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ファイナンス(企業財務)の基本㊱:「起業のエクイティ・ファイナンス」を読んで、大切そうなことをまとめてみた

起業のエクイティ・ファイナンス(磯崎哲也 著)を読んだので、自分にとって大切そうなことをメモしてみました。

この本は、以前noteにメモした「起業のファイナンス」と同じ著者です。

今回、この本で特に面白いなと感じたところや、自分にとって大切なところをメモしてみました。もし、自分のまとめ(メモ)をみて「この本を読んでみようかな」と思ってくれる人がいたら嬉しいです。
※ このnoteのまとめ(メモ)には、自分の解釈が多分に含まれております。


序章:劇的に変化する日本のスタートアップ生態系

成長の決め手はインセンティブ

「平成30年間の世界時価総額ランキングの変化」において、トップ50に名を連ねるようになった企業と、そうでなくなった企業の差は「企業価値の向上に連動するインセンティブが与えられていたか」であると筆者は考えている。すなわち、「企業価値を大きくするのに貢献した人には、それに見合った経済的リターンがある、という仕組みを導入した企業の企業価値は伸びた」という極めてシンプルな話であると考えている。

エクイティ・ファイナンスは銀行から融資を受ける代わりに株式で資金調達する「資金調達の」一種である、と理解している人は多い。一方、それは単なる資金調達の手段ではなく、スタートアップ関係者を動かす「経済的インセンティブ」としての側面があることを認識するも重要である。

何がスタートアップに人を惹きつけるのか?

創業間もないスタートアップは「これから採用する」人によって構成される。

これから採用される人を惹きつける直接の要因は「その会社で自分の成長が期待できるか」「チャレンジしがいのある仕事か」などである。

しかし、だからと言って「会社の目的が高尚なのだから低賃金で働け」と言っても人を集めるのは難しい。すなわち、会社を成長させる最大の要因である「超優秀な人」を集めるには、その優秀さに見合った「経済的リターン」を準備することが必要になる。

事業や数字よりも「組織構築(ヒトの持つべき考え方)」が重要

優秀な人を大量に呼び込んで、組織としてまとめていけるスタートアップは間違いなく成長する。

従来の日本企業では、もし自分より優秀な人を連れてきたら、自分は用済みになって居場所がなくなってしまう。しかし、自分よりも優秀な人が担当になって企業価値が上がるなら、その方が経済的には有利になる。

すなわち、「自分がお山の大将でいたいという煩悩のせいで、未来ある会社の企業価値が上がらない」といった事態は避けるべきである。

そして、この事態を避けるためにも「自分は退いても組織のためになることを考えることで、その人自身にも大きな経済的メリットが出る」というエクイティの仕組みを活用することは有効である。

※ 上記メモ以外に、本章には現在のスタートアップを取り巻く環境(日本、米国)が書かれていました。

第1章:創業時から考えるべき資本政策の注意点

なぜ資本政策が重要なのか?

資本政策とは「資金調達や株式公開などを考慮して、必要な金額が調達できるか、公開時の持株比率は妥当な水準かなどを考慮する戦略や計画のこと」である。具体的には、下記2点を考える。

  • どのような株主に、いくらの株価で、何株分の株式を割り当て資金調達をするか

  • どの従業員に、どのくらいのストックオプションを割り当てるか

そして、なぜ、創業期であっても資本政策を考えることが重要であるかというと、「資本政策は後からやり直すのが非常に難しいから」であり、それにもかかわらず、「創業期がたいてい一番、資本政策に関する理解が乏しいから」である。

株式以外の資金調達

昨今、スタートアップ の資金調達方法が増えてきた。ここで2点紹介する。

  1. クラウドファンディング
    一般の人にもわかりやすい消費者向けの事業であれば、活用できるかもしれない。一方、高度な専門技術を使ったスタートアップやto Bビジネスではあまり向かない。

  2. 資本性ローン
    日本政策金融公庫の国民生活事業が、資本性ローンというものを提供している。スタートアップから見るとこれは借入金であるが、「元本を長期間返済しなくて良い」「創業者その他株主の持分が希薄化しなくて済む」ため、シード・アクセラレーターやベンチャーキャピタルの投資とも相性が良い。

※ 上記メモ以外に、本章には創業時のエクイティ・ファイナンスの意義などが詳細にが書かれていました。

第2章:シード段階の投資実務

シード期に発生しがちな問題

シード期のファイナンスを普通株式で行うと、往々にして「エンジェル投資家やインキュベーターの持分比率が高過ぎ問題」が発生する。この問題は、バリュエーションの難しいシード期だと、特に発生しやすい。

※ 上記メモ以外に、本章にはJ-KISS(日本のconvertible equityのデファクト・スタンダード的存在)の仕組み・概要などが書かれていました。

第3章:優先株式を使った投資実務

優先株式の活用

従来、日本のベンチャー投資に使われてきた株式は、ほとんどが普通株式出会った。しかし、シリコンバレーをはじめとする日本以外のベンチャーキャピタルがスタートアップに対して投資する場合には優先株式(preferred stock)が使われている。

