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プラプラ堂店主のひとりごと㊱

〜古い道具たちと、ときどきプラスチックのはなし〜

ブランコのはなし

 札幌も、だいぶ春らしくなってきた。日中はプラスの気温が多くなって、雪どけがどんどん進んでいる。何より、空気が柔らかくなった。日も長くなってきたなぁ。春が近いことを感じると、やっぱりうれしくなる。とはいえ、公園でこどもたちが遊ぶのは、まだ先だ。ぼくがよく散歩する近くの公園のブランコは、ロープで縛られていて、雪がとけるまで使うことができない。ぼんやりとその公園を散歩しながら、縛られたブランコを見ていたら、こども時代のことを思い出した。
 ぼくは小さい頃、ブランコが大好きだった。公園に行くと、ブランコばかり乗っている時期があったっけ。ぐんぐんこいで、どんどん高くなってゆくのが、とにかく楽しかった。ずっとブランコをこぎ続けたら、空に届くような気がしたんだ。
ブランコをこぎながら、空に向かって叫んだ。

「見て、見てー!ぼくは、ここだよ!」

「ここにいるよー!!」

(えっ?)

 今、その声が聞こえた。ほんとうに、はっきりと。ぼくの胸の中から。あのころのぼくが、一生懸命叫んでいる声が。

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 ふいに、涙が溢れてきた。(なんだなんだ?!)ぼくは混乱した。いったい、どうしたっていうんだよ…。マスクを直すフリをして、そっと涙をふきながら歩いた。
ゆっくり。そう、ゆっくりと。


…あのころのぼくが、ちゃんとぼくの中にいた。そう感じたんだ。自分自身を信頼し、自分のど真ん中にいる自分が。…ちゃんと、今も、いる。そう思うとまた、涙が出てくる。

いつからだろうか。
ぼくは自分を大切にできていないことを痛感していた。自分を否定した。自分を責めた。辛かった。そして、その修正は難しかった。否定する癖はいつまでも続いた。ぼくはもう、大切な何かをなくしてしまったんだ。長いこと、そう、思っていた。

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でも、なくしてなんていなかった。
ちゃんと、いる。
それが、今、わかった。
ぼくの中に、ずっといるんだ。
ぼくは、見失っていただけ。
外ばかり見ていたのかもしれない。
人と比較したり。人をうらやんだり。
そして、自分を否定し続けた。

ぼくの中の本当のぼくは、ずいぶん辛かったに違いない。
重いフタをされて、声も聞いてもらえずに。
ずいぶんと、長い間。
ほんとうに、長い間…。

ごめんよ。

そして、ずっとここにいてくれて、ありがとう。


ありがとうございます。うれしいです。 楽しい気持ちになることに使わせていただきます。 また元気にお話を書いたり、絵を描いたりします!