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高尾歳時記 番外編 三頭山 2024年7月5日

関東地方南部は、先週ぐらいに梅雨入りしたようですが、数日雨模様になっただけで、暑い日が続いています。今年はから梅雨になりそうです。

今日もとても暑い日になりました。都心は35℃超えの猛暑日。しかし、同じ東京都でも、奥多摩三頭山みとうさんは別天地のよう。三頭山を擁する東京都檜原都民の森は、標高1,000mから1,500mの間に落葉紅葉樹の森が広がり、森の中心を沢が流れ、集まった清流は滝となって流れ落ち、小鳥さえずる森を吹き抜ける風は涼やかです。

東京都檜原都民の森

三頭山周辺はかつて広範囲で行われた資源利用を目的とする森林伐採でほとんどが人工林に置き換わっていますが、檜原都民の森の大部分では自然林が奇跡のように残されています。まるで御神木のようなミズナラの大樹が残っていることも貴重ですが、この森の主役はなんといっても美しいブナの森。ブナの森で特に有名なのは世界遺産に登録された白神山地ですが、東北の山ではごく一般的なブナも、関東地方では希少です。それでも、山梨県にはブナの森が比較的広範囲に残されている一方、東京都では極めて貴重。そのほとんどが、かつて江戸幕府の御林おはやし、すなわち幕府直轄の御用林が設置された檜原村にあります。

美しい三頭山のブナの森

早朝の出発時点の気温は20℃。空は快晴なのにびっくりするほど涼しくて、なんだか気分もウキウキしてきます。このあと日がのぼるにつれて気温はあがりましたが、最高気温は25℃。涼やかな風が森を吹き抜け、避暑地のリゾートのようです。

森林セラビーロード。敷きつめられたウッドチップが心地よい。

森の中では季節の花が出迎えてくれました。

ユキノシタ
イヌホウズキ
こちらは萼片の間に三角形にそりかえる附属体があるので、ホタルブクロ。
こちらは萼片の間に三角形にそりかえる附属体がないホタルブクロの変種、ヤマホタルブクロ。
トリアシショウマ
マタタビの雄花
コアジサイ
あっ、ギンリョウソウの兄弟が!かわいいですね!
ヤマオダマキ
ジャノヒゲ
イモカタバミ

ウッドチップが敷きつめられた大滝の路、森林セラピーロードを進むと、その先に吊り橋がかかっています。滝見橋です。

滝見橋

滝見橋からは、落差35m、そのすがたも流麗な三頭大滝を眺めることができます。

三頭大滝。滝見橋から撮影。
緑濃い夏の森に彩られたその姿はこの時期ならでは。

この滝に流れこむ沢は複数ありますが、そのうちのひとつ、滝沢沿いにのぼるルートを選択します。

滝沢コース
沢沿いのルートでは風が一段とひんやり。

沢沿いに吹く風は一段とひんやりしていて、まさに天然のクーラー。思わず立ち止まってしまいます。天然のめぐみを存分に味わう、なんとも贅沢な時間です。小鳥のさえずりも耳に心地いい。

三頭山の最大の特徴は、落葉紅葉樹が主体の、原生林の森。豊かにしげる木の葉から木漏れ日が落ちてきます。

三頭山はなんといっても緑眩しいブナの森が最大の特徴ですが、コナラやミズナラなど、ほかの落葉紅葉樹も豊かです。なかでも、カエデの美しさは見事。秋の紅葉の季節になると、その美しさが際立ちます。

ハウチワカエデ。その他各種カエデの木は秋になると見事な紅葉になります。

そして、三頭山山頂に到着。三頭山はその名のとおり、西峰、東峰と中央峰の三つの峰があります。このうち最も標高が高いのが中央峰で、1,531m。これが三頭山の正式な標高ですが、この中央峰と東峰(1,527m)は眺望がないため、富士山と石尾根方向に頂上が開けている西峰(1,524m)が正規の頂上の扱いになっています。

三頭山西峰に到着。
三頭山西峰より、富士山の遠景
富士山をアップ。雪はほとんど消えて、夏模様。
同じく三頭山西峰から、石尾根方面。夏なので葉が生い茂って遠景は限定的ですが、雲取山、七ツ石山から鷹ノ巣山にかかる石尾根の稜線の眺望はばっちり。

三頭山西峰は眺望はないのですが、いただきから少し進んだところにある展望台からは、御前山や大岳山などの大きな景色を眺めることができます。

三頭山西峰近くの展望台からの遠景。写真中央にある、突き出た山頂をもつ山が大岳山。そこから左方向に見える、なだらかな稜線の山が御前山。大岳山、御前山と三頭山は合わせて奥多摩三山と称されます。

カタクリの花の名所御前山ごぜんやま、別名「キューピー山」の愛称をもつ特徴的な山容と頂上からの素晴らしい眺望で大人気の日本二百名山大岳山おおだけさん、そして、豊かな水資源と古来の原生林が現存する三頭山は合わせて奥多摩三山と称されます。それぞれが、それぞれ独自の個性を誇る、素晴らしい峰々です。

天気に恵まれて最高の登山日和でした。

さて、今日はもうひとつ楽しみがあります。下山後近くの、山麓の宿に向かいます。今日はここで一泊。テレビもない、新聞もない、なにもないところで、なにもしない贅沢。命の洗濯の時間です。

