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プラプラ堂店主のひとりごと

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札幌にある古道具屋、プラプラ堂。ひょんなことから道具たちと話ができるようになった店主。店にやってくる道具たちと店主のひとりごとのようなお話たち。
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記事一覧

プラプラ堂店主のひとりごと①

〜古い道具たちと、ときどきプラスチックのお話〜  プラプラ堂は、古道具屋です。まあ、あまり古道具屋らしくない名前だとは思うよ。どうせなら、珍品堂とか懐玉堂とかもっと威厳のある名前がよかったかなぁと思ったり。  どうしてプラプラ堂という店名を付けたかというと、ぼくが仕事を辞めてプラプラしている時に始めた店だから。うーん、あまりにひねりがない。でも別に古道具にこだわりがあるわけじゃないし。骨董品みたいな年代物が置いてある店じゃないから、これでいいかなと思ったんだ。ま、要は何も

プラプラ堂店主のひとりごと②

〜古い道具たちと、ときどきプラスチェックのはなし〜 蕎麦猪口のはなし ガラス瓶の話を聞いてから、ぼくはペットボトルを買うのを減らすことにした。とはいっても、ストイックなタチじゃないからできる時だけ。うちにあった水筒に、お茶を入れて持ってきている。店では、ちょっとかっこつけて蕎麦猪口で飲む。  この蕎麦猪口は、もともと売り物にするつもりだったんだ。けど、気に入って自分で使うことにした。すっぽりとぼくの手に馴染む感じが、ちょうどいいんだ。白地に藍色で山水模様が描かれている。よく

プラプラ堂店主のひとりごと③

〜古い道具たちと、ときどきプラスチェックのはなし〜 あけびかごのはなし ぼくの家には、かごがけっこうたくさんある。母が、かご好きだったんだ。それで、店にもいくつか置いている。この間、あけびのかごの持ち込みがあって、買い取った。シンプルなんだけど、すごく美しい形。それまでぼくは、あけびかごがこんなに高いなんて知らなかった。ネットで相場を見てびっくりした。同じようなかごでも、ぜんぜん違うんだな。機械で作ったかごは、店頭にある時が一番美しいけど、手作りのかごは使うほどに手に馴染み

プラプラ堂店主のひとりごと④

〜古い道具たちと、ときどきプラスチェックのはなし〜 金継ぎの大皿のはなし 藍色の唐草模様の大皿が店に入った。端っこの欠けた部分に金継ぎがしてある。これが、いいアクセントになっている。この皿に料理を盛り付けたらさぞ美味しく見えるだろう。ぼくは一人暮らしだから、この大きさはちょっと使えないのが惜しい。お惣菜をお皿に盛り付けるようになってから、陶器に興味が向くようになった。使いやすいと思って、家にあった白い食器を使っていたけど、味気なく思えてきて。いろいろ見て回るようになると、陶

プラプラ堂店主のひとりごと⑤

〜古い道具たちと、ときどきプラスチックのはなし〜 抹茶碗のはなし 環境の本を読んだりプラスチックに関する記事を調べるうちに、だんだん嫌な気持ちになってきた。(プラスチック容器のリサイクルはエコかも!)とか思っていたら、ほとんどのプラスチックからは体に有害な毒素を出しているらしい。だからレンジで温めるのは、特にやめた方がいいとある。そりゃ、使い捨てになるよなぁ。使い回しなんて、できないじゃん。そして、毎日のように飲んでいたペットボトルからも微量の毒素が出ているらしいし。地球へ

プラプラ堂店主のひとりごと⑥

〜古い道具たちと、ときどきプラスチェックのはなし〜 ガラスピッチャーのはなし 前に勤めていた会社でデザインの仕事をしている時もそうだった。ちょっと大きな仕事を任された時、尻込みしたんだ。顔には出さないようにした…つもり。だけど、伝わってただろうな。本当は怖かった。そんな気持ちでやった仕事は、案の定、うまくいかなかった。会社の人は、ぼくを責めなかった。それなのに。ぼくはどんどん卑屈になった。自分で自分に言い訳して、気がついたら自分の殻から出られなくなっていた。自分を責めた。人

プラプラ堂店主のひとりごと⑦

〜古い道具たちと、ときどきプラスチックのはなし〜 カメのはなし ガラスのピッチャーを見つけた時に、棚の奥からいろいろと懐かしいものが出てきた。このカメもそのひとつだ。茶色いあめ釉の蓋付き常滑焼。よく梅干しが入っていたっけ。さっそく洗って乾かした。 「あ~久しぶりにさっぱりしたわ」 「ずいぶん長く使ってなかったよね」 「ええ、本当ね。もうお休みは十分!さ、使ってくださいな」 「今、ぼく、ひとりなんだ。梅干しもそんなに買わないしなぁ」 「梅干しよりもね、私はぬかどこを作って欲し

