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胸を切った彼女なら、ペニスを切り落とした僕を愛せるはずだった 第21話

 それからは、太造が好きそうな女を探し始めた。
 飲み会は手間も時間も掛かる割に、収穫が少ない。その点、マッチングアプリは手軽で便利だった。色んな女が簡単に見つかって良い。けれどその代わりに、普通の女しか居ない。顔が綺麗でスタイルが良いとか、ワンピースを着て首を傾げてニコッと笑っている女。そんないかにも可愛らしい女には、太造が食い付かない。一番肝心なのは、太造自身が自ら動くほどの情熱を持つ事。それほどの衝撃を受けた女性に裏切られれば、二度と恋愛なんてしたいと思わないだろうから。
 パッと見、マッチングアプリではそれらしき女が見つからなくて、初心に返ってみる。太造の好み女を改めて考える。化粧が濃い女は苦手。フリフリの服とか、堂々と生脚を出している女も苦手。それから、胸が大きい女の人は嫌だと以前に話していた。見た目に関しては、恐らく地味な方が反応は良い。
 あとはキャピキャピしている、あざとい女も嫌がる。人前で体を触られるのも苦手で、イチャイチャしたがる女も駄目。その一方で、家に帰ったらご飯を作って待っていてくれる健気な姿には憧れがあるらしい。自炊している癖にそういう所は古臭い考えの持ち主だと思うが、恐らく控え目で家庭的な女だと食い付きが良いはず。
 簡潔にまとめてみる。太造は見た目が女らしくない女が好きだ。ただし中身に関しては、多少古臭い概念の女性的な要素を好む。
 探せば、普通に見つかりそうだが……多分違う。そうではない。そういう普通に見つかる女では、アイツは〝運命の女〟と認識してくれない。
 何かもっと強烈な印象を与える要素が無ければ。女だけど、女ではない。そんな不思議な存在。世界中探しても、目の前に居るこの女しか居ないと感じられるような唯一無二の絶対的な女性。
「女、女、女……」
 女であって、女でない。では何を持って、女と決めるのか。生物学的には生殖器。膣、子宮、卵巣。身体的特徴であれば胸の膨らみ。いや、それ以外にも見た目の特徴は多々ある。服装や長い髪、整えられた顔。

 そうだ。太造にとって理想の女を、俺が作ろう。
 女だけど、女じゃない女。
  
 大学の卒業式で太造の母親を見た。凄く胸がデカかった。もう親世代の年齢だから垂れていたけれど、そのボリュームは服の上からでも十分に分かった。あれのせいで、きっと太造はデカい胸の女が嫌いなのだろう。
 よし。まずは胸が無い女を作ろう。

幸い、胸の予防切除が少し前に話題になった。あれを口実にすれば、良いように転がってくれる女は居るはずだ。

 目標が定まったので、次は行動に移していく。太造の好みになってくれそうな女を探す。本来の状態から多少なりとも手を加えないといけないので、俺の話にも色々と乗ってくれそうな女。
 話に乗ると言うと聞こえは悪くないが、要は言いなりになる女。自分が薄い。でも自己承認はある類だと扱い易い。俺は口が上手い方だから、そっち方面へ誘導すれば良い。
 自分の意思が有って無いようなもの、かつ誰かに話を聞いて欲しい。そんな輩を探すには、マッチングアプリよりSNSの方が適していると途中で気が付いた。
 そういう女はすぐに見つかった。誰も話を聞いてくれない、誰かに認めて欲しい、話を聞いて、死にたい。理由も無いのに、何でそっちの話ばかり一方的に聞かないといけないんだよと内心突っ込みながらも、手当たり次第にメッセージを送った。
 すると沢山釣れた。でも中には我が強い女とか、いきなり会いたいと言って順序を踏めない女も居た。こんなのは太造に合わない。慎重にスクリーニングしていく。
 やがて一人、めぼしい女を見つけた。文面は単調で、顔文字も一切使わない。けれど何処か甘えたがっている雰囲気。それとなく周りの状況も尋ねる。念の為に、家族とは疎遠、友人も多くない、常勤ではなくバイトやパートをしている人を選んでいく。そういった条件もクリアしていた。

 後の細かい話は省略する。会って、時期を見計らって、胸の切除を勧めた。その時は乳腺だけを取って、乳首は残す手術だった。実家の病院だから、麻酔は自分が入って、専門の先生に手術を任せる。自費診療だから、同意書さえ取れれば執刀医は口を挟んでこなかった。
 それから途中までは良い感じだった。元から中性的な面持ちで、しっかりした女性。これが太造にとって運命の女になるかは、やや疑念が残ったが、そのままアイツに紹介した。胸にコンプレックスを抱えていて、胸を切除した女性と説明すると、アイツは興味を持った。ちゃんと会ってみようと思ったらしく、比較的順調だった。
 けれど重大な確認ミスを犯していたた。女のセックスに対する認識や欲求までは確認していなかった。
 結果的に、かえって太造を傷付けてしまった。アイツはペニスを切ると話してきた。凄くショックだった。申し訳無かった。穏やかな生活を一緒に送りたかっただけなのに、むしろ太造の体を傷付ける羽目になってしまった。女は取り敢えず霊安室にぶち込んでおいた。焼肉屋の友達か、ジビエが趣味の友達に肉の捌き方をそのうち教えてもらおう。
 ただ一方で、アイツの陰茎が手に入った。予想外の収穫に思わずテンションが上がってしまった。切除したペニスは検体検査に出す必要も無いし、本人が破棄を希望したので処分する流れになったが、その途中でこそっと拾い上げた。こういう時、家が病院で良かったと思う。初めて親父に感謝した。
 けれど俺が満足した所で仕方無い。恐らく太造の警戒心は上がってしまった。次で絶対決める。必要以上に太造を傷付けたくないから、次こそはアイツの理想の女を必ず作ってみせる。今回の敗因は、表面的なものばかりに気を取られしまったせいだ。外見を作り変えられる事も必要だが、それよりも本人のキャラクターが重要。太造がもっと心の底から受け入れられるような女を。



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