加藤真史
札幌にある古道具屋、プラプラ堂。ひょんなことから道具たちと話ができるようになった店主。店にやってくる道具たちと店主のひとりごとのようなお話たち。
「それぞれの10年」に参加しています。 かとうまふみ
私には、同じ歳の従姉妹がいる。名前はせーこちゃん。私の家は北海道、彼女は広島県と離れていたけれど、小さい頃から年に一度くらいは会っていたと思う。夏休みなど長い休…
しばらく、プラプラ堂をお休みします。今後は、不定期に別のお話を書きたいと思っています。突然のお知らせで、ごめんなさい。 ここでの発表はしばらくありませんが、プラ…
〜古い道具たちと、ときどきプラスチックのはなし〜 (夏越大祓)のはなし ひどい雨と風の翌日。空は一気に晴れ渡り、まるで台風一過のような青い空が広がっている。そ…
〜古い道具たちと、ときどきプラスチックのはなし〜 主婦のプロのはなし 初めて店に来たその人は、ドアを開けてぼくを見るとにっこりと微笑んだ。60代くらいだろうか。…
〜主人のいない店のはなし〜 休日、天気がいいのでぶらぶらと街歩き。ライラックが咲きはじめた大通り公園をのんびりと歩いて、狸小路商店街まで来た。そうだ、久しぶりに…
〜古い道具たちと、ときどきプラスチックのはなし〜 空回りの日のはなし 灰色だった山の色が、ふわりと淡いグラデーションの緑色に包まれている。この時期の山並みの緑が…
〜古い道具たちと、ときどきプラスチックのはなし〜 身代わりの器のはなし 札幌の桜も、そろそろ終わり。今はチューリップや水仙がきれいだ。いろいろな花たちがどんどん…
〜古い道具たちと、ときどきプラスチックのはなし〜 小麦のはなし 久しぶりに高校時代の友人、深瀬が店に遊びに来た。深瀬は今、ライターのような仕事をしている。雑誌の…
〜古い道具たちと、ときどきプラスチックのはなし〜 桜のはなし 店の商品の買い付けに行く。しばらくは持ち込みばかりだったけれど、春の引越しシーズンだけあって、多め…
〜古い道具たちと、ときどきプラスチックのはなし〜 オーディオブックのはなし ぼくは、昔からラジオが好きだ。ラジオドラマも好きで「青春アドベンチャー」や「ラジオシ…
〜古い道具たちと、ときどきプラスチックのはなし〜 『山の手』のはなし ようやく暖かくなったと思ったら、粉雪が降る寒さになったり。そして、今日はまた急に暖かくなっ…
〜古い道具たちと、ときどきプラスチックのはなし〜 ふきのとうのはなし うめさんが久しぶりに店に来てくれた。いつもの笑顔にほっとする。うめさんがいるだけで、店の中…
〜古い道具たちと、ときどきプラスチックのはなし〜 なくした手袋のはなし もうすぐ4月。札幌はすっかり暖かくなってきた。東京では満開の桜の便り。今年は札幌でも桜の…
〜古い道具たちと、ときどきプラスチックのはなし〜 四つ葉のはなし 本棚を整理していたら、古い絵本が見つかった。『ちびくろ・さんぼ』だ。赤い表紙の真ん中に、ちびく…
〜古い道具たちと、ときどきプラスチックのはなし〜 ブランコのはなし 札幌も、だいぶ春らしくなってきた。日中はプラスの気温が多くなって、雪どけがどんどん進んでいる…
〜古い道具たちと、ときどきプラスチックの話〜 大きな木のはなし ときどき、近くにある神社に行く。鳥居の入り口から神社への道が、ものすごく急な坂になっている。距離…
私には、同じ歳の従姉妹がいる。名前はせーこちゃん。私の家は北海道、彼女は広島県と離れていたけれど、小さい頃から年に一度くらいは会っていたと思う。夏休みなど長い休みには、お互いの家にしばらく泊まることもあった。せーこちゃんは大の本好きで、いつもたくさんの本を読んでいた。会うと必ず「ドリトル先生」や「シートン動物記」など、読んでいる本のことを話してくれた。その頃の私といえば、外で遊んでばかりで、本は全然読まなかった。でも、せーこちゃんの話してくれる本の話はとても面白くて、自分が読
