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ダイダロスの子

【戯作エンヴォイ】

envoy
西洋の詩型のひとつ
作品の末尾に記される44連の結び
または貴人やパトロンへの挨拶・返歌



『イカロスへの挽歌』
ハーバート・ジェームス・ドレイパー (1898)


わが生の意味 なんなりと
いつのころより 思いしを
古きにたずね 渉猟す
韋編三絶 はてしなく

憧れ抱き 真善美
若気を賭して 追いすがり
はや廿年はたとせに なりぬべし
光陰如箭こういんじょぜん 游子吟

目にし耳にし 偽悪醜
嫌だいやだと 避けたくも
なまじかわせぬ ソサイエティ
汚穢汚濁おわいおじょくが 渡世なり

デカンショ、ルソオ はたデリダ
ルウトヴィッヒが 笑ってる
愛より差異と 笑ってる
それならそうと 早く言え


いまや四方は とざされた
のっぺり高く 隙間なく
重畳するは よもやまの
「生活」という 拷問具

足掻いてみれば みるほどに
やすりのように 肉削がれ
身じろぎひとつ できやせぬ
ここなるゼロの どまんなか

ふりさけ見れば 蒼穹は
楕円軌道に 縁取られ
日輪ひとつ 翳りなし
嗚呼あれなりや あれなりや

仰ぎ見るだけ 飛べやせぬ
地に足つけて 根を張って
土へと還る さだめなり
ついぞ届かぬ 夢ロマン


翼もがれし イーカロス
工人の父 そのわざart
天をめざして 翔け上り
あはれ墜落 人の子よ

わずらわしきは 塵労の
ホライズンタル水平の この大地
あきたりなしや メトニミイ
ゆくあてなしや 退屈や

あらまほしきは 天上の
ヴァーティカル垂直のたる あの空よ
至高の方よ メタファーよ
よだかの星が ある方よ

六尺五寸 至れるは
いつか魂 くびき抜け
昇天せしむ その時か
ただその時を 待つのみか


手枷じゃらじゃら 軋ませて
今日も湯船にゃ 浸かれずに
足枷じゃらり 引きずって
明日も労働 明後日も

描きつづける ニヒルの輪
行って帰って また行って
また帰るその 繰り返し
堂々めぐり 終わりなし

もはや後には 引けぬ年歯とし
こいねがわくば イーカロス
若き御魂が 宿らんか
らばひと飛び 踏み切らん

操、康成 芥川
高野悦子も キミタケも
「曰く不可解」 合唱す
ダイダロスの子 われとても






『イカロスの墜落のある風景』
老ピーテル・ブリューゲル (c. 1560)






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