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「選ばれる会社になる」採用支援会社の人事部長が振り返る25卒採用。個別最適化された"対面"、昨年末に9割終了

企業の採用を支援する、株式会社アールナインnote編集部です。
今日は、人事部長が自社の採用活動を振り返ります。

2月、12名の内々定承諾を得て、2025年度卒業予定の学生さんの採用活動を終えました(昨年12月末時点で既に9割終わっていました)

BtoBため学生さんの認知度は高くないベンチャー企業ですが、1対1の丁寧なコミュニケーションを徹底し、人事以外の従業員も総勢59名面接・面談に入る会社ぐるみの「総力戦採用」を進めてきました。

特に25卒のキーワードは個別最適化された「対面」。コロナ禍を機にオンライン選考が定着する中、あえてリアルの接点を増やすとどうなるのか。

組織に所属せずとも生きられる時代、企業は人を選ぶ側ではなく、選ばれる側ー。個々の学生さんに丁寧に向き合うアールナインの採用の根底にはこの思いがあります。人事部長のJPさんが、リアル選考の背景やメリットを通して、人を大切にする採用の意義やコツを紐解きます。


■ちょっとインパクト狙いの「対面」

人事部長のJPさん

――25年卒の採用活動が無事終わり、1月からは任意で内々定者の長期インターンシップも始まりました。改めて、今回のこだわりは対面ですか。

例年選考時期が早い上、内々定承諾期限も1週間なのに優秀な方々に決断していただけてありがたいです。コロナで22~24卒採用は、最終以外の3回の面接を全部オンラインでした。逆にそれが世の中の主流になった今、リアルに戻したらどうなるのか。ちょっとインパクト狙いの試みでしたね。

――多くの企業はまだオンラインですよね?

そうですね。学生さんにもメリットが多いです。あと人事が在宅ワークだと必然的に採用もオンラインですね。うちはもともと出社、在宅は個人の自由ですが、コロナを機にリモートワークを導入した企業の多くは、人事や総務から先陣を切って社内にリモート文化を浸透させていく動きもあります。

――そんな中で今回あえて対面重視に振り切ったのはなぜですか。

一つは、画面越しに企業を選ぶのは、やはり難しいのではないかと思ったこと。家や車を通信販売で買う人はいないですね。ご結婚相手をzoomで話した印象だけで選ぶ人もいない。就職も同じくらい高い人生の買い物。
もう一つは時間とコスト。足を運んでいただくと、学生さんにも一回でも多くの考える場を与えられる。私たちも役立つ情報を提供したい気持ちになる。互いに時間を大切にしたい気持ちになれそうだと。オンラインはアクセスが簡単な分、キャンセルも簡単。利便性を追ってオンラインで採用することが目的化したら本末転倒と思いました。目的は相手を深く知ることです。

――具体的にどこで対面の機会を増やしましたか。

全面的にですね。まず計4回の面接をすべて対面に。その間に挟む従業員面談の回数も増やしました。面談は選考ではなく、従業員とのおしゃべりを通して人や会社の雰囲気を見てもらう場所です。選考を全部対面に切り替えた上、それ以外の対面の接点も増やした形ですね。

■「これから面接?楽しんでね」決断の鍵は未来の解像度

社内チャットで、人事部長から全従業員に宛てのお礼のメッセージ

――オンライン選考には、学生さんが手っ取り早く膨大な企業の情報を集められるメリットがあります。対面選考は大変ではないですか。

一次面接から対面の会社は、珍しかったようですね。働くイメージが湧きやすかったとの声が多く、挑戦して良かったと思いましたよ。オンラインは顔しか映りません。新卒の方が知りたがるのは会社の雰囲気です。

――何を見たら雰囲気がわかりますか。

例えば、エレベーターですれ違った従業員にかけてもらった「これから面接?楽しんでね」の声、オフィスの玄関で待っていたら中から聞こえてきた笑い声。ワイワイと会議室に向かう様子、柔らかい従業員の服装。アールナインへの志望度が高まった理由として、よく上げていただく項目です。

――まさに「雰囲気」や「空気」ですね。

そうですね。結果的に「感じが良い」「会う社員、会う社員、雰囲気が良い」と言ってくださる学生さんが多いですが、見せようとして見せているものではなく、来ていただけば勝手に目や耳に入る情報ですね。