しばらく、プラプラ堂をお休みします。今後は、不定期に別のお話を書きたいと思っています。突然のお知らせで、ごめんなさい。 ここでの発表はしばらくありませんが、プラプラ堂は、札幌のどこかでひっそり営業中です。しっかり者の抹茶碗たちに見守られて、店主も、マイペースに成長してゆくと思います。また、再開する時は、どうぞよろしくお願いします。 加藤真史
〜古い道具たちと、ときどきプラスチックのはなし〜 (夏越大祓)のはなし ひどい雨と風の翌日。空は一気に晴れ渡り、まるで台風一過のような青い空が広がっている。そして、急に暑くなった。その日、店は休みだったので、切れてしまった珈琲豆を買いに車を走らせた。道路には街路樹の枝が落ちていて、落ち葉が散乱している。昨日は本当にすごい風だったんだな。いつもの豆を買って店を出た。雨あがりで空気は少し蒸すけれど、日差しが眩しく、緑がキラキラして見える。少し散歩をしたくなって、途中にある月寒
〜古い道具たちと、ときどきプラスチックのはなし〜 主婦のプロのはなし 初めて店に来たその人は、ドアを開けてぼくを見るとにっこりと微笑んだ。60代くらいだろうか。明るいショートカットで、細身の小柄な女性だ。黄色の花柄のワンピースにグレーのカーデガンが良く似合っている。店内をぐるりと眺める。大きな目がくるくると動く。それから、商品をひとつひとつ手に取りながら、店の中をまわった。 「あら、かわいい」 手にしていたのは、つい先日入ったばかりの小さなガラスのコップだ。おそらく手描
〜主人のいない店のはなし〜 休日、天気がいいのでぶらぶらと街歩き。ライラックが咲きはじめた大通り公園をのんびりと歩いて、狸小路商店街まで来た。そうだ、久しぶりに「N」に行ってみよう。「N」は、ぼくが好きな古道具屋だ。主に日本の道具を扱っている店で、女主人のセレクトが素敵なのだ。この人と話すと、言葉の端々に道具たちへの愛情を感じられる。そして勉強になる。ぼくは密かに彼女を(師匠)と呼んでいる。 狸小路商店街にはいつの間にか、新しい店が出来ていた。「ニュー花園」に「ルマンド」
〜古い道具たちと、ときどきプラスチックのはなし〜 空回りの日のはなし 灰色だった山の色が、ふわりと淡いグラデーションの緑色に包まれている。この時期の山並みの緑が好きだ。ふと、旭岳に行きたくなった。なに、登山ではない。ロープウェイで登って散策するだけのこと。でも、いっぺんで魅了された山だ。アイヌ語では「神々が遊ぶ庭」と呼ばれている。北海道の自然の雄大さを肌で感じられる場所だと思う。 (ああ、旭岳に行きたい) すぐに近くのホテルを予約した。ぼくとしてはめずらしいことだ。そ
〜古い道具たちと、ときどきプラスチックのはなし〜 身代わりの器のはなし 札幌の桜も、そろそろ終わり。今はチューリップや水仙がきれいだ。いろいろな花たちがどんどん咲いて、短い北国の春を彩っている。そんな中、金継ぎをやっている洋子さんが店に寄ってくれた。半年前に頼まれたカップの金継ぎがようやく完成して、納品に行った帰りだそうだ。洋子さんはいつもたくさんの器の直しを抱えていて、忙しそうだ。今日は少し疲れているように見えた。ぼくは、珈琲を入れてすすめた。 「いい香りね。ありがとう
〜古い道具たちと、ときどきプラスチックのはなし〜 小麦のはなし 久しぶりに高校時代の友人、深瀬が店に遊びに来た。深瀬は今、ライターのような仕事をしている。雑誌の取材、地方紙の記事の編集、イベントの主宰などなど、なんでもやっている。フリーランスのいわゆる何でも屋だと思う。が、本人はあくまで「ライター」と言い張る。深瀬は店に来るなり、いきなり言った。 「面白いこと、教えてやるよ。左手をお腹に当てて。それから右腕を真っ直ぐに横に伸ばして」 深瀬は唐突に変なことを言ったり、始
〜古い道具たちと、ときどきプラスチックのはなし〜 桜のはなし 店の商品の買い付けに行く。しばらくは持ち込みばかりだったけれど、春の引越しシーズンだけあって、多めの買入れが続いた。古い椅子、テーブル、皿やカップが多い。札幌は先日、桜の開花宣言が出たばかりだけれど、今日は寒かった。車の移動だからと油断していた。もう少し厚着をすれば良かったな。そんなことを考えていたら、みぞれが降ってきた。 (寒いはずだ…) 早めに終わらせて早く帰りたいな。ニュースでは7分咲きの桜の映像を観
