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郁音あやり
2023年1月30日 12:06
紅茶とビスコ2枚といういつもの朝食を、窓の外を眺めながらとる。先日、菜月に言われたことが頭をよぎった。「智の癖がうつっちゃって、今でも紅茶飲む時はクッキー添えるんだけど」蜂蜜色の髪と、耳元でくるくると揺れるピアス。「友達にさ、イギリス人なの?って言われたよ。覚えてる?私も智にそう言ったの。」覚えてる、とその時智は答えた。「俺の部屋に初めて菜月が来た時ね。」「ちゃんとカップを温めてから紅
2023年1月25日 12:34
なんでこんなに懐かしいと思うのか分からない。手放しで良い思い出だと言えるほど、たのしい時間では無かったし、窮屈だった。戻りたいかと言われると、勘弁してくれと思うし、一方で、もう一度あの小さな世界に閉じ込められたいとも思う。水槽の中の熱帯魚だったのだ。自分をとり囲む半径五メートルの教室が世界のすべてだと思っていた。だれかが書いた机の落書きとか、体育館の床すれすれについた小窓から漏れ聞こえ
2023年1月24日 13:34
おげんきですか。昔の友達に手紙を書くとなって、何人か思い浮かんだ顔の中にあなたがいました。あの時あなたはああだったよね、こうだったよね、って言い合える友達はあなたしか居ないとも。一度喧嘩をしましたね。あれがケンカだったのかどうか私には正直分からないのですが。だって何が原因で何のための喧嘩だったかさっぱり覚えていません。覚えているのはあなたが先に謝ってくれたこと。正面からごめん、と言ったあ
2023年1月24日 13:16
よく晴れた夏の昼下がり。果奈は黙々とらっきょうの薄皮をむいていた。義母から菜園でとれたものをたくさんもらったので、下処理をして漬けようと思ったのだ。爪が短いので思うように進まない。外はうだるように熱く、クーラーが苦手な果奈はいつも体のすぐそばに扇風機を置く。不意に、外の空気が変わった気がした。相変わらず太陽はぎらぎらと辺りを照り付けているが、なんとなくしんとしている。そういえば蝉の声も聞こえ