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胸を切った彼女なら、ペニスを切り落とした僕を愛せるはずだった 第23話(終)

 不要になった女の体はしばらく霊安室で放置した。動物の死んだ体は一週間ほど冷蔵庫のような場所で寝かせれば、死後硬直が良い感じにとけて解体し易いと、ジビエが趣味の友達から教わっていた。勿論、その友達には人間を捌くとは言っていないけれど。  学生時代の解剖をたまに思い出しながら、その日、要らなくなった女の体を解体した。切り込みを入れた肩を捻って関節を外す。太股は捻るだけでも大変だったが、それでも一人で黙々と作業を続けた。首は捻っても取れないので、少しずつ切っていく。子宮と膣を取り

    • 胸を切った彼女なら、ペニスを切り落とした僕を愛せるはずだった 第22話

       次の女は慎重に選んだ。直接会って、そこで止めた女も何人か居た。前回の反省を踏まえて、今度は相手のキャラクターをしっかり見極める作業に時間を割いた。メッセージのやり取りを何度も繰り返して、直接会ってからも時間を十分に取った。  そしてSNSで、ようやく次の女を見つけた。実際に会うと控え目で、性格的には太造と合いそうだった。何より従順で、人の言葉をすぐ鵜呑みにするタイプ。信じられない程、上手い具合に事は運んだ。ただ盲点だったのが、判断するための時間を長く取ってしまったせいか、

      • 胸を切った彼女なら、ペニスを切り落とした僕を愛せるはずだった 第21話

         それからは、太造が好きそうな女を探し始めた。  飲み会は手間も時間も掛かる割に、収穫が少ない。その点、マッチングアプリは手軽で便利だった。色んな女が簡単に見つかって良い。けれどその代わりに、普通の女しか居ない。顔が綺麗でスタイルが良いとか、ワンピースを着て首を傾げてニコッと笑っている女。そんないかにも可愛らしい女には、太造が食い付かない。一番肝心なのは、太造自身が自ら動くほどの情熱を持つ事。それほどの衝撃を受けた女性に裏切られれば、二度と恋愛なんてしたいと思わないだろうから

        • 胸を切った彼女なら、ペニスを切り落とした僕を愛せるはずだった 第20話

          「先生達って同期なんですよね」 「うん? そうだよ」  オペ室の看護師さんから、声を掛けられて、ちょっとした世間話。 「だったら、今度皆でご飯行きませんか?」 「なになに? 〇〇さん、こないだ結婚したばかりなのに、アイツがお気に入りなの?」 「私じゃありませんって。PACUに柏原さんって居るじゃないですか? あの子が――」  誰だっけ、それ。  女の子の名前、顔を見たら反射で口から出せるけれど、頭には残っていない。記号みたいにいつも感じていた。一種の学習障害な気がする。

        胸を切った彼女なら、ペニスを切り落とした僕を愛せるはずだった 第23話(終)

        • 胸を切った彼女なら、ペニスを切り落とした僕を愛せるはずだった 第22話

        • 胸を切った彼女なら、ペニスを切り落とした僕を愛せるはずだった 第21話

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          胸を切った彼女なら、ペニスを切り落とした僕を愛せるはずだった 第19話

           肩の痣は太造と仲良くなったきっかけだけど、人に見られるのは未だに嫌だった。彼女とセックスする時も、上には何かを羽織ったり、部屋の電気を暗くしたりして、極力隠していた。  話を少し戻す。その肩の火傷は母親に熱湯を掛けられたからだけど、母親が何故そこまで怒ったかと言うと、俺が算数のテストで二つミスをしたせいだった。ミスは一箇所なら許せても、二箇所は許せないらしい。その日の機嫌によって一箇所でも許されない事が多々あったけれど、俺の母親はそういう人間だった。父親は見て見ぬ振り。夫婦

          胸を切った彼女なら、ペニスを切り落とした僕を愛せるはずだった 第19話

          胸を切った彼女なら、ペニスを切り落とした僕を愛せるはずだった 第18話

          【彼の独白】  右肩にある痕は、小学生の時に母親から浴びせられた熱湯が原因だった。火傷で赤黒く変色した皮膚は、水泳の時間になると「カブトムシの羽の下みたいで気持ち悪い」と同級生からからかわれた。担任の先生は一度注意したが、休憩の度に二度、三度と同じ事が繰り返されると、最終的に放置するようになった。それ以降、水泳は休むようになった。水泳と言うより、水着が嫌だった。  そのまま中高も何かしら理由を付けて水泳を休み続けたが、大学に入ってから避けられない事態に陥った。当時付き合って