――逆に社内を見てもらって合わないと判断される恐れもないですか。

むしろ見てもらって良かったと思います。問題は良くも悪くもギャップ。例えばうちと真逆で、おしゃべりがなく黙々と働く社風の企業。実際に見学していただくことで、その環境でも大丈夫な方だけが入社する。人事の人柄や対応が良いのは当たり前です。それが仕事だから。
やっぱり、人生で何かを決断する時の鍵は、頭に浮かぶ映像の解像度だと思います。その未来に自分がいるイメージをどれほど描けるか。乗り降りする駅、働く場所…うちは2009年、富山市で創業しました。11年に東京進出が決まった時、私は虎ノ門でサラリーマンをする自分のイメージが全然湧かなかった。ギャップは「思ったほど東京はキラキラしていない」でした(笑)
社会人経験がないと一層、自分を社会に投影することは難しいですね。

■59名の面接官と面談員~とにかく傾聴、責任は問わない~

アールナインの採用。選考要素のある(合否が付く)面接以外にも、社内の雰囲気を知っていただくためのさまざまな接点

――アールナインでは人事以外の従業員も何度も面接や面談をします。採用担当2人に対して、最終面接まで進んだ学生さん1人あたりの接点回数は8~10か月間に10回以上。これが多数の対面接点を確保できている秘訣とも言えますが、改めて人事ではない従業員が採用に加わる意図を教えて下さい。

まずは社内にお礼を伝えたいですね。面接・面談に入っていただいた方だけで従業員数の半分を超える59名、インターンシップやイベントの企画・運営も含めるともっとたくさんいます。学生さんに「自分に近い人がいる」「多様な働き方がある」と知ってほしかったです。

――25卒採用は特に、共通点のある従業員に面接官や面談員をお願いする形だったと聞きます。例えばどんな共通点でしたか。

出身大学、出身地や本人の望む仕事内容、憧れ、人間的な雰囲気などですね。従業員数が1年半で2倍になり、組み合わせの幅が広がりました。多様な価値観を持つ学生さんを人事だけではカバーするのは難しいです。

――他部署に採用なんて任せられないという会社もありそうですね。面接や面談の事前レクチャーでどのような点を伝えましたか。

「相手の話を傾聴して下さい」「責任は問いません」の2つですね。社内にお願いしたのは計4回の面接のうち一次面接と二次面接、あと面談。面接は学生時代の取り組みを会話ベースで聞き、事実に基づいて評価してほしい。面談は合否判断がないので学生さんの話をとにかく傾聴し、質問に答えてあげてほしいどちらも評価や所感に対して、責任を一切追及しないのがポイントです。緊張させないで、話を聞くことがベースと伝えています。

■演技力選手権になったら無意味~面接らしい面接は必要か~

学生さんの就職活動を応援するイベントもしばしば開催した25卒採用。その一つ「TSUMUGI TERRACE(つむぎテラス)」は、模擬面接とフィードバックが受けられるイベント。伝え方や面接官が見るポイントなどをレクチャーしました。

――面接と言うと「1分で自己PR」のような形で淀みなく話せるかどうかを確認したり、厳しく判断したりすることを好む企業も少なくありません。

非日常の場で緊張しても頑張れるかどうかのトレーニングを兼ね、そういう面接をする企業は多いですね。でも、面接の目的は相手を深く知ること。面接っぽい面接の形式を取らないといけない理由はないよね?
アナウンサーの試験ではないから、すらすら話せることに意味はない。言葉に詰まるなら助け船を出しても良いと思います。覚えたセリフを披露する選手権になってしまったら、演技が高い方が評価されてしまう。何をなぜ、どう考えて取り組んできた方なのか、事実から判断することが大事です。

――具体的にどういう話の聞き方をしますか。

私が意識しているのは、目を見る、名前を呼ぶ、相手と同じ言葉を使う、褒める、話を肯定する…などですね。誰しも承認欲求がある。相手を認めることが心地良い対話の基本と思います。既存の形式的な面接では難しいね。
あとは言葉遣い。「週末いかが過ごされましたか。サイクリング?素晴らしいですね」はちょっと硬すぎる。「週末、天気良かったですね。何かされましたか。サイクリング、へえ!すごいですね」くらいを心がけています。敬語でもないけどため口でもない。「ため語風言葉」でしょうか(笑)

――すべては緊張させないため?

そうです。居心地が良かった記憶は強く残る。アールナインの面接は「楽しかった」「いつのまにか終わっていた」とよく言われる。合格でも不合格でも来て良かった、何か得るものがあったと思ってもらえたら嬉しいね。

■たまたま学生の姿をしているだけ~ご縁は一度じゃない~

25年卒採用活動で掲げたテーマは「紡」。学生さんとのご縁や可能性を紡ぎたいという思いで、アールナインのパーパス(存在意義)「人と組織の可能性を紡ぎ、意思決定を支援する」にちなむ。
従業員や内定者が後輩や知人を紹介する「リファラル採用」のイベントも開いた。写真は告知ポスターと、当日行った参加者同士の相互理解を深めるカードゲーム「価値観カード」

――不合格について伺います。うまく話せたどうかで合否を予想する学生さんもいると思います。アールナインの方法だと判断できませんね。

そうですね。ほとんどの方に「ちゃんと聴いてもらえた」と感じていただけるようなので、逆に不合格を悟らせない面接とも言えると思います。

――その心は?

