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【徹底分析】日本のリモートワーク生産性が世界ワーストの理由

"生々しいリアルなビジネス情報を覗く"『PreVenture』編集部です。今回取り扱うのは「リモートワークの生産性」のリアルです。

コロナ禍である2020年から、日本でも急激に広まったリモートワーク。しかし実は、リモートワークにおける日本の生産性は先進国の中で最も低いと言われています。
今回は、なぜ日本はリモートワークの生産性が上がらないのか、世界との差を埋めるためには何をしていく必要があるのかについて徹底分析しました。

1. 日本のリモートワーク概要

まずは、日本の過去5年のリモート実施率の推移を見ていきましょう。

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2019年以前は20%前後とかなり低い割合でしたが、2020年3月~2020年4月の推移から分かる通り、日本のリモートワークの実施率は、コロナウイルスの感染拡大を契機に急速に高まりました。

次に、会社規模別、業種別の導入率を見てみましょう。

企業規模別で導入率を比較すると、企業規模に伴って導入率が増加傾向にあります。300人以上の企業では約8割が導入済み、30~90人の企業は53.4%が導入済みです。3月と比較すると2.8倍で、急速に導入が進んでいると言えます。

業種別に導入率を比較すると、事務・営業職が中心の業種(IT、金融・保険業等)は、76.2% の導入率となっています。現場作業や対人サービスが中心となる業種(小売業、医療・福祉業等)では 55% でしたが、こちらも 3 月と比較すると 3.7倍 となっており、業種を問わず拡大しています

海外との比較

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アメリカ 
テレワーク定着率85%

アメリカは世界で最もリモートワークが定着している国です。アメリカにおいてここまでテレワークが浸透している理由として考えられるのは、成果主義とジョブ型雇用です。

テレワークでもオフィス勤務でも成果が同じであればかまわない、過程や労働時間に重きを置いていない風土から、テレワークがなじみやすい土壌があったと考えられます。対照的に日本では「テレワークだと部下がサボっていないか監視できない」という管理職の声があるそうです。成果よりも「サボっていないこと」を重視する日本では、なかなか普及しないのも頷けます。

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ドイツ
テレワーク定着率21.9%

ドイツでは2020年5月に、従業員が企業に対して年間最低24日の在宅勤務を請求できる「在宅勤務権に関する法案」の構想を、フベルトゥス・ハイル労働社会相が発表しました。企業側は、工場やオフィスへの出勤が業務上必須であると証明できない限り、従業員からの在宅勤務の請求を拒否できないという内容の法案です。

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日本 
テレワーク定着19.1%

日本は前述したように、成果よりも過程や労働時間を重視することが多く、さらにはジョブ型雇用ではなく、メンバーシップ型雇用であることから、他者と自分の業務の境界があいまいになっていることでテレワークが定着しづらくなっているのかもしれません。

リモートワークを導入するにあたっての課題

テレワーク導入の壁と言えるのは、設備投資と生産性への不安でしょう。中小企業であれば設備投資は大きな負担になりうるし、成果報酬型ではない日本の雇用関係では、従業員の生産性の低下による損失は会社が全て引き受けることになります。

2. リモートワークの生産性の実情日本の生産性の実情

タイトルにもある通り、日本はリモートワークの生産性で遅れをとっています。実際に、リモートワークを経験者に対して、生産性がどうなったと感じるかを聞いたアンケートの結果が、驚きの結果を示していました。

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なんと対象国の中で日本だけが、他国の2倍以上も生産性が下がったと感じたと回答したのです。このアンケートから、他国と比較して日本人はリモートワークで生産性が下がったと感じている人の割合が多いことがわかります。実際にそう言った声を聞いたことがある人も多いかと思います。

先進国の中でも労働生産性が低いと指摘される日本でここまで低下したと感じているのであれば、日本は世界的に見てもリモートワークの生産性がかなり低いと言えそうです。

また、内閣官房と経済産業省が取りまとめた資料によると、日本ではテレワークの生産性について、オフィス勤務よりも生産性が低いと回答した人が82%に達しており、テレワークの方が生産性が高いという回答はわずか3.9%でした。一方、米国の調査では、41.2%が生産性が上がったと回答し、生産性が下がったという回答は15.3%しかありませんでした。

なぜ生産性が下がると感じるのか

各国少なからず生産性が低下したと感じた人がいることが分かります。ではなぜ、リモートワークは生産性が低下したという感覚を抱くのでしょうか。生産性が低下していると感じる瞬間をまとめました。

