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推理小説の作り方(ちょっとだけ)わかります④ 文章編

 こんにちは、久住四季(くずみしき)です。

 今回は文章についての話をします。これまでの記事がまだの方や、おさらいしたい方はこちらからどうぞ。

 なお、以下の文章では敬称略とさせていだきます。なにとぞご了承ください。

目次
1. まずタイトルを決める
2. スタンダードな日本語で過不足なく
3. 「演出」に気を遣う
4. しっかり推敲する
5. 焦らず、恐れず

1. まずタイトルを決める

 さて、登場人物を含めたプロットも用意できて、いよいよ実際に小説を執筆していく段となりました。

 が、僕は本文に取りかかるよりも前に、まず作品のタイトルを決めます。

 タイトルはまず真っ先に読者の目に触れる本文のゼロ行目であり、同時に、読み終わったあとに目にする本文の最終行でもあります。

 それを決めないで本文を書き始めるのは、いわば出発地も目的地も決めず飛行機に乗るようなもので、どこから飛び立てばいいのか、その後どこを目指せばいいのか、よくわからなくなるからです。

 まあどうしてもというときはあとからタイトルを付けてもいいかもしれませんが、その場合、タイトルに沿うようにまた一から本文を改稿、調整することになるので、やはり仮でもいいので先に決めておくほうが合理的かなと思います(その必要がないぐらいピンと来るタイトルが付けられればいいんですが、なかなかそうもいかないのが実情なので……)。

 では、一体どんなタイトルがいいのか?という話になるわけですが、正直これについては正解はありません。というか、あれば僕が教えてほしいです。

 近頃は本当に小説の刊行点数が増えており、書店で一つの本に目を留めてもらえる時間はおよそ二秒以下だと言われています(棚差しだとそれ以下だとも)。なので、作品の内容が一見して伝わるわかりやすいタイトルの本がとても増えています。

 ただ個人的には、僕は内容が率直に伝わらなくても、なんとなくおもしろそうだと思ってもらえそうな、響きや語感を優先したタイトルを付けたい性分なので、この辺りは結構悩ましく思っています。

2. スタンダードな日本語で過不足なく

 書きたいものが違えば当然書くべき文章も違ってきます。なので、ここからはあくまで僕自身が心がけていることである、と改めて断った上で、先に進みます。

 文章を書く上でまず僕が心がけているのは、「スタンダードな日本語で過不足なく書く」ということです。

 「スタンダードな日本語」と一口に言ってもいろいろな考え方があるとは思いますが、ここでは日本語の基本構文であるSOV型――すなわち主語、目的語、述語の順序を意識して書く、という意味です。

 日本語はかなりフレキシブルな言語なので、この順序を入れ替えても大抵は意味が通じます。ただ変化球はストレートあってこそのものであり、情報や表現を伝える上で、やはり基本はとても大切だと考えています。

 「過不足なく」というのは、そのシーンにおける情報や表現を伝えるに当たって、最適な文章の速度や密度を見きわめる、という感じでしょうか。

 じっくりと文字数を使って濃密に描写すべきシーンや、逆に短い一言でずばっと言い切るべきシーン、さらっと流してどんどん先へと進むべきシーンなど、シーンごとにどういった文章で描くべきなのかが違ってきます。それを見つけるためにいろいろ試行錯誤する、ということです。

 実のところ、僕が執筆中に心がけていることは、主にこの二点だけです。

 例えば、「読みやすい文章を書こう!」といったようなことは、僕はあまり気にかけていません。それは、プロットをきちんと整理した上で先述のやり方に則れば、自然と読める文章になるはず、と考えているからです。

 加えて。

 そもそも、「はたして読みやすい文章が良い文章なのか?」という疑問もあります。

 文章の個性というものは、味で例えるなら辛味や苦味、ときにはエグ味だったりと様々で、本来尖った飲み込みづらいものです。かといって、それらを不要なものとして徹底的に排除すると、今度はまるで味のない、水のようなものになってしまいます。ごくごく飲めはするけれど味気なく、あとには何も残らない、といったような。

 なので、伝えるべきこと表現したいことを見きわめて、その結果、読みにくい文章が必要だと考えたときは、読みにくくなっても迷わず書くべきだと思っています。

 一文の中に読点は四つまで、といったシステマティックなやり方を実践していたことも一時期ありましたけど、今はやめました。かなり複雑な構造の文章を書かない限り、大抵はそこまでいかないと思いますし(というか、これも必要なら全然打ってもいいと思うようになりました)。

 単語も、以前はより平易なものを使うようにしていましたけど、やはり今はやめました。子供の頃って、本を読んでいて意味のわからない単語が出てきても、なんとなく文脈から類推したりしませんでしたか? そもそも言葉ってそうやって覚えていくものだし、スタンダードな日本語で書いていれば、それも十分可能だと思うので。

3. 「演出」に気を遣う

 これは本来プロット編に組み込むべき項目なのかもしれませんが、細かな表現に関わってくることなので、こちらで紹介することにしました。

 以前『星読島に星は流れた』という作品を書いた際、校閲さんからこんな指摘をされたことがあります。


 作中、主人公の加藤盤(かとうばん)が事件の真相を皆の前で披露するシーンがあるのですが、彼がその真相に気づいたのは、関係者全員で歩いて移動していた道中でのことでした。彼はそれを目的地である海岸の船着き場まで持ち越すのですが、それをして、

加藤が気づいた真相に対して、その場の誰も道中で問いたださなかったのでしょうか?