          胸を切った彼女なら、ペニスを切り落とした僕を愛せるはずだった 第18話

          胸を切った彼女なら、ペニスを切り落とした僕を愛せるはずだった 第17話

          【女・交際】  女は言われるがまま、男と会った。男は彼と同じ病院に勤める医者らしい。近い間柄ゆえ、病院内では人に言えない揉め事が多々起こるのだと彼は話したい。どんな嫌な男かと女は構えていたが、実際に会うと拍子抜けした。容姿は彼よりも劣るが、いかにも優しくて良い人に女の目には映った。  だが目的は、男との偽装恋愛。親しくなったら、男から聞き出して欲しい事があると頼まれていた。その男と彼との間にどんな経緯があったのかは、何度尋ねて彼は決して教えてくれなかった。 「ごめん、今は

          胸を切った彼女なら、ペニスを切り落とした僕を愛せるはずだった 第17話

          胸を切った彼女なら、ペニスを切り落とした僕を愛せるはずだった 第16話

          【彼・出会う前】 「クソ女。役立たず。失敗作の癖に」  彼は床に転がっている女の体を踏み付けた。カッとして何度も殴っていたら、そのうち動かなくなった。まだ息はあるが、別に助ける必要も無い。むしろ彼にとっては忌まわしい女だった。友人を罵倒した事が何より許せなかった。  上手く付き合うよう促したはずなのに、彼の友人と破局してきた挙げ句、その友人の不満を自分に話してきた。「面白みの無い男」だと友人を罵り「褒めてくれたのだから、この体を抱いて欲しい」とキスをしてきた。唇が触れて数秒

          胸を切った彼女なら、ペニスを切り落とした僕を愛せるはずだった 第16話

          胸を切った彼女なら、ペニスを切り落とした僕を愛せるはずだった 第15話

          【男・最後】  男は困惑する反面、何処かで安堵していた。 「ある日突然、家に帰ったら誰も居ないんだけど。連絡くれたのは良いけれどさ、せめて荷物は持って帰ってくれないかなぁ」  夜遅い医局で、古い友人を前につい愚痴を零してしまう。同棲していた彼女が帰ってこないと思ったら「ごめんなさい、他に好きな人が出来ました」とメッセージだけ送られてきた。驚いたが以前から浮気を疑っていた気持ちもあったため、青天の霹靂とまでは行かなかった。むしろ、ああやはりと妙に納得してしまった。 「そのまま

          胸を切った彼女なら、ペニスを切り落とした僕を愛せるはずだった 第15話

          胸を切った彼女なら、ペニスを切り落とした僕を愛せるはずだった 第14話

          【女・共犯】  女は鏡を避け、前髪で顔を隠すようになった。目元は無事だったが、むしろそこだけが滑らかな肌色を呈しているせいで、まるで逆パンダだと女は思った。目元以外は赤黒く変色して、ずる剥けになった皮膚。痛くて痛くて堪らない。医者から痛みは徐々に治まるだろうが、痕は残ると再三言われた。痕だけでなく、突っ張る感じも。もう元には戻らない。生涯この顔と上手に付き合っていかなければならない。ただ落ち着いたら、専門的な皮膚科や形成外科で相談するのも選択肢だと担当医は親身になって話した

          胸を切った彼女なら、ペニスを切り落とした僕を愛せるはずだった 第14話

          胸を切った彼女なら、ペニスを切り落とした僕を愛せるはずだった 第13話

          【男・友人】  男が浮気を疑ったのは、最近女の態度を余所余所しく感じる機会が増えてきたからだった。スマホを握り締めており、そんな時に声を掛けると必ずと言っていいほどスマホを隠す。何処へ行っているのか、帰ってこない日もあった。顔の皮膚が歪な治り方をしているので、傍から見れば笑っているのか笑っていないのかも分からないだろうが、男には何となく引きつった笑みを浮かべていると分かった。唯一助かったのは、セックスを求められる回数が減った事だったが、これも恐らく良い変化では無いはず。  