素早い情報交換ができないから

リモートワークでは、対面で起きる気軽なコミュニケーションが不足しがちです。zoomなどをしようにもお互いの予定を確認して、事前にスケジュール調整をする必要があります。「ちょっと見かけたときに話そう」ができないため、業務で気になったことをすぐに質問したり、アイディアの壁打ちの難易度が上がってしまいます。

設備が整っていないから

リモートワークでパソコンを新調した人、首が痛すぎてモニターやスタンドを購入した人も多いと思います。単純にモノがないと、自宅でできることに制限がかかるため、オフィスに比べて生産性が低下したと感じる人が多いです。

自宅の通信環境や事務機器、十分な支援をしてくれる会社ならいいですが、予算に余裕がない会社の場合は、各自で用意しなければならない場合もあるでしょう。このような理由も多くみられました。

オンとオフの切り替えが難しいから

自宅での作業では、普段リラックスする場所で集中や負荷をかけることになるため、オンとオフの切替が難しくなります。実際に人間の脳は場所ごとに行うことを記憶しているらしく、脳はリラックスモードで仕事に入ってしまい生産性が低下することもあるでしょう。

また、家ではゲームや本など、自分の好きなもので溢れています。そういった環境の中で自制心を働かせなければならないことも、理由として上げられていました。

3. 国内外で生産性に違いが生まれる理由

第二章では、日本は他国に比べて2倍以上も生産性が低下したと感じているという驚きのデータをご覧いただきました。しかし、やっていることは同じなのに、なぜここまで大きな差がついてしまうのでしょうか?

他国の事例などを見ていくと、次の3つが大きな理由として考えられます。

(1)経験の差

前述の情報交換のスピード低下によって、なぜ日本だけが生産性に大きなダメージを負っているのでしょうか。それはビジネスプロセスの文書化、明文化をしない文化に原因があります。属人的、場当たり的に処理する風土の中では、すり合わせを目的としたコミュニケーションは欠かせません。

アメリカは業務のマニュアルなどを明文化し、経験の蓄積する文化があるので、比較的情報交換のラグによるストレスは少ないと考えられます。また、アメリカは法制化が2010年、対して日本は急激に進んだのが2020年と単純なリモートワークの経験の差もあると言えます。

(2)雇用方法に紐付いた業務の進め方の差

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欧米:ジョブ型採用

ジョブ型とは、企業が必要とする仕事に見合った能力を持つ人を採用し、従業員は明文化された職務内容に従い、それに応じた給与が支払われる雇用形態のことです。

ジョブ型の場合は求められる結果がわかりやすく、その決められた仕事で求められている成果を出せば、プロセスはさして重要ではありません。よってテレワークになったとしても、成果が以前と変わらなければ、プロセスはどうであろうと問題はないわけです。

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日本:メンバーシップ型採用

メンバーシップ型とは、企業が職務内容を限定せずに人を採用し、様々な職種を経験させ、社員は年功や職位によって給与が上昇していきます。年功序列の風土が未だ色濃く残っていることもあり、雇用は長期化する傾向にあります。

若手の社員には、「メンバー」としての会社へのコミットメントが求められます。「頑張り」や「困難にも立ち向かう姿勢」などがこれに該当します。しかしこれらは曖昧な指標であり、目の前に部下がいてはじめて確認できるものです。

この評価の仕方はリモートワークになった途端に一気に崩壊します。仕事の成果物は確認できても、「頑張る姿勢」などというものは確認できないからです。これにより、上司は「部下の生産性が下がっているのではないか」と考える傾向にあるということが調査結果でも示されています。

また、部下側から見ても、目標が明確ではない上、上司からの承認も得られづらい状況に、生産性の低下を感じることがあるようです。

(3)企業がテクノロジーに対する投資を十分に行っていない

レノボが行った調査に依ると、在宅勤務開始時に必要となるIT機器やソフトウェアの費用を、会社が全額負担したと答えた日本人は全体の31%で、先進国10カ国中最下位でした。

一人当たりの購入金額も、首位のドイツは381ドルであったのに対し、日本では132ドルと、10ヵ国平均の半分にも満たない結果となりました。この結果には、日本は設備費用の自己負担率が高い傾向にあることも影響しています。

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まとめると、日本は在宅勤務に必要な設備を会社があまり負担してくれず、結果全体としての設