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光と影を抱えたリーダーだからこそ、共に悩み、歩み続けることができる

コーチングによってリーダーの気づきがどのように深まり、そのリーダーの変容によって組織メンバーがどのように成長していくのか。「組織は自分の鏡」のダイナミズムを体現された山崎社長(仮名)の事例を、前回まで紹介させていただきました。

「部下がパフォーマンスを上げられないのは、そういう環境を創っている自分の責任」と捉え、部下の悩み、苦しみを「傾聴と承認」によって受け止めようと努力し続けた山崎さん。その姿は、まさに私が描く理想のリーダー像と重なるものでもありました。

それは、彼が「光と影を統合した、器の大きなリーダー」として“完成した存在”になったからという意味ではありません。山崎さんは、どんなに傾聴しようとしていても、つい無意識的に部下に圧力をかけてしまう自分を知っていました。経営トップとして最終責任が問われる立場だからこそ、ここは部下の意見を退けてでも明確に方向性を指示すべきか? それでは部下の自主性を奪ってしまうことになるのではないか? 彼は、光と影を抱えながら、器の拡大を目指して常に葛藤し続けていました。だからこそ、理想的だと思うのです。

いつまでも影を抱え続けている。「だからこそ」

「えっ?常に葛藤を抱えているのが理想?光と影を統合して、葛藤を解消するのではなく?」

そう疑問を持たれた方もいらっしゃるかもしれません。この連載では、これまでずっと「光と影を統合しよう」というメッセージを発してきましたから、首を傾げられて当然だと思います。私自身、長い間「光と影を統合しなければ」と考えて、努力を続けてきました。その甲斐があって、元来は至極狭量な私の様な者でも、自分とは考え方の違う人たちを以前よりは柔軟に受け止められるようになり、15年前と比べたら、人間としての器も少しずつ広がってきたのではないか、と自負しています。

それでも、自分の一部を影として否定的に見てしまう傾向は、まだまだ残っています。

例えば、「自分を信頼できない」という根深い思い。何度もその影と向き合い、影を受容し統合するプロセスを繰り返してきたはずなのに、ふとしたきっかけで“やっぱり自信がない自分”にほとほと愛想が尽きて自己嫌悪に陥ってしまう瞬間は、私の日常に珍しいものではありません。
この連載を始めてしばらくたってからのことです。無意識的に権威ある人に頼り、自己判断を初手から放棄していたこと、相手からどう思われるかが自分の言動の羅針盤になっていたことに、とあるきっかけで深い痛みとともに気づきました。

「すみこさん、やめて!」スタッフのひと言で見えた世界

その痛みの渦中にあったとき、「こんなに学んで、ずっとずっと努力してきたのに、セミナーで皆さんに自己信頼が大事ですよとお伝えしているのに…その張本人の自分が、自分を信頼できていないなんて…この自分をなんとかしたい」。弊社のスタッフに、そんな気持ちを漏らしたことがありました。そのとき彼女から返ってきた言葉は想定外で、だからこそとても新鮮に響きました。

「すみこさん、もうこの辺でやめて下さいよ。自己信頼って、どこまで必要ですか? これで更に自信があったら、教祖さまみたいになっちゃいますよ~(笑)。自信がないくらいがちょうどいいです。」

「ああ、なるほど、確かに……」と笑いながら納得。
彼女の明るくて温かなエネルギーに導かれて、ふとバランスのとり方に気づけた瞬間でした。「これでいい、こんな私だから、いいのね」と。

自信がないからこそ謙虚になれるし、慎重にもなれる。そして、自信がなくて悩んでいる人に共感し、ともに歩んでいける。仮に光と影を完全に統合した悩みなきスーパーコーチだったとしたら、悩んでいる人の気持ちに寄り添うことなどできなくなるでしょうし、おそらくクライアントもそんなコーチには相談もしにくいのではないか、と。そう考えると「自信がない」状態も、それについて悩むことも、とても大切なことだと感じられるようになりました。

「光と影を統合して器を広げるのが、リーダーとして正しい」
長い間、私はそう思って努力を重ねてきました。いまも、その方向性が間違っていたとは思っていません。でも、最近は少し質感が違うのです。

「光と影の統合」へ向けた道を歩みながらも、「そうしなければならない」という価値観(思い込み)に囚われてはいない。統合を目指しながら、影の部分も影としてそのまま受け入れている。そんな状態が大切だと感じています。

不完全さこそ、大切

この質感の違いは、人への接し方にも大きな違いを生み出します。

「統合しなければならない」という価値観に縛られたままだと、「光と影」の葛藤を抱えた人物を目の前にした場合に「ほら、統合できてない。気づいてもいない。だからだめなんだよ」と、自分の正しさを振りかざして相手を裁いてしまいがちです。ここまで連載を読み進んでくださった皆さんなら、その構造はよくご理解いただけるでしょう。この状態では、相手を追い込んで委縮させ、パフォーマンスを下げてしまったり、場合によっては深く傷つけてしまったりすることにもなりかねません。私もそんな失敗を何度か繰り返してきた記憶と後悔があります。

しかも、そういうときには、自分のしてしまっていることに気づけてはいないのが常です。
自分に疑いなく自信満々な状態は、どこかが麻痺して視野が狭くなっているからこそ実現するものかもしれません。むしろ自信がない状態のほうが安全。いまは、そう考えるようになりました。

「自信がない」という影と、その裏返しである「自信を持ちたい」という光。
いまの私は、この光と影を統合しないほうがいいとさえ思っています。といっても、開き直っているわけではありません。

葛藤や矛盾を抱えたまま、統合への道を歩み続ける。そうした自分の不完全さを受け入れ、同時に自分の周りの人たちの不完全さも受け止める。この在り方こそが、これからの時代のリーダーとして本質的に求められる器なのではないかと感じています。

次回はいよいよ最終回。
多様性が増し、併せて混迷を深めつつあるいま、なぜ葛藤を抱えつつ歩み続けるリーダーが必要なのか。そんなリーダーは周囲の人たちにどのような変化をもたらしていくのか。そして、コーチングの、その先に広がる世界へご案内する予定です。

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インタビュー / 執筆:大村 たかし
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