〜古い道具たちと、ときどきプラスチックのはなし〜 オーディオブックのはなし ぼくは、昔からラジオが好きだ。ラジオドラマも好きで「青春アドベンチャー」や「ラジオシアター文学の扉」なんかもよく聴いていた。最近はポットキャストやオーディオブックも聴くようになった。オーディオブックは、ハウツー本やビジネス書が多い感じがする。ぼくが聴いているのは、今のところ無料の、しかもごく短いものだけだ。 先日、カズオイシグロの「クララとお日さま」が1コインで聴けるのを見て、すぐに申し込んだ。
〜古い道具たちと、ときどきプラスチックのはなし〜 『山の手』のはなし ようやく暖かくなったと思ったら、粉雪が降る寒さになったり。そして、今日はまた急に暖かくなった。春の札幌の天気は、こんな繰り返しが多い。昔は平気だったけれど、最近は身体がついていかない。だるくて、頭がぼーっとする。何もやる気が起きない。とりあえず、ぼくは散歩に出かけた。 真駒内公園に来たのは、今年初めてだ。お気に入りの散歩コース。豊平川と合流する真駒内川が 園内を流れていて、ピクニックに来る家族連れや、
〜古い道具たちと、ときどきプラスチックのはなし〜 ふきのとうのはなし うめさんが久しぶりに店に来てくれた。いつもの笑顔にほっとする。うめさんがいるだけで、店の中がぱっと明るくなるようだ。ぼくがほっこりしていると、うめさんは、開口一番、 「はい、これ食べて」 と、小さな瓶を差し出した。 「なんですか?」 「ふき味噌よ。山菜で春の毒だし!」 「春の毒だし…」 「そ。冬の間に溜まった体の毒を出す手伝いを、山菜たちがしてくれるのよ。この苦味がね、いいの!自然は本当にすご
〜古い道具たちと、ときどきプラスチックのはなし〜 なくした手袋のはなし もうすぐ4月。札幌はすっかり暖かくなってきた。東京では満開の桜の便り。今年は札幌でも桜の開花は早い予想。楽しみだな。道路の脇に山になっていた雪も、ずいぶんと小さくなった。この時期の残り雪は黒く、道路はべちゃべちゃできたない。春はうれしいけど、ぼくはなんとなく、この残り雪を見るといやな気分になってしまう。それは、ただ、道路や雪がきたないからと思っていた。でも、つい先日思い出したことがある。手袋のことだ。
〜古い道具たちと、ときどきプラスチックのはなし〜 四つ葉のはなし 本棚を整理していたら、古い絵本が見つかった。『ちびくろ・さんぼ』だ。赤い表紙の真ん中に、ちびくろ・さんぼが緑の傘をさして立っている。その周りでは、とらが、ぐるぐる回っている。お互いの尻尾をかじりながら。岩波書店の本だ。 「わあ、なつかしいな」 ぼくは思わず手に取った。 「おっと!うわぁ、ボロボロだなぁ…」 背は剥がれていて、かろうじて紐でつながっている状態だ。ページをめくると、外れたページがパラリと
〜古い道具たちと、ときどきプラスチックのはなし〜 ブランコのはなし 札幌も、だいぶ春らしくなってきた。日中はプラスの気温が多くなって、雪どけがどんどん進んでいる。何より、空気が柔らかくなった。日も長くなってきたなぁ。春が近いことを感じると、やっぱりうれしくなる。とはいえ、公園でこどもたちが遊ぶのは、まだ先だ。ぼくがよく散歩する近くの公園のブランコは、ロープで縛られていて、雪がとけるまで使うことができない。ぼんやりとその公園を散歩しながら、縛られたブランコを見ていたら、こども
〜古い道具たちと、ときどきプラスチックの話〜 大きな木のはなし ときどき、近くにある神社に行く。鳥居の入り口から神社への道が、ものすごく急な坂になっている。距離的には100メートルくらいだけど、これがけっこうきついんだ。道の左右にはロープがあって、お年寄りはこれにつかまって登り下りする。冬はすごく滑るから、これに捕まらないと危ない。ロープは必需品だ。神社の裏手は山の散歩道になっていて、春は桜がきれいだ。神社でお参りをしてから、このあたりを散歩して帰るのがいつものコース。