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推理小説の作り方(ちょっとだけ)わかります③ 登場人物編

 こんにちは、久住四季(くずみしき)です。

 今回は小説の登場人物の作り方を紹介します。これまでの記事がまだの方や、おさらいしたい方はこちらからどうぞ。

 なお、以下の文章では敬称略とさせていだきます。なにとぞご了承ください。

 目次
 1. 「AだけどB」というギャップ
 2. 無くて七癖
 3. 名は体を表す
 4. 「キャラかぶり」をさせない
 5. 登場人物に興味を持つ
 6. 最後に「行動」で語らせる


1. 「AだけどB」というギャップ

 さて。

 前回のプロット編で、

「結局のところ物語とは、プロットが同じでも、どんな人物を登場させるかでまったく別のものに様変わりしてしまうのだ」

 という話をしました。では、プロットを存分に生かしてくれる、魅力的な主人公や脇役といった登場人物を作るにはどうすればいいのか?

 僕は登場人物を設定するとき、まずその人物の基本となる属性を「AだけどB」というワードに当てはめて考えます。

 古今東西、特徴的な登場人物(特に主人公)は、多かれ少なかれ「ギャップ」を持っています。例えば、

・コカイン常習のド変人 だけど 天才的な推理力を誇る世界唯一の顧問探偵
・よれよれのコートを着た風采の上がらない中年 だけど 完全犯罪を見破って犯人を追い詰める名刑事
・身体は子供 だけど 頭脳は大人

 といった具合に。

 この「ギャップ」を、僕はある程度意図的に作るようにしています。

 さらにこのAかB、どちらかに作品のテーマや設定と深く関わるものを当てはめることも多いです。

 物語の主人公は往々にして、問題に直面し、それを乗り越えることで成長、変化していきます。その変化していくべき部分こそ作品のテーマそのものであり、それを主人公の属性に据えることで、よりストーリーにまとまりをもたらすことができます。

 例えば。

 拙作『推理作家(僕)が探偵と暮らすわけ』に登場する、語り手の月瀬純(つきせじゅん)は、

・とにかく生真面目で律儀 だけど 作家という不安定でヤクザきわまる生業を営んでいる(しかもまるで売れていない)

 というギャップを持っています。

 本作は彼のウイークポイントの変化、すなわち作家としての成長がテーマの一つでもあり、ストーリーの推進力にもなっています(まあこれぐらいならネタバレじゃないだろうと信じつつ……)。


 注.ただミステリにおいて、主人公の成長や変化というものは必ずしも必要ではないと個人的には考えています。特に魅力的な謎やその解決への興味を「つかみ」に据えたミステリは、ある意味それらこそが真の主人公であり、それが解決される=変化する過程でカタルシスが得られるからです。

 こうして「AだけどB」という属性が定まったら、その人物の性別や年齢、性格、生い立ちや職業といった設定を、その属性に沿うように徹底的に作り込んでいきます。

2. 無くて七癖

 登場人物を作り込んでいく過程で、僕は各人物によくを設定します。

「無くて七癖」、すなわち「癖が無いように見える人でも、七つは癖を持っているものだ」と言われます。

 どれだけ非日常的な変人(に見える人物)にも、その変人なりの日常生活があります。息をして、モノを食べ、出すもの出す。どんな人生においても、多かれ少なかれ単調な繰り返しからは絶対に逃れられないもので、その繰り返しから、必ず個人のルーティンが生まれます。

 なので、僕は 1.で作った登場人物の日常生活を想像し、言葉遣いやよくしてしまう仕草、服装の選び方、電車に乗ったときにいつも陣取るポジション(僕はドアの脇が多いですね)などなど、いろいろな癖を考えます。そして、それらをその登場人物の言動の端々に織り交ぜます。

 特によくやるのが会話中ですね。

 小説の会話は、ともすれば「」と改行の連続で進みがちですが、僕はとにかくその合間に登場人物たちを動かすことが多いです。

 例えば、洋画の登場人物って、台詞を口にしているときも表情が豊かで、よく身ぶり手ぶりも交えますよね(笑顔で大きく頷いたり、呆れたように肩をすくめてみたり)。あれは英語がシンプルで使いやすい反面、より細かなニュアンスを伝えるには比較的不向きな言語なので、それを表情や仕草で補っているのだと思うんですが、イメージとしてはあんな感じです。台詞と癖で意思を語る、というか。

 逆に日本語は語彙や構文規則が複雑かつ幅広く、言葉だけで豊かに意思を表現できる分、台詞を口にしているときの表情や仕草は静的な気がします。邦画でも、役者は普通に立ったり座ったりしたまま、ただただ話をしていることが多いような(もちろん視線や吐息などでかなり細かい芝居をしているときもありますが)。

