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ジブリ最新作『アーヤと魔女』ディレクター考察~ストーリーの起伏のカギは?~しがないテレビマンが勝手に語る【※ネタバレ注意】

公開前に見ちゃいました!

『竜とそばかすの姫』が長く続きましたが、本日、ジブリ最新作『アーヤと魔女』を見てきましたので、感想を書いちゃおうと思います!

ん?公開日8月27日なのになんで?

そう思った方もいらっしゃったかもしれません。僕が特別な人間だから…というわけではなんでもなく、なんとジブリの博物館である「三鷹の森ジブリ美術館」の中の特別シアターで見られるのです。また、『アーヤと魔女』の特設展示もあるので、1度で2度楽しめちゃいます。

え、入館料払っただけなのにいいの?

そう思いながら、45分くらい並んで見てきました。
宮崎駿企画、監督は宮崎吾郎、ジブリ映画初のフル3DCGを使った映画です。スタジオジブリにとっては、挑戦的企画。期待に胸ふくらみ、ワクワクしながら上映を待ちました。

感想は…

総じて、ちょっと物足りない感がありました…。

一つ一つのシーンは面白かったんですが、ジブリ感を求めている人は少し残念な気持ちになってしまうかもしれません。ストーリーとしても個人的にはもう少しスパイスを加えてもよかったかなと思いました。

簡単にあらすじをまとめておきます。

孤児院で楽しく自由に過ごしていた主人公アーヤ。アーヤは大人に媚を売り取り入るのが非常にうまく、自分の思い通りに人生を楽しんでいました。しかし、ある日、魔女ベラ・ヤーガとマンドレークに引き取られ、こき使われる生活が始まることに。果たしてアーヤは自由な生活を取り戻すことができるのか…!?

今回は、これから公開する注目映画『アーヤと魔女』について、ドラマ経験が少しある、しがないテレビマンの僕が、ネタバレ満載で感想・考察を喋くりまわそうと思いますので、これから観る方やネタバレ大嫌いな方は、↓の予告動画を見てスキ!を押して、さようなら~!(冷酷)

ドラマ的な目線で感想をまとめると、、、ただ一つです。

ストーリーの起伏(メリハリ)がない!

『三鷹の森ジブリ美術館』の特設展で、企画意図などをしっかり把握してメッセージ性の確認はできたのですが、何も考えずに素直に見ていて「退屈だなー」と感じた時間がありました。

宮崎吾郎監督の映像へのこだわりや、3Dならではの迫力で魅せきるシーンも多数あったのですが、物語に問題があってはやはり見続けるのもキツいものです。

※前の席に見ていた女の子も、中盤で明らかに退屈していました。子供の反応は素直なので信頼できます。

原因は、間違いなくストーリーに起伏がないからです。つまり、全体的にのっぺりとした話の展開で、主人公が悩むこともあまりなく、どこに向かっているのか分かりづらかったのです。

ストーリーの起伏をどのようにつけたらよかったのか、上から目線で勝手に考察するのは、のちほどにするとして、まず監督が狙っていたお客さんへのメッセージを確認しておきましょう。

『アーヤと魔女』が伝えたいメッセージとは…?

↑公式サイトのメッセージには宮崎駿の本映画への考えが大きく記されています。

アーヤのしたたかさというのは、ずるいということじゃない。こんな時代を生きるために必要なことなのです。

映画の中で、アーヤは孤児院の園長、コックなど大人たちにうまく媚を売って取り入り、結果的に自分がやりたいように物事を進めていきます。いわゆる「世渡り上手」なオマセな子供がマーヤなのです。大人顔負けの華麗なゴマすり術は、大したもんです。

『三鷹の森ジブリ美術館』の特設展示に飾られていた企画書には、企画意図として↓のようなことが明記されていました。

今の複雑な世の中を生き抜くために、子供たちに伝えなければならないことはなんだろう?それはマーヤの持っている、大人をたぶらかす魔力、「逞しさ(たくましさ)」を子どもたちは持つべきであるということだ。(だいたいこんな意味のことが書かれていた)

そして、極めつけに映画のキャッチコピーがこちら。

私のどこが、ダメですか?
わたしはダレの言いなりにもならない
(wikipediaより)

とにもかくにも、したたかに大人(周りの人)を食い物にしながら生きる「逞しさ(たくましさ)」の重要性を子どもたちにも分かってほしい。そう制作陣が強く押し出したいのは、ここまで見れば明らか。

本来、そうやって人に媚を売って生きることを良しとしない世論があるなかで、そんな生き方ができることって素晴らしいじゃないかとかなりクセ強めなメッセージを出したのが、今回の映画だったのです。

新しい価値観を提唱するのが映画や映像作品の使命ですから、ここまで振り切ったメッセージを打ち出したのは、とても好印象です。

だからこそ、ストーリーをもっと面白くしてほしかった…。

さぁ、ここまで理解していただけたところで、ストーリーのメリハリがどうやったらもっとついたのか、ネタバレ必須で書いていきます!

