太陽である朝になったのだ。

友達も、周りの人たちもまだ寝静まる朝に、
僕は、太陽の顔を見ながら、心を強く震わせていたのだった。

自然のあらゆる顔を見た旅

この観光地に行った、あれを食べた、これを食べた……
というような旅ではない。
派手か地味かでいえば、地味かもしれない。

けれど僕にとって、これが忘れられない旅の一つだ。

なぜなら、自然のあらゆる顔を見ることができたから。

荒ぶる風。
打ち付ける雨。
重く厚い雲。
そして、燦々と輝く太陽。

身一つでそれを感じる事の出来たたった数時間。
3年以上経った今でも、僕の体にも心にもしっかりと刻まれている。

雨に濡れた道で出会った可愛い友達
君も太陽と一緒に朝を迎えたんだね

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?