 なので、あまりやり過ぎると、いわゆる日本人的な人物に見えなくなるきらいはあります。が、登場人物の個性を表現するにはある程度有効だと思っています。

3. 名は体を表す

 登場人物の名前も、やはり重要だと考えています。なぜなら他のあらゆる媒体と違って、唯一小説だけは、登場人物を名前で記述する機会が圧倒的に多いからです。

 すなわち「名前」こそが、文字通りその人物の「体」であるわけです。

 また名前は自己認識を形作るもので、人間のパーソナリティと無関係じゃありません。なので、その人物が自己紹介で名乗ったとき、しっくり来る名前を付けてあげるのがいいと思います。

4. 「キャラかぶり」をさせない

 作中では、なるべく同じような個性の人物を同時に出さないほうが無難です。いわゆる「キャラかぶり」をさせない、ということですね。

 特徴的な登場人物には「ギャップ」があると言いましたが、それは登場人物同士でも同じです。

 有名なコンビやグループは、往々にして皆がばらばらな個性を持っています。そのほうが集まった人間同士の間にも「ギャップ」が生じて、魅力的なストーリーも生まれやすくなるからです。

 さらに、同じような個性の登場人物ばかり出してしまうと、書き分けが難しくなる、という実際的な理由もあります。

 人物の書き分けがうまくいっていないと、読者が登場人物を憶えづらかったり、混同したりといったことが起こりやすくなり、後々、「ええっと……これって誰だったっけ?」ということになりがちです。

 海外ミステリが苦手で、「途中で誰が誰だかわからなくなる」という読者はそこそこ多いのではと僕は思っていますが(実は僕も昔は苦手でした)、それはきっとカタカナの名前や馴染みのない海外暮らしの人物が、どこまで読んでも頭の中でうまく実像を結ばないせいではないでしょうか。

 登場人物の書き分けがうまくいっていないと、それと同じようなことが起こるわけです。

 ただ、かといって不必要に個性的な面々ばかり出し過ぎると、今度はなんだかまとまりのない、とっ散らかった印象を与えてしまいかねないので、作中のリアリティとのバランスに気を遣う必要はあります。

5. 登場人物に興味を持つ

 実はこれが一番大事なことなのでは? と思っているのですが。

 僕は、著者は世界中の誰にも負けないぐらい、自分の作る登場人物に興味を持たなくてはならないと考えています。

 人は誰しも、興味のない人間のことを知りたいとは思いません。学校の同級生や職場の同僚はもちろん、役者やアイドルまで、彼ら彼女らのことが知りたくなるのは、その人物に興味を持っているからこそです。

 なので小説を書くときも、著者は自分の作る登場人物に強く興味を持つことが大切です。他ならぬ著者自身のその興味こそが、よりキャラの掘り下げを深くし、登場人物を魅力的にしてくれるからです。

 ただ、必ずしも登場人物のことを好きになる必要はありません。いえ、もちろんそれはそれでいいことなんですが、例えば、「この人物のことが大嫌いだ、憎くて憎くて仕方がない」というのもアリだと思います。

 何よりもまずいのは、そう、無関心です。

6. 最後に「行動」で語らせる

「その人物がどういう人間かは、説明ではなく行動で語らせろ」とよく言われます。これも僕は正しいと考えています(もちろん説明をまったくしないということじゃありませんが)。

 つまり、これまでのところで作り込んだ設定は、あくまでも設定なのであって、そのすべてを作中で語るわけではない、ということです。

 とはいえ、これについてはすでに前回のプロット編で話しました。そう、例の山登りです(忘れた、まだ読んでない、という方はこちらから)。

 これまでのところで作り込んだ登場人物を、実際に山に登らせます。つまり、その人物のやり方や動きに任せて、プロットのチェックポイントをクリアさせていきます。そしてその過程で、あくまで登場人物のキャラクターの発露として、語るべき部分だけを語ります。

 プロットは登場人物を出すことで完成しますが、登場人物もまたプロットを経ることで真に完成するわけですね。

 このとき、登場人物を入れ込んだプロットをまた改めて作ってもいいですし、あるいはもう筆に任せて、そのまま執筆に入ってしまうのもありだと思います。


 ……といったところで、今回はここまで。
 次回「推理小説の作り方(ちょっとだけ)わかります④ 文章編」に続きます。よろしければお付き合いください。

  いやー、本当に大変なのは、いよいよここからですね!


『推理作家(僕)が探偵と暮らすわけ』
それぞれに「ギャップ」や癖を持った個性的な登場人物たちが、次々出てくる本格ミステリです。本記事とあわせて読めば、推理小説の作り方がもうちょっとよくわかるかも。なにとぞよろしくお願いします。


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