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はちのみつうまくいかないこともある

 現代川柳と400字雑文 その80

 俗に、はちみつはのどにいいとされる。わたしが脚本と演出を務めた舞台公演の楽屋に、大きなボトルのはちみつが置かれていたことがあった。絶叫に近い発声が多くあった作品で、のどのケアが必要と考えた誰かが用意したのだろう。やがて、ボトルを掲げて口を開け、のどにはちみつを直接流しこむ者たちが現れた。Uさんもそのひとりだった。Uさんは演出の指示に全力で応えようとしてくれる、頼りになるまじめな役者で、だからこそ、のどへのダメージも人一倍だった。本番前に本番後に、はちみつを直接流しこむUさんの姿を見かけるたび、申し訳なく思っていた。ただでさえ舞台公演は、ことに俳優は、体を痛めたり、痩せてしまったりもする、体力的にハードな役割である。のどを酷使させてしまい申し訳なかった。そして公演最終日、わたしは見た。うっすら太ってつやつやしたUさんの姿を。そこにはまじめすぎて太る役者がいた。

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