優先株式とは「普通株式とは異なる条件や権利を付した種類株式のうち、普通株式に比べて、剰余金の配当を優先的に受ける、あるいは残余財産の分配を優先的に受ける、あるいは両方について優先的に受ける、という権利をもつ株式のこと」である。

「preバリュー」と「postバリュー」

バリューエーションには、「preバリュエーション」と「postバリュエーション」がある。

preバリュエーション
preバリュエーションとは、資金調達する前のバリュエーションのこと。
一般的なバリュエーション計算方法では、preバリューを算出している。
(バリュエーションというときは、preバリュエーションを指していることが多い)

postバリュエーション
postバリュエーションとは、資金調達後のバリュエーションのこと。
postバリュエーションの計算方法は、下記となる。
企業価値 = 発行済株式総数 × 発行価格(株価) + 資金調達額

※ 上記メモ以外に、本章には優先株式の法的取り扱いなどが詳細に書かれていました。

第4章:投資の契約実務

なぜ、投資の際に契約を結ぶのか?

スタートアップは基本、やってみないとわからないことだらけなので、思い描いていた理想的な道筋でものがとが進むとは限らない。

そういった状況下において「もし、うまくいかなかったときにどうするのか」について、企業かと投資家との間で目指すところを明確に合意しておいた方が、金銭的、心情的なトラブルになりかけた時もうまくいく可能性は高まる。これを果たすのが「投資契約書」の最大の役割のひとつである。

投資契約書の全体像

まず、スタートアップが投資を受ける際に締結する主要な契約書には、以下のようなものがある。

  • 投資契約書(株式引受契約書)
    投資家が投資をするにあたって、発行会社(スタートアップ)および経営株主(通常は創業者)と締結するもの。主として、発行会社や経営株主が投資の前提となる事実が真実であること表明・保証して、投資家がいくらの金額を投資して何株を取得するか、といったことを記載する。

  • 株主間契約書
    発行会社・経営株主とその他の株主間で締結するもの。主に、会社のガバナンス等の枠組みについて決める。

  • 分配合意書
    全株主間で締結するもの。買収の場合にも、優先株式の精算の条項と同様の分配が行われることなど、主に経済的な側面のルールを定める。

※ 上記メモ以外に、本章には投資契約時に考えるべき論点などが詳細に書かれていました。

第5章:リストリクテッド・ストック

リストリクテッド・ストック(Restricted Stock)とは

リストリクテッド・ストックとは、譲渡等について何らかの制限がついた株式のことである。2014年以降、リストリクテッド・ストックに関して、非常に大きな制度上の転換が2つあった(下記)。

  1. 「お金を持っていない人」に対しても株式が発行できるようになった
    2016年に経済産業省から公表されたレポートにて「役員に対して金銭報酬債権を付与し、その金銭債権を現物出資して株式を発行する」という方法が提示された。これはすなわち、「ボーナスを出すことにして、現金を全く動かさずに株式を発行して良い」という、革新的な制度転換を意味する。

  2. 一定の要件を満たす「特定譲渡制限付株式」については、課税上「優遇」されるようになった
    税法についても、1と足並みを揃える形で改正が行われた。
    ただし、2の「優遇」は、スタートアップが用いると逆に「マイナスに作用する可能性がある」ため、注意が必要である。ここでの「優遇」とは、「企業の役職員が株式を受け取ってから、譲渡制限がかかっている間は課税されず、譲渡制限が外れた時点で課税される」というものである。スタートアップの場合、株式の受取り〜譲渡制限が外れるまでの間に、企業価値(株価)が数十〜百倍になることを志向するため、その時点で課税されるのは非常に厳しい状況となってしまう。

よって、スタートアップにおいては上記の「1:現金なしで株式発行できる現物出資」は有難く活用させてもらうことを検討し、「2:税制の優遇」は要件に該当しないように設計するのが良い(要件詳細については、書籍に記載あり)。

資本構成の是正

スタートアップ向けのリストリクテッド・ストックは、もちろん「幹部へのインセンティブを付与したいが、ストックオプションだと少し量が多すぎる/潜在的株式比率が高まりすぎる」といったケースでも使えるが、経営陣の持株比率に対して外部株主の比率が高すぎる場合の是正やMBO(マネジメント・バイアウト)に応用することもできる。

※ 上記メモ以外に、リストリクテッド・ストックを使う場合の具体的スキーム、資本構成是正の具体例、ストックオプションで資本構成是正する場合に考慮すべきポイントなどが書かれていました。