※個人的には、映画そのものが少し退屈だということを広報する側が分かっていて、このメッセージ性で売りにかかっているのではないかと思うくらい、メッセージ性が強く売り出されている印象を受けました。興行収入のためにご尽力される内部の苦労が推し量れます…。

ストーリーの起伏をつける鍵~ラスボスの”不在”~

子どもが見ていて純粋に楽しめるように、ストーリーの起伏をつけるためには何が必要なのでしょう?

僕は「わかりやすいゴール」が絶対不可欠だと考えています。

「わかりやすいゴール」とは何なのか、他のアニメ作品を例に考えてみましょう。

例えば『鬼滅の刃』であれば、炭治郎のゴールは、鬼舞辻無惨を倒し妹の禰豆子を鬼から人間に戻すこと。

『進撃の巨人』であれば、エレンの初期のゴールは、巨人を駆逐すること。

『東京リベンジャーズ』であれば、花垣武道のゴールは、橘日向を東京卍會の襲撃から守ること。

大人気アニメには、必ず主人公にわかりやすいゴールがあるんです。主人公の行動は、すべてそのゴールに向かっているため、とても見やすくなっているのです。

…お気づきの方もいらっしゃると思いますが、この「わかりやすいゴール」にはあるモノが付き物です。

それは、”強大な敵(ラスボス)”です。ちょっとやそっとで勝てる敵ではダメなんです。今のままでは絶対に勝てないような敵に、ゴールに向かってどうやって立ち向かっていくのか、それがストーリーの大筋であり、面白みになっていくわけです。

鬼舞辻無惨だって、巨人だって、東卍の稀咲だって、みんな強すぎます!初期主人公が弱いのももちろんあるけれど、最初は歯が立ちそうにもありません。でも一生懸命努力して、主人公たちは力や知恵をつけ、最終的には勝つのです。その過程を少年少女はワクワクしながら楽しみにしているのです。

『アーヤと魔女』にもラスボスはちゃんと存在します。魔女のベラ・ヤーガと、家主のマンドレークです。

ベラ・ヤーガは、呪文を受注して作る腕利きの魔女。性格が悪く、約束を守らない上にとにかくアーヤを「助手」という大義名分で、奴隷のようにこき使います。

マンドレークは、自分の手をわずらわされると怒る変な魔法使い。ベラ・ヤーガも恐れるほど、気持ちが高ぶり怒ると、目がバチバチにキマってしまうヤバキャラ。全く心が読めない雰囲気からアーヤの大きな敵になりそうな予感バリバリ。

アーヤの媚び売る能力によって、この大ボス2人をどうやってたぶらかすのか、これが『アーヤと魔女』の分かりやすいゴールのはずでした…。

ただ、2人ともチョロかった。非常にチョロかった。

チョロいという言い方は言い過ぎかもしれないが、2人がアーヤにとって歯が立たない敵(ラスボス)だと思うのには、少し刺激が足りなかったような気がします。

その理由は、大きく3つ。
①罰則があんまり怖く見えなかった。(ペナルティ軽め)
②子供への接し方が優しく見えた。(殺意なし)
③アーヤのメンタルが強すぎた(大人が作った”子供”)

1つずつ見ていきましょう。

①ペナルティ軽め

ベラ・ヤーガは「ミミズの刑」に処す!と口癖のようにアーヤを脅します。が、ミミズの刑がいかほどに恐ろしいモノなのか映像で示されたことは1回もなく、ただただ使い魔の猫のトーマスが怯えている表現だけで怖さを示そうとしていました。

またマンドレークの手を煩わせ怒らせると大変なことになる、とベラ・ヤーガは家に来たや否やアーヤに教えますが、最後に怒って炎の鬼になるまでその姿は見えません。しかも、最後のシーンでもアーヤは命の危険を感じる攻撃を受けている様子もないですし大して怖そうに見えませんでした。

事前に少し恐ろしい映像や、トラウマになるようなエピソードを盛り込んでおけば、敵の強さにビクビクしながら観ることができたかもしれません。

『もののけ姫』でアシタカが最初から気持ち悪いグニャグニャで腕を負傷したり、『千と千尋の神隠し』で千尋の両親が豚にされてしまったり…、子供相手だとしてもあれくらい刺激的なシーンが入らないと、「怖い」という感情を呼び起こせないことがよく分かりました。

②優しさ垣間見える敵 殺意なし

魔女のベラ・ヤーガにしても、怒ると怖いらしい家主マンドレークにしても、本気でアーヤを嫌っている様子はなく、アーヤが言い返したところで「このノロマ、クズ!」等と激しく暴言を吐いたり、「この身寄りのない孤児が!」みたいなアイデンティティを傷つけるようなことを言ったりはしません。

