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北朝鮮でのサッカーの作法 #2 だいたい男ってのは

 今や男らしさや女らしさということばは、急速に色あせているものなのかも知れない。LGBTがここまで市民権を得た今、あえてそれを持ち出すのは時代錯誤でしかないのかも知れない。

 さて、サッカーでの日本対北朝鮮の試合のあとのこと。ぼくは北朝鮮側が勝つとLINEで「おめでとうございます」と在日のコリアンの友人にメッセージを送る。「おいおい!(日本人の)おまえがいうか!」とツッコミは入るがほぼ「やったぜ!」「ありがとう」とゴキゲンである。

 だが、ここで多くの男性がため息を吐く。「問題は男子なんだよな、男子」

 北朝鮮ではスポーツにおいて、サッカーでも卓球でも何でも、女子の方が圧倒的に世界ランキングがいいのである。男子はへなちょことまではいわないけど相対的に弱い。

 興味深い話を聞いたことがある。90年代後半の経済危機、苦難の行軍と呼ばれた時期のこと。市場などで商売を始め家計を支えたのは女性であった。経済危機の渦中何もできない男性の代わりに、女性が家計を支えた。
 経済危機故に、職場に行ったところで仕事はない。資材も電気もない。必死に働く女性を横に、なすすべのない男性が出来るのは番犬よろしく家で泥棒が入らないよう留守番することだけで、その様子から時にうちの멍멍(モンモン=わんわん=犬の鳴き声)と男性は時に揶揄されたという。うぅ…。経済的に妻の方が圧倒的に稼ぎがいい我が家の姿を重ねると胃が痛いぞ。

 在日コリアンの集まりに行くと、男性だけが焼肉を食べ酒を飲み、女性がかいがいしく働く姿をよく目にする。「在日社会は未だ本当に男尊女卑!」と友人の50代女性は憤怒し「あなたはそうなっちゃいけませんよ。毎晩奥様のために夕飯を作っているあなたなら大丈夫だと思いますが」と言ってくれるのだが、その怒りもさもありなんという光景が広がる。

 とはいえ、その友人女性はじめ、在日コリアンの女性の怒りを日々、ひしひしと男性陣は受け止めているのだろう。「問題は男子なんだよな、男子」というのはサッカーの試合に限らず、年々徐々に女性に旗色が悪くなっている在日コリアン社会における男性の立場の弱さへの嘆きでもあろう。

 なお、在日コリアンの組織に「女性同盟」と呼ばれる組織がある。「녀맹=ニョメン=女盟」が略。色々気さくに話してくれても、女盟の話になると口が重くなる男性陣が多い。個人的にはアクティブでちゃきちゃきっとした、気風のいい性格の女性が多く、愛読者も多いのでぼくは大きな好感を持っているのだが、在日コリアン社会の内部では語れないことが多々あるのだろう。在日コリアンの男性の苦衷ぶりには、共感を示しておきたい。

 フェミニストだけでなく、女性のみなさんから怒りを買う可能性は高いが敢えて言おう。「スポーツネタは鉄板。さらに恐妻家アピールは男性に限ってならウケるネタである」と。

 日朝在日コリアンの3者会談に、韓国人も加えて4者会談を開くことが出来たらと夢想する。「女性って怖いよなー」という話を真夏の怪談の如く、あるいは秘密結社の如く集まり出来たら。意外とぼくたちと隣人たちは共感し、新たな友好を深めることが出来ると思うのだ。

■ 北のHow to その66
 結婚以来我が家ではぼくが夕飯を主に作っています。日本ならおぉ~!と驚かれることがあっても、北朝鮮では余り。「わが国は社会主義ですし、共稼ぎが当たり前ですからね」とにべもないのです。でもそれは表向きの顔なのかも知れません。やっぱり奥さん怖いですよねという話では、盛り上がりました。奥さん怖いネタ、ぜひやってみましょう。お互い頑張ろうぜ!隣人!

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