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【随筆訳】 神秘と創造 (1913)

20世紀イタリアのシュルレアリスト、ジョルジョ・デ・キリコによる、描くこと/書くことへの激励。


1936年撮影


 ある作品を真に不滅のものとするためには、「人間」から逃れねばならない。論理と常識こそが邪魔なのだ。これらを乗り越えた先には、子供時代の夢とヴィジョンの世界がある。

 芸術家は、その心の最奥の深淵から出発しなければならない。鳥の声にも葉のかすれ音にも邪魔されないところ、耳にするのは無価値なものだけだ。目を閉じればヴィジョンが鮮やかに現れる。

 親しみのある事物、誰かの考え、一般的なもの、よくわかっているもの﹅﹅﹅﹅﹅﹅﹅﹅﹅﹅は、ことごとく締め出そう。誰もが知るイメージなんざ、さっさと捨ててしまえ。それよりも、自分自身を信じることだ。

 ひらめきとは、それそのものが重要なのだ。たとえ無意味なものでも、主題さえなくても、論理的にまったく意味をなさないものでも、それそのものが大事なのである。生みの苦しみや楽しみを掻き立てて、一切れのパンよりも創作へと向かわせる衝動、そのひらめきこそが。

『不安を掻き立てる詩神たち』 (c.1916)

 ある晴れた冬の日、ヴェルサイユは静かで神秘的で、物問いたげだった。石畳、柱廊、窓、あらゆる事物が確かな魂を宿しているようだった。大理石の彫像は透き通った空気の中に立ち、てついたような淡い日の光を浴びて、完璧な音楽のようだった。窓辺で小鳥がさえずっていた。

 そのとき私は、「なにか奇妙なものを創造せよ」と急き立てる声を聞いたのだ。神々よりも奇妙なものを創造してみせよ、という声を。

 人間の最も素晴らしき感覚である「直感」は、宇宙の不合理を示す証だ。もともと人間は、神秘と不気味に満ちたこの世界を、一歩また一歩おそるおそる震えながら踏みわけていたに違いない。




"Le Mystère et la Creation". London Bulletin. no.6  (1938) p.14







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