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胸を切った彼女なら、ペニスを切り落とした僕を愛せるはずだった 第9話
【女・決意】
女は相手の気持ちを知りたくて、さり気なく探りを入れた。その結果、今の自分では至らないと知った。
だが、可能性が無い訳では無かった。
「恥ずかしながら、女の人が苦手なんですよ。でも女性が嫌と言うよりも、女性らしいって空気がどうも……」と彼は話した。
次の日、女は髪を短く切った。相手の男性は「よく似合う」と言って繰り返し褒めてくれた。そして、嬉しそうに笑っていた。その笑顔で女は今度こそ恋に落ちた。この人を愛したいと本気で思った。きっとこの人となら愛し合える、だって胸が無い私にも変わらず接してくれて……いや、胸があった時以上に好意的な眼差しをくれるのだから。
それから女は思い付いた女性的な要素を次々に排除していった。まずは服の趣味を変えた。スカートを止めてパンツスタイルに、パステルカラーからシックな落ち着いたモノトーンにした。やはり彼は喜んでくれた。とても似合うと嬉しそうに笑った。
更に次はメイクを薄くした。アイシャドウを大人向けのヌーディベージュに、チークやリップの色もこれまで使っていた明るい色からヌーディなものへと変えた。正直パッと見では、化粧しているのかしていないのか自分でも分からないレベルだったが、これまた相手は喜んでくれた。「絶対その方が良い」と女の手を握って喜んでくれた。もう女は有頂天だった。
その次は爪を短くした。綺麗に手入れされた自身の爪が女のささやかな自慢だったが、ジェルネイルを外した。久し振りに何も付けていない爪を見た。男性なら、そんな所まで気付かないかもしれないと思ったが、彼には杞憂だった。
「派手じゃない方が良い、素の君の方が絶対良いって」と話しながら、ネイルの無くなった爪を彼は優しく撫でた。女は胸の鼓動がこの上なく速くなるのを感じた。いつもなら相手にいかに可愛く見られるかを意識しなければならないが、この男性相手にはその必要が無い。ありのまま、素の自分を見ようとしてくれている。もう大好きだった。彼のためなら、何でも出来る気がした。
そこで女は、思い切って聞いてみる事にした。
「好きな人は居ますか」
男は困ったように笑った。その笑顔がまた可愛らしくて、女は決意した。
彼の理想になってみせる――と。
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