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プラプラ堂店主のひとりごと㊴

〜古い道具たちと、ときどきプラスチックのはなし〜

ふきのとうのはなし

 うめさんが久しぶりに店に来てくれた。いつもの笑顔にほっとする。うめさんがいるだけで、店の中がぱっと明るくなるようだ。ぼくがほっこりしていると、うめさんは、開口一番、

「はい、これ食べて」

と、小さな瓶を差し出した。

「なんですか?」

「ふき味噌よ。山菜で春の毒だし!」

「春の毒だし…」

「そ。冬の間に溜まった体の毒を出す手伝いを、山菜たちがしてくれるのよ。この苦味がね、いいの!自然は本当にすごいわよねぇ」

「ありがとうございます。もう、そんな時期なんですね。母もよく作ってくれていたなぁ…」

「そうでしょ。うちの庭にもたくさん出るのよ。その辺にも、もうすっかり頭のたったふきのとうが、たくさん出てるけど。なんだか、もったいないわね。でも、今の人はあんまり興味ないんでしょうねぇ」

 味噌の中に鶯色の残ったふきがたっぷりと詰まった瓶。懐かしい苦味が口の中に広がる気がした。ごくりと思わず喉が鳴る。

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「あの、それからねぇ…」

うめさんは、ガサガサとバックの中を探って、紙袋を出した。

「これ!あげるわ。これに、ふき味噌を盛り付けて食べると、ちょっといいものよ。この前、お皿をおまけしてくれたでしょう。そのお礼じゃないけどね。うちに2つあるから。あ、これは売っちゃだめよ!ふき味噌に使ってちょうだいね」

 それだけ言うと、さっさと帰ってしまった。うめさんが帰って袋を開けると、蓋付きの木の器が出てきた。ちょうど掌に収まる大きさだ。柿の形を模しているのだと思う。下の器は赤い漆塗りになっていて、柿の帽子に見立てた蓋が付いている。かわいらしい器だ。確かに、ふき味噌が合うだろうなぁ。

ご飯のお供もいいけれど。こんなしゃれた器でいただくなら、日本酒だろう。では酒器はどうしようか。徳利もいいけど、片口に注いで置いてもいいなぁ。猪口はどうしようかー。ぼくはすっかり楽しい妄想にふけってゆく。

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