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胸を切った彼女なら、ペニスを切り落とした僕を愛せるはずだった 第13話

【男・友人】

 男が浮気を疑ったのは、最近女の態度を余所余所しく感じる機会が増えてきたからだった。スマホを握り締めており、そんな時に声を掛けると必ずと言っていいほどスマホを隠す。何処へ行っているのか、帰ってこない日もあった。顔の皮膚が歪な治り方をしているので、傍から見れば笑っているのか笑っていないのかも分からないだろうが、男には何となく引きつった笑みを浮かべていると分かった。唯一助かったのは、セックスを求められる回数が減った事だったが、これも恐らく良い変化では無いはず。
 だがよく考えれば、以前から時折妙な様子を見せていた。それを今になって気付いた。彼女に対しては恐らく一目惚れに近い状態だったから、都合の悪い事実を無意識に見て見ぬ振りをしていたのかもしれない。自己防衛反応とは言え、現実を考えると困惑した。そもそも紹介してくれた友人の方が女性にとてもモテるのに、その彼ではなく自分を選んだ段階で違和感がある。そんな事に気付けないほど、心酔していたらしい。
 そうして、彼女が待つ家に戻る事が億劫になった。
「別れようと思うんだ」
 彼女を紹介してくれた友人に、男は今の気持ちを率直に打ち明けた。
「何で? 好きじゃないの? あんなに浮かれていたのに」
「浮かれていた……やっぱそう思う?」
「うん」
 遠慮無く頷く友人に、男は苦笑いで返すしかなかった。けれどハッキリと話してくれる友人の方が、今や安心感を覚えた。
「何かさ、他に誰か居るっぽいんだよね。もう本当、恋愛とか結婚とかいいかな……仕事に生きよう、うん」
「まぁ確かに、付き合って結婚して、将来まで考えると色々面倒臭いよな。男の浮気ばーっか叩かれるけど、女も浮気するし」
「そうだよなぁ……」
 溜息をつくと、友人は男の顔を覗き込んできた。
「どうした? 大丈夫か?」
「家帰るの、やだなぁって。最初は、凄く頑張り屋で真面目で優しくて一生懸命で、ありのままの姿を見るのが好きだったんだけど、今は顔を合わせるのも何かさ……」
「ふーん……んじゃ、今日はうち来るか? 俺んちの方が病院近いし」
「え、良いの?」
「広いトコ借りてるから、二人くらい十分寝られるし。別れるなら、そのまま引っ越しちまえば? 嫌な思い出、ぜーんぶ清算って事で」
「そんな簡単に……次に住む所なんて、すぐに見つからないよ」
「少しなら、うち使っても良いぞ。ルームシェアの代わりに、家賃折半と家事交代制な」
「それが目的か!」
「だーって、太造(たいぞう)って几帳面じゃん? 俺、洗濯物を一々畳むのとか面倒臭いんだよね」
「まぁ、それ位ならやるけどさ」
 古い馴染みである事もあり、友人と話すと沈んでいた気持ちも軽くなった。
 女性はもう良いと思っていたはずなのに、友人が言うように、妙に浮かれて、下手な期待をしてしまったのが間違いだったと男は思った。



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