かつての養蚕農家の母屋を改装した、山の宿に到着。
二階の蚕室かいこむろは天板が抜かれてメゾネットに改装されています。庭に面した土壁も抜かれてガラスがはめこまれ、開放的な空間に仕立て上げられています。
かつての縁側は居心地の良い室内空間に改装されています。庭も貸切。
ソファーにゆったりと腰掛けながら、時間を忘れて、ゆったりと庭を眺めます。
部屋の奥には作り付けのお風呂。
暑い日はお風呂が気持ちいい。お湯をためて、何度もさっぱりと湯浴みを楽しみます。
メゾネットの寝室。
ベッドに寝そべって、普段読まない本を開きます。
落ち着いた内装の主寝室。今日晩餐後はこの寝室のベッドにすべりこんで、なすがままに眠りを貪るだけです。

まずはお風呂に入って、身も心もさっぱり。あとは部屋でゆったりと、ぼうっと過ごします。ありとあらゆる電子機器から自らを解放して、ただ流れるだけの時間に身をゆだねます。

気がついたら、夕餉の時間になっていました。

奥さんは桃を漬けこんだシロップを炭酸で割ったノンアルコールカクテル。私は地元産の白ワインで乾杯。楽しみです。
つきだしは、村で収穫した枝豆と、村の特産品であるヤマメの燻製とヒマラヤヒラタケが主役の冷製茶碗蒸し。村のオクラとペンタスの花を添えて。上にかかるのは鼈甲餡べっこうあんですが、使用している卵の濃厚な黄身の色合いとヤマメの皮目の焼き色の美しさを損なわないように、色付けは極限まで薄く仕上げられています。ちょっとお行儀悪いかもしれませんが、匙でくずし混ぜて一気に喫すると、すべての食材が口の中でえもいわれぬマリアージュを成します。
次はお椀。金銀日月塗りのお椀の中は…。
スイートコーンのすりながしでした。
中には、焼き椎茸と焼きなすが潜んでいます。椎茸から滲みでる濃厚な出汁に加えて、焼きなすのお焦げのアクセントが鼻腔をかけぬけ、甘くも香ばしい味わい。
そういえば、こどものころよく焼きなすを手伝わされました。魚グリルで皮がボロボロに焦げるまで焼いて、熱々のなすを手にもって「あちっ、あちっ!」とかいいながら皮をむきました。ものすごく手間がかかるのですが、ものすごくおいしんですよね。そういえば、最近やっていないな…こどものころの夏の記憶がよみがえりました。
地元産川魚三種のお造り。添えてあるのは地元産わさび、芽ネギ、おかひじき、すだち、シソの花とキンギョソウの花。お造り三種はイワナならびにヤマメと、ご当地ブランドである富士の介。ヤマメは昆布締めにしてあります。
一般的に、川魚には虫がついている可能性があるので生食はできませんが、こちらのお魚は安全管理がいきとどいた養殖場で生産されたもので、安心して食べられます。
魚ならではの健康的なあぶらがふんだんにのった地味溢れる白身は、この村が豊かな山の恵みの地であることを無言なるも雄弁に伝えます。
主菜は低温でじっくりと火入れした、こちらもご当地ブランドの甲州ワインビーフ。合わせるのはキャベツと青菜のソテー、そしてカリフラワーとアスパラガスのグリル。ナスタチウムの花を添えて。
お肉の焼き加減はレアが好みなのですが、レアを
勘違いしている店が少なからずあって、そういう店では中心部が生の状態で出てきてしまいます。なので仕方がなく、焼き加減を聞かれると「ミディアム」もしくは「おまかせで」ということにしています。
肉料理の「レア」は生という意味ではなくて、ちゃんと火がとおっているのです。ですが、60℃とか70℃とか、火がとおるギリギリの温度で火入れをするので、ものすごく時間がかかります。
完璧な火入れでした。肉を噛む喜びは残っているのに柔らかく、肉汁がじゅわっとあふれて、風味も滋味も豊か。まさにプロの技術。
〆はこちらもご当地ブランド、富士桜ポークの昆布締めをパプリカやズッキーニなどの季節の野菜を炊き込んだご飯。この使い込まれた土鍋もインパクト抜群。美味しそう!
お腹いっぱいいただきました。
デザートは桃のコンポート。桃と豆腐のムースを添えて。
地元の食材をふんだんに使ったコース料理。大満足です。
夜のとばりはすでにおりていて、真っ暗。空を見上げると無数の星がまたたいていました。こんな夜空を見たのは久しぶり。
宿が焚き火を用意してくれました。火を見ると、なんか落ち着きます。
今日は盛りだくさんでした。おやすみなさい。

翌朝は目覚ましもかけずに、自然に目覚めるまでぐっすりと休みました。昨日あんなに食べたのに、朝はちゃんとお腹がすきますね。日常ではかなわない豪華な朝餉をいただき、ゆっくりと朝風呂を浴びて、チェックアウトギリギリの時間までのんびりして帰路につきました。また明日からがんばろう。

豪華な朝ごはん。すべて残さず、美味しくいただきました。

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