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東京日朝焼肉大戦争血風録(3)

 朝鮮大学校。ここになかなか日本人が入ることは出来ない。ってこともない。年数回公開セミナーや文化祭の時にお邪魔している。よく考えたら自分の母校よりも通っている。「朝鮮大学校へようこそ」と腕組みをして待つ異端児に連れられて、正門をくぐろうとすると受付で止められた。その日は在日コリアン限定、日本人は例外を除き入校不可のイベントの日だった。

 テントの下で名前と職業「著述業」と書くと、んん?ちょ、ちょっと待てよと止められた。「著述業って何ですか」「まぁ書いたり話したりを生業にしてます」「記者?取材ですか?」「そんなところです」。記者と問われ頷いたところでざわ…、ざわ…、ざわ…、となるテント。「S経新聞ですか?」「違います。フリーです」「どこに書くのですか?S経新聞ではないですか?」「朝鮮新報(朝鮮総聯の機関紙)と週刊◯◯(在日コリアンには評判が良い)の予定です」「あなた日本人ですよね?なぜ、朝鮮新報に書くのですか」「うーん、それは色々ありまして、話すと長くなりますねぇ」

 受付に手間取るぼくを見て異端児は「先に行くぞ!我々は逃げも隠れもせん!広場におる。あとから来い!」と去って行った。

 マスコミ関係者への対応は厳しい。中でも過去も現在も色々あったS経新聞は不倶戴天の敵である。一度「取材は許可しますが、朝鮮大学校の職員が終日同行します」と言われたこともある。ただ、やって来た職員の方は、朝鮮新報のぼくの記事を読んでくれていた方で「はいはい。あなたが”あの”北岡さんね。あとはご自由にどーぞ」とものの5分で解放してくれた。

 広場にそのまま行くのも面白くない。数時間かけていくつか取材をして、いよいよ異端児のいう「広場」に足を踏み入れた。そこでぼくは驚愕するのである。

 そこにはもうもうと煙が立ち込めていた。火事か!と思うほどの。香ばしい匂いがする。たくさんあるテーブルの上には七輪が並び、みんながみんな焼肉を焼いている。スッとひとりの痩せた男が寄って来た。「お待ちしてました」。そのまま連れられひとつのテーブルに座ると異端児がどっかと座っていた。

 そのテーブルにも七輪が置かれ、もうもうと焼肉が焼かれていた。スッと出てくる紙皿。缶ビール。「アルコールはアレルギーあってちょっとダメでして。仕事もありますし」と断ると、痩せた男がどこかに走りコーラを買って来た。乾杯をする。

「ささ、食べなされ」。物腰柔らかく異端児は勧める。その笑みが不気味だ。誰かがどこかに走り七輪に買ってきた焼肉を並べる。かつて森脇健児はタモリに焼肉に呼ばれた際、どばーっと肉を並べて焼いて激怒されたというが、ここの人たちはみな森脇健児スタイルである。タモリが見たなら激怒して頭の血管がキレるレベル。肉が来るとどばーっと並べて焼く。肉は3分の1が焦げ、ホルモンから脂が落ち七輪の炭に着火。炎が上がる。すると慣れた手つきで、飲み物の氷を網の上に置き消火する。

 キムパブが来る。キムチが並ぶ。カルビとホルモンとハラミががんがん焼かれる。ぼくは呑まないが、缶ビールと缶チューハイが恐ろしい勢いで空いていく。

 空は秋晴れ。雲一つない。風は少し冷たいが、七輪の熱が中和してちょうどいい具合。広場の正面には舞台があり、子どもたちが歌っている。「좋다」(チョッタ=いいね~!)と野太い声があがる。

「さて再び問おうか。焼肉は屋根の下で食うものか」。異端児が腕組みをし低い声でいう。こういうことか。これが至高の焼肉というやつか。

 ホルモンから脂が滴り、また火が起こる。異端児とぼくの間に出来る炎の壁。炎の向こうで異端児は不敵に笑っていた。

                              つづく 

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