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プラプラ堂店主のひとりごと㉟

〜古い道具たちと、ときどきプラスチックの話〜

大きな木のはなし

 ときどき、近くにある神社に行く。鳥居の入り口から神社への道が、ものすごく急な坂になっている。距離的には100メートルくらいだけど、これがけっこうきついんだ。道の左右にはロープがあって、お年寄りはこれにつかまって登り下りする。冬はすごく滑るから、これに捕まらないと危ない。ロープは必需品だ。神社の裏手は山の散歩道になっていて、春は桜がきれいだ。神社でお参りをしてから、このあたりを散歩して帰るのがいつものコース。

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 最初にお参りに来た時に、この神社の御神木に会った。あの急な坂を登り切ったところに立っている。樹齢推定1000年の椎の木。幹は大人2、3人で抱えるくらい太い。手を四方に伸ばしたように枝を広げている。

「大きいなぁ」

 ぼくは木を見上げて、思わず言ってしまった。そして、太い幹に触った。ごつごつした幹にアリが歩いていた。窪みには蜘蛛の巣がある。きっと鳥の巣もあっただろう。たくさんの虫が住処とし、鳥たちが休み、リスが食事をして。1000年以上の年月をこの木はここで過ごしたのか…。木に触れていると不思議と心が静かになってくるようだった。ぼくはしばらくの間、じっと木に触れていた。

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 それからぼくはこの木に会いに来るようになった。そう、お参りというより、この木に会いたくてここへ来る。そして木に触れる。人目も気になるし、そんなに長い時間ではないけれど。この木に触れると安心する。心の揺れが小さくなっていく気がする。一度、とても疲れていた時にこの木に触れたことがある。頭が重く、体がだるくて仕方がなかった。帰って早く寝なければと、そう思っていた。でも、木に触れていたら不思議とすうっと頭の重さがとれてゆくのを感じた。ぼくは思わず木の幹におでこをあてた。頬をつけた。本当にぴったりと木に寄り添って心の中で言った。

(ありがとう)

 つうっと涙が流れた。ぼくは静かに驚いていた。言葉を交わしたわけじゃないけれど、木がぼくのつらさを引き受けてくれたのがわかったから。それは不思議な確信だった。家に帰る頃には頭の重さはなく、体は軽くなっていた。


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