第6章:スピンオフ、MBOを成功させる

独立したスタートアップと社内ベンチャーの違い

大企業などが行う「コーポレートベンチャー」や「社内ベンチャー」には、次のような特徴がある。

  • 子会社根性が芽生える
    例えば親会社等が51%、95%といった株式を保有していると、それは法律や会計上の呼び名としては「子会社」ということになる。すると(本当はそんな必要がない場合であっても、)子会社は親会社にお伺いを立てないと事業ができないといった思い込みが発生し、それが事業推進の足枷になる。

  • exitのハードルが上がる
    「子会社」は、上場するのが難しくなる。法律や証券取引所のルールは子会社上場を禁止しているわけではないが、子会社上場の審査は独立したスタートアップに比べて厳しくなり、特に「親会社から独立しているか?」「親会社との取引で、利益の付け替えが行われる可能性はないか?」といった点が入念にチェックされることになる。

    また、この場合の子会社上場の審査は、特定の会社に50%超を保有されている場合だけでなく、持分法の対象となる20%以上の株式(役員派遣や重要な契約がある場合などには15%以上)を保有している場合まで対象となる。

    よって、「将来、上場を目指すぞ」と思っている場合には、上場時までに「親会社」の持株比率を15%未満となるような資本政策を考えるのが望ましいことが多い。

  • 意思決定スピードが遅くなる
    「子会社」であっても「親会社」のトップにスピード感があり、そのトップと直に繋がって意思決定できるような場合には弊害はないが、そうでない場合には、意思決定が遅くなってしまう傾向がある。その状況下では、コーポレートベンチャー(子会社)のリーダーは「ただの中間管理職状態」となってしまい、変化が激しい業界や競争が厳しくて意思決定の速いスタートアップ が活躍するような業界では勝つのが難しくなる。

  • 内部統制の負担が大きくなる
    コーポレートベンチャー(子会社)が上場企業の子会社であると、連結決算や内部統制の負荷が大きくなる。これは「本業」に集中すべき創業期・成長期のスタートアップ的な企業にとっては事業推進の足枷となってしまう。

「コーポレートベンチャー」は、上記のような「難しさ」と向き合いながら、適切な方向に事業推進していく必要がある。そして、「最初に親会社等がほとんどの株式を持ってしまったが、このままでは追加の資金調達や上場ができない」「経営陣のインセンティブが不足する」といった場合には、資本政策を是正する必要が出てくる。

そのための手段として、経営者が中心となって持株会社を設立し、その会社が既存の運営会社や事業を買い取るMBO的な方法が検討対象となる。

※ 上記メモ以外に、MBOスキームの詳細などが書かれていました。

第7章:議決権の異なる株式を用いる「dual class」

dual classとは

dual classと呼ばれる資本政策は、例えばClass A普通株式とClass B普通株式という2種類の普通株式を発行するものである。通常、Class A普通株式は1株1議決権で、Class B普通株式には10倍の1株10議決権といった議決権を割り当てる。

経営陣などの上場前からの株主がClass B普通株式を保有し、Class A普通株式を上場して一般株主に売り出すことで、経営陣が全議決権の過半数を超える絶対的な多数を確保して、買収などを心配することなく、経営に専念できるようにする。

なお、上記は「米国版dual class」であり、「日本版dual class」は少し異なる(日本版dual classについても、書籍に記載あり)。

dual class方式は、株主の経済的権利はそのままで、上場後の経営陣のリーダーシップを安定的に保つために議決権だけを増やすものであるため、企業価値が一定以上に大きくなってしまった後や上場が目前となってきている状況でも、株主の合意が得やすい方法であると考えられる。

※ 上記メモ以外に、dual classの事例などが書かれていました。

第8章:日本のベンチャー投資ストラクチャー

日本のファンド・ストラクチャー

ここ数年で、日本のスタートアップ生態系は驚くほどの成長を遂げたが、その成長を促した要因として「ベンチャーキャピタリストに、投資先の企業価値の向上に比例したリターンが与えられる、強力なインセンティブの仕組み」が普及したこともあったのではないかと考える。

ファンドの運営を行う者はGP(General Partner)、ファンドからキャピタルゲインが出た場合にGPが割増で受け取れる利益はキャリー(Carried Interest)と呼ばれているが、少し前までの日本のベンチャーキャピタルのビジネスは、ほとんどのVCファンドのGPは株式会社が行っており、その役職員にキャリーがほとんど分配されてこなかった(分配されても、ルールが不明確であった)。

上記を解消するために、GPにLLP(有限責任事業組合)を使ったストラクチャー(仕組み)ができ、キャリー(インセンティブ)が適切に分配されるようになった。本章では、このLLP方式をさらに改良したストラクチャーなども紹介している。

終章:スタートアップの未来ビジョン

※ メモには書きませんでしたが、「スタートアップに政府が関与する意味」「10年後の日本のベンチャー投資ビジョン」といった興味深いトピックスに加え、筆者のスタートアップに対する考え方が書いてありました。

以上です。

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