その方が将来、中途採用で来てくれるかもしれないからです。友人や後輩にアールナインを勧めてくれるかもしれない。取引先になる可能性もある。正社員以外に業務委託として働く方法もあるので、副業として興味を持ってくれることもあるかも。ご縁は一度じゃない。大切なのは、その方の背後や未来に広がる可能性。その時、たまたま学生の姿をして私と出会っただけです。目の前の学生さんの心象を悪くするメリットはないとわかりますね。

■「第三者」の距離を表現、手段としてのオンライン

一般的な採用支援会社は、専任の従業員がお客様企業の採用活動を代行するのに対し、アールナインは採用業務を面接、面談、エージェントとのやりとり…などに細かく分解し、それぞれを最も得意とする社外人材に委託する。

――ちなみに25卒採用にも一部オンライン面談がありました。リクルーターの面談です。最終含む計4回すべての面接の前後にこの面談がありましたが、改めてリクルーターとは何だったのか教えて下さい。

アールナインが業務委託する社外のパートナー(24年2月末時点、約1450名)の方々にリクルーター業務を依頼していました。普段は他企業の採用支援を一緒にお手伝いしていますが、今回6名の方にうちの採用を手伝っていただいた形ですね。従業員にない視点で客観的に会社を説明し、学生さんの良さを発見できることがメリットです。20代が中心の従業員に対して30~40代の方もおり、年長者として相談に乗る役割も果たしていただきました。

――こちらがオンラインだった理由を教えて下さい。

第三者としての適切な距離感を保つためです。今回は対面中心の選考で、人事や従業員も親身になって話を聞くなど、物理的にも心理的にも距離の近い選考でした。リクルーターさんまで対面なら、従業員との境界線がなくなってくる。第三者にお願いする意味がない。便利だからじゃなく、手段や戦略としてオンラインを活用しました

■選択と集中のポイント~「数打ちゃ当たる」は限界~

――ここまでの話は、企業は学生さんに丁寧に向き合うべきという考え方がベースにあります。なぜでしょうか。

選ばれる会社になる。この思いですね。学生さんを選ぶ側と思っている企業が多いけど、少子化や働き方の多様化で、組織に所属せずとも生きられる時代。有名企業でも採用に苦戦している。うちは学生さんの認知度が低いBtoBのベンチャー企業。最初から選んでいただく側です(笑)

――だからコミュニケーションに注力を?

毎年注力しているのは歩留まり(選考から次の選考に進んでくれる割合)の向上です。数集めではなく、集めた学生さんをいかに丁寧に扱うか。入社後もそう。採用・育成に限らず「数打ちゃ当たる」「なくなれば代打、次」という考え方のビジネスは、そのうち限界が来ます。

――他部署の協力が薄く、人手が足りない企業も多いと思います。人を大切にする採用のため、最低限の工数でできることはありますか。

各面接官の意識改革。アイスブレイクを増やす。話を丁寧に聞く。不適切な質問をしない(例:国籍、家族のこと、好きな本…)…心がけや態度を変えるだけだから工数は増えません。あと選考中のフォローを必要な学生さんに絞るのも一案です。入社してくれそうな方、入社してくれなさそうな方、過去の傾向から分析できますね。何に時間と労力を使うか。選択と集中です。

――それでも人手が足りなければ?

募集時期やスカウトを打つ時期を分けるのも効果的です。無駄な選考を減らす視点も大切ですね。例えば一次面接の合格率が8割、二次面接も8割、両方見ているのはコミュニケーション力の場合。同じ能力を見て通過率も同じなら1回でいい。ここも選択と集中と思います。

――26卒採用の計画作りなどが本格的に動き出します。25卒で実現したこと、しなかったことを踏まえて新たに挑戦したいことはありますか。

もっと細かく学生さんのタイプに合わせたコミュニケーションを取ることです。押せば響く方、放っておいてほしい方、疑心暗鬼になりやすい方…色んな方がいて考え方も多様。人が幸せに働くには、環境や文化が合うことが大切です。相手はまだ社会人経験のない方。私たちが責任を持って判断するため、個々の方への最適な接し方を考え続けたいです。

人事部長のJPさん(右端)と新卒採用担当の2人

■10か月間、奮闘した採用担当者2人の記事はこちら

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2009年創業、企業の採用、人材育成を支援する会社です。630社の支援実績がある他、自社の採用を通して得た知見もお客様に還元しています。




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