          胸を切った彼女なら、ペニスを切り落とした僕を愛せるはずだった 第13話

          胸を切った彼女なら、ペニスを切り落とした僕を愛せるはずだった 第12話

          「……お腹は…………」  彼の子供が欲しい。産みたい。愛の結晶が欲しい。自分が生きていた証をこの世に残したい。気難しい彼の子供は私が生まなければならない。顔ならば、彼が傍に居てくれるならば、重要ではない。彼以外の男からどう思われても構わない。彼さえ居てくれるのであれば。  傍から見ればおかしな話だが、こうなってしまうと一種の催眠や洗脳状態で、思考に抑えが利かなかった。女にとって彼の言葉が全てだった。お陰で妙な方面で覚醒してしまい、以前は分からなかった〝形を保っていない顔〟の答

          胸を切った彼女なら、ペニスを切り落とした僕を愛せるはずだった 第12話

          胸を切った彼女なら、ペニスを切り落とした僕を愛せるはずだった 第11話

          【女・顔】  女はどうすれば彼の理想になれるのか思い悩んだ。彼が望まない女性的な要素を取り除きたいが、これまでに胸を切除して、服や化粧といった見た目を変え、自分でどうにか出来る範囲の行動をしてきた。それでも今の自分では及ばないらしい。 「どうすれば貴方の理想に近付ける?」と、女は一思いに尋ねてみた。 「女性らしいって何だと思う?」 「え……見た目が可愛いとか、胸が大きくセクシーとか……?」 「見た目の話だけじゃないよ。君はお淑やかで家庭的で女性らしい」 「……性格を変えない

          胸を切った彼女なら、ペニスを切り落とした僕を愛せるはずだった 第11話

          胸を切った彼女なら、ペニスを切り落とした僕を愛せるはずだった 第10話

          【男・決別】  男は出会ってからすぐに彼女との同棲を決めた。何なら結婚して子供も……と一瞬で、彼女との幸せな将来を妄想した。この時になって初めて、思っていたよりも女性との結婚に夢を抱いていたのだと男自身も気が付いた。  彼女と出会ってからは、初めてデートと言うものに心が浮かれた。出掛ける時は彼女の希望で人が少ない場所ばかりを選んだが、一緒に過ごせるなら何処でも良かった。  デートを繰り返して、男なりに一通りの手順を踏んだ後、彼女に結婚前提の同棲を申し込んだ。彼女の顔の筋肉

          胸を切った彼女なら、ペニスを切り落とした僕を愛せるはずだった 第10話

          胸を切った彼女なら、ペニスを切り落とした僕を愛せるはずだった 第9話

          【女・決意】  女は相手の気持ちを知りたくて、さり気なく探りを入れた。その結果、今の自分では至らないと知った。  だが、可能性が無い訳では無かった。 「恥ずかしながら、女の人が苦手なんですよ。でも女性が嫌と言うよりも、女性らしいって空気がどうも……」と彼は話した。  次の日、女は髪を短く切った。相手の男性は「よく似合う」と言って繰り返し褒めてくれた。そして、嬉しそうに笑っていた。その笑顔で女は今度こそ恋に落ちた。この人を愛したいと本気で思った。きっとこの人となら愛し合え

          胸を切った彼女なら、ペニスを切り落とした僕を愛せるはずだった 第9話

          胸を切った彼女なら、ペニスを切り落とした僕を愛せるはずだった 第8話

          【男・切除】  男は同棲する彼女と知り合う前、友人から違う女性を紹介されていた。乗り気では無かったが、断っても友人が連日紹介してくるので、仕方無く会う事にした。  友人がしつこく勧めてきただけあって、その女性との相性は決して悪くなかった。話していて嫌味が無かったし、何よりたぷんたぷんと揺れる胸が無く、こちらを誘惑する妖艶な笑みを浮かべる事も無かった。それでもやはり抵抗感が拭い去れず、途中で終わらせようとしたが、友人に止められてダラダラと会う日が続いた。  それがある日、どう

          胸を切った彼女なら、ペニスを切り落とした僕を愛せるはずだった 第8話