 このような指摘を受けたわけです。

 それでも僕はこのシーンを修正せず、そのままとしました(もちろんそうすることに納得できるだけの理由を加えて、エクスキューズにしましたが)。

 なぜなら謎解きのシーンは、そんな移動中の道半ばより、海の見える船着き場のほうが絶対にふさわしいと思ったからです。

 このように場所や日時、天気など、どんなシーンにも映えて「絵」になる舞台や条件があります。こういった演出はそのシーンをより印象的なものにして、読者の心に残りやすいものにすることができるので、おおいに気を遣うべきだと考えています。

 あとは視点の演出、つまりカメラワークも大事ですね。

 先ほど2.で、「スタンダードな日本語」で書けば自然と読みやすい文章になると言いましたが、それでも、「なんかいまいちどういう状況かよくわからないんだけど……」というときは、このカメラワークがよくない可能性があります。

 例えばある場所にAとBという人物がいて、会話をしているとします。そのとき、AとBの会話の内容以外にも周囲の状況などを描写するのはもちろんアリですし、それもまた演出のうちなのですが、ある程度整理して順序よくやらないと、いわゆる「あちこちにカメラがぶれている状態」になってしまい、何が起こっているのかよくわからない、といったことになりかねません。

 ただ視点の演出は、工夫次第で作品をよりユニークなものにできます。演出的なチャレンジはもちろん、トリックにも使えるので、ぜひ試してみてください。

 僕も『トリックスターズC PART1』『PART2』という作品で、主人公の一人称のまま視点人物が入れ替わる群像劇、というミステリを書きました。


 ただこれも気を遣わないと、今誰がどこで何をしているのかわかりづらかったり、ストーリーがぶつ切りになって全然話が盛り上がらなかったり、といったことが起こり得るので注意したほうがいいかも。

4. しっかり推敲する

 書き上がった原稿は、とにかく最初から最後まできっちり推敲します。「てにをは」や読点の位置はもちろん、事実関係の確認、ストーリー上の矛盾などもできる限り洗い出し、見直します。

 書き上がったときにはどれだけ完璧な出来に思えても、あとから見直せば、まず間違いなく直す部分が見つかります。

 僕は一文一文に渡って、徹底的に磨き込むイメージで推敲を行います。そうやって紡がれた文章が、前後のそれと有機的に絡んでいく感じを出せれば最高だと思っています。

 デビューする前ももちろんでしたけど、デビューしてからますます推敲には気を遣うようになりました。

5. 焦らず、恐れず

 これは推敲時、さらに校正時により心がけていることです。

 執筆中はどうしてもいろいろなことが気になってしまいます。着々と減っていく締切までの日数、自分の作品はちゃんとおもしろいのかという不安、他にもエトセトラ、etc……。

 ですが、執筆中に「焦り」や「恐れ」は禁物です。

 焦ると気が散って判断力が低下し、文章の隅々にまで目が行き届かなくなります。そうして書かれた文章は、往々にしてどこかちぐはぐで上滑りしたものになります。

 さらに、恐れを抱いたまま文章を書くと、「~だろう」とか「~と思われる」といった表現が増える傾向があります(少なくとも僕の場合は)。そうした文章は、どこかはっきりとしない、曖昧な読み味になりがちです。

 ……とは言いつつも、焦らない恐れないって本当に難しいんですよねえ。僕も本当に苦労してます。

 そうするに当たって心がけているのは、いきなり傑作をものそうとするのではなく(もちろんそういった意気込み自体はおおいに結構なんですが)、全力を尽くすことを目標にする、です。

 全力以上のものはどうしたって書きようがないし、執筆速度も上がらないわけで、そのことだけを目標にすれば、少しは焦りや恐れを頭から閉め出せるので。


 ……といったところで、文章編は終了となります。
 そして、以上で小説を書く上での実践的な部分もひとまず幕となります。お付き合いありがとうございました。

 これで一連のエントリーも幕にしようかなとも思ったのですが。せっかくなので、これまでに僕が読んで参考にしたことのあるハウツー本などもちょっと挙げてみます。

 といったわけで、次回「推理小説の作り方(ちょっとだけ)わかります⑤ ハウツー本編」に続きます。よろしければもう少しだけお付き合いください。


『推理作家(僕)が探偵と暮らすわけ』
本記事とあわせて読めば、推理小説の作り方がもうちょっとよくわかるかも。なにとぞよろしくお願いします。


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小説家。新刊『推理作家(僕)が探偵と暮らすわけ』(メディアワークス文庫)12/22より発売中です。その他の既刊はプロフィールにて。Twitter→https://twitter.com/quzumi_shiki
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