プラプラ堂店主のひとりごと⑧

〜古い道具たちと、ときどきプラスチックのはなし〜 漫画本のはなし カメを買ってくれたおばあちゃんの名前はうめさん。店で買ってくれたカメで、ぬかどこを作って、持ってきてくれた。ぼくがあんまり感激したからかな。それ以来、ちょくちょく店に遊びに来てくれるようになった。ぼくは自炊を始めたことを話すと、料理のことをいろいろ教えてくれる。うめさんは本当になんでも知っている。レシピだけではない。食材の選び方、保存法、ちょっとした生活の知恵まで。今のぼくには、その全部が新鮮に思える。うめさ

プラプラ堂店主のひとりごと⑨

〜古い道具たちと、ときどきプラスチックのはなし〜 何にもしない日のはなし 羊ヶ丘展望台に来ている。ここはぼくのお気に入りの場所だ。広くて、なんにもない。いや、ここは観光施設。もちろん、いろいろある。ジンギスカンも食べられるし、雪まつり資料館、お土産屋さん、カフェもある。今もたくさんの観光客がうれしそうにクラークさんと写真を撮っていたり、白い恋人ソフトクリームを食べたりしている。何にもないといったのは、ぼくはここでは何もしないから。羊ヶ丘のぼくの定義は(なんにもない広い場所)

プラプラ堂店主のひとりごと⓾

〜古い道具たちと、ときどきプラスチックのはなし〜 インドの布のはなし ぼくの店のある商店街の会長は、居酒屋(さ・か・な)の大将の佐々木さん。まだ40代後半と若いけど、社長らしく自信のある雰囲気で声の大きいタイプ。プラプラ堂みたいな小さな店でも商店街の一員としていろいろと声をかけてくれる。  ときどき店の商品も買ってくれるし、今日、初めて持ち込みにやってきた。お土産でもらったというインドの布。伝統的な手法で作られた、なかなか良い布らしい。でも、大将曰く、 「俺、こういうの

プラプラ堂店主のひとりごと⑪

〜古い道具たちと、ときどきプラスチックのはなし〜 土鍋のはなし 商店街の役員は、結局来年度からやることになった。 「もしまだ可能なら、やっぱり、役員やらせてください」  思いきって大将にそう言った。(今さらなんで!?)と驚くかと思ったけど、すんなり受け入れてくれた。拍子抜けだった。人を動かす立場の人には、そういうのがわかるものなのかな。ぼくにとっては大きな変化で、決断だったけれど。今となっては、自然な流れだったのかもしれないと思ったりもする。やると決めたら、ちょっとわく

プラプラ堂店主のひとりごと⑫

〜古い道具たちと、ときどきプラスチックのはなし〜 土鍋のはなし「寂しかったと思います」  土鍋の言葉を聞いて、胸の中がさーっと暗くなっていった。ずっと向き合えずにいた胸の奥の痛みがよみがえってきた。  プラプラ堂を始めて、道具たちと話をするようになって、自分の居場所を見つけたように思えていた。でも、それと同時に、きっとそのうち、ごまかしてきた気持ちと向き合うことになるような気がしていたんだ。いきなり、それを突きつけられたような。そんな気がして動転した。 「…母さん、そ

プラプラ堂店主のひとりごと⑬

〜古い道具たちと、ときどきプラスチックのはなし〜 ビー玉のうた 店の定休日、ニセコに来た。とにかく自宅から離れた所に行きたくなって。こういう時、ぼくはいつも、だだっ広い所に行く。札幌から車で2時間くらいでニセコに到着。ニセコはパウダースノーが世界中のスキーヤーたちに有名になり、急激に外国人が増えた。町はずいぶん様変わりしたようだけれど、自然は変わらない。羊蹄山の麓に、広い大地が広がっている。  羊蹄山は、富士山に似た容姿端麗な姿が「蝦夷富士」とも呼ばれる。ニセコをドライブ

プラプラ堂店主のひとりごと⑭

〜古い道具たちと、ときどきプラスチックのはなし〜 ブリキの米びつのはなしうちの店で、よく売れる、持ち込みされる商品は陶器が多い。皿、湯呑み、カップ、花器、壺などなど。前に買い取った金継ぎの大皿に出会ってから、自分でも皿やカップの焼き物を意識して見てまわるようになった。自分で使う食器類もだんだん好みがはっきりしてきたり。 でも、今日は珍しい持ち込みがあった。ブリキの箱だ。 「これ、米びつだったようなんです。もう、長いこと使ってないんですが」 持ち込んだ人はそう言っていた