”近所のうざいおばさんが、うるさい子供の相手をめんどくさそうにしている”くらいの感覚なのです。

マンドレークは何を考えているか分からない、未知の男として不思議さは醸し出していますが、何かこちらがミスしたら危害を加えられるような感じはありません。

”少し天然入った大人から評判悪い変わり者のおじさんだけど、実は子供には割と優しい”という目線で彼を見てしまうのです。

愛らしいといえば愛らしいキャラクターなんだけれども、コンプライアンス順守している感が強く、極悪感が無いのが珠にキズ

圧倒的な敵役として君臨して、容赦なくアーヤにもっと厳しく当たってもらえば、物語のドキドキ感が増幅できたのではないかなーと思いました。

③不動のメンタルの持ち主・アーヤ

ジブリ美術館の企画書にも書いてありました。

アーヤはどんなことがあってもへこたれず前を向き続ける。

この言葉を体現したかのように、どんなにこき使われても、悲しむことはなく怒ってはいるけど「ぷんぷん!」って感じだし、感情どこにいっちゃったんだーい!!!と叫びたくなるくらい、あまりに出来すぎなアーヤ。

もう君はアーヤじゃない。出木杉アーヤだ!!

大人顔負けの媚び売り術があるとはいえ、子供らしく泣きわめいたり、感傷に浸ったり、怖いことがあったら怯えたり、そういう”子供らしさ”みたいなものがあってもいいんじゃないか?暗い(負の)部分が少し見えてもいいんじゃないか?

不動のメンタルすぎて、等身大の子供がそのまま画面に映し出されているというよりは、大人に作られた”子供”がいるような、ちょっと気持ち悪い感覚すらありました。

(2021.8.1追記)子供らしさを求めるのは、僕の“そうあってほしい”という固定観念・偏見である気がしてきました。“子供こうあるべき”論は、異物を投げつけられて受け入れ拒否をしているだけの状態なのかもしれません。慣れている脳波的に気持ちのいいものを繰り返し摂取したいだけのおじさん思考です。制作側はもちろんこういう否定的意見がくると覚悟して作っているように思えてきました。アーヤに「私のどこがダメですか?」と言われてしまいますね。

アーヤ役の声優の子も、演技は上手なんだけど、一辺倒な感じがしていて、もっと感情の揺れを演出してあげてもよかったのかなと思います。(そもそも3DCGのアーヤがそういう動きや表情してないけど)

音楽もジブリらしい緩やかな音楽は一切なく、基本的にはノリノリのロックやポップでライトなテイストの曲ばかりで、彼女の心情の浮き沈みを感じる暇は一切なく、それがストーリーをのっぺりとさせている要因でもあったと感じています。

まとめ

以上のことから、ラスボスがラスボスらしく見えなかったため、わかりやすいゴールがボヤけてしまったことが、『アーヤと魔女』を面白くなくしてしまった要因だと僕は考えます。

アーヤが何をしたいのか、何に向けて行動しているのか、何に苦しんで、何を怖がってラスボスをどうやって倒したいのか、がハッキリと見えてこなかった。そのために、ストーリーにメリハリがない・前に進んでいる感じがしないと感じてしまったのです。

冒頭に申し上げた「ジブリ感」の無さは、3DCGという見え方の大きな違いや、室内のシーンがメインになってしまっていること、音楽の久石譲感がないのも、影響があるのかもしれません。

実際に「三鷹の森ジブリ美術館」の特設展示で、アーヤや他のキャラクターが色鉛筆で手書きで描かれたイメージボードやキャラクターデザインを見ましたが、「あーこのタッチで見られたらジブリ感はあったんだろうな」と思いました。うまく言語化できないのですが、ふんわりとした優しいテイストがやはり2Dには何かあるような気がしました。

途中から慣れてはきますが、3DCGの”外国のアニメ映画感”はどうしてもぬぐい切れませんでした。これは昔と比べてしまうアラサーの悪い癖ですかね。

ただ、『ドラえもん』の作者である藤子・F・不二雄さんも生前おっしゃっていたそうです。長く続いていくものには新しいアイディアや進化が必要で、それがないとマンネリ化してしまうものだと。実際にドラえもんは、藤子先生の意志を継いだのか、チャレンジを続けていて、3DCGの映画としても大ヒットしています。

そう考えれば、これまで幾つもの傑作を生みだしてきたスタジオジブリが踏み出した新しい一歩として『アーヤと魔女』は貴重な作品で、映画館で観ておく価値は全然あると思います。10年後のジブリ作品は、当たり前に3DCGになっているかもしれません。

以上、しがない1テレビマンとして、スタジオジブリ作品のストーリー展開について口を出してしまうという非常におこがましい記事になってしまいました(笑)

ジブリファンの皆様方、おおめに見ていただければ幸いです…。

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それでは~!
ジブリが歩み出した新しい一歩、『アーヤと魔女』は8月27日全国ロードショーです!!

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