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プラプラ堂店主のひとりごと㊲

〜古い道具たちと、ときどきプラスチックのはなし〜

四つ葉のはなし

 本棚を整理していたら、古い絵本が見つかった。『ちびくろ・さんぼ』だ。赤い表紙の真ん中に、ちびくろ・さんぼが緑の傘をさして立っている。その周りでは、とらが、ぐるぐる回っている。お互いの尻尾をかじりながら。岩波書店の本だ。

「わあ、なつかしいな」

ぼくは思わず手に取った。

「おっと!うわぁ、ボロボロだなぁ…」

 背は剥がれていて、かろうじて紐でつながっている状態だ。ページをめくると、外れたページがパラリと落ちてきた。留めてあったテープも、茶色く変色してパリパリになっている。おまけに、最初の数ページはなくなっていた。もうこれだけで、どんなにたくさんこの本を読んだかがわかる。そりゃ、そうだ。今でも鮮明に覚えている大好きだった絵本だもの。そうそう、とらのばた(ひらがな表記だった!)が美味しそうだったんだよなぁ。ジャングルで散歩していたら「おまえをたべちゃうぞ!」ととらに脅されたちびくろ・さんぼ。「たべないで!」その代わり、傘や服など自分の大事なものをあげてしまう。ちびくろ・さんぼのすてきな服で立派になったとらたち。誰が一番立派なとらか、ケンカが始まる。ケンカをしながら、木の周りをぐるぐる…。あんまり早く回って、いつの間にかばたになってしまうんだ。おとうさんのじゃんぼが、ばたを見つけて持って帰り、おかあさんのまんぼが、ほっと・けーきを、こしらえる。まんぼは、20と7まい。じゃんぼは、55まいも食べる。そして、ちびくろ・さんぼはー

「196枚!こんなに食べたんだっけ?!」

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 ラストのちびくろ・さんぼが椅子に座って、ほっと・けーきを食べているページ。お皿の上に重なるほっと・けーきが、ページの中に描ききれずに上で切れている。ぼくの胸は踊った。すごくすごくたくさん重なっている、ちびくろ・さんぼのほっと・けーき!すごいなぁ!食べたいなぁ。ぼくはすっかりあの頃に戻っていた。パラリと、何かが落ちた。拾ってみると、四つ葉だった。どこかのはらっぱで見つけたものを、母が挟んでくれたのだろう。そういえば、母は四つ葉を見つけるのが得意だった。四つ葉から、小さな音が聞こえたような気が、した。ぼくは、そっと掌に、四つ葉をのせた。すっかり乾いている四つ葉が、われてしまわないように、そっと。そのまま目を閉じて音に集中する。道具たちとは、ぜんぜん違う音がする。音というより、体温のような、光のような感じ。でも、確かに音なんだ。それは、笑っているようだった。お日様の光をたっぷり浴びたおふとんのように、ふかふかした笑い方。

(う れ し い な み つ け て く れ て く ふ ふ…)

 なんてあったかい音だろう。ぼくは、目を閉じたまま、しばらくの間、四つ葉の声に耳を澄ませた。

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