![見出し画像](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/67214918/rectangle_large_type_2_0d0a37621bab1cf303fab95005809f07.png?width=800)
【随筆訳】 神秘と創造 (1913)
20世紀イタリアのシュルレアリスト、ジョルジョ・デ・キリコによる、描くこと/書くことへの激励。
![](https://assets.st-note.com/img/1638797536419-CmmJ14O3W2.jpg)
ある作品を真に不滅のものとするためには、「人間」から逃れねばならない。論理と常識こそが邪魔なのだ。これらを乗り越えた先には、子供時代の夢と幻の世界がある。
芸術家は、その心の最奥の深淵から出発しなければならない。鳥の声にも葉のかすれ音にも邪魔されないところ、耳にするのは無価値なものだけだ。目を閉じれば幻が鮮やかに現れる。
親しみのある事物、誰かの考え、一般的なもの、よくわかっているものは、ことごとく締め出そう。誰もが知るイメージなんざ、さっさと捨ててしまえ。それよりも、自分自身を信じることだ。
ひらめきとは、それそのものが重要なのだ。たとえ無意味なものでも、主題さえなくても、論理的にまったく意味をなさないものでも、それそのものが大事なのである。生みの苦しみや楽しみを掻き立てて、一切れのパンよりも創作へと向かわせる衝動、そのひらめきこそが。
![](https://assets.st-note.com/img/1638797104362-91XdMwED5J.jpg)
ある晴れた冬の日、ヴェルサイユは静かで神秘的で、物問いたげだった。石畳、柱廊、窓、あらゆる事物が確かな魂を宿しているようだった。大理石の彫像は透き通った空気の中に立ち、凍てついたような淡い日の光を浴びて、完璧な音楽のようだった。窓辺で小鳥が囀っていた。
そのとき私は、「なにか奇妙なものを創造せよ」と急き立てる声を聞いたのだ。神々よりも奇妙なものを創造してみせよ、という声を。
人間の最も素晴らしき感覚である「直感」は、宇宙の不合理を示す証だ。もともと人間は、神秘と不気味に満ちたこの世界を、一歩また一歩おそるおそる震えながら踏みわけていたに違いない。
完
"Le Mystère et la Creation". London Bulletin. no.6 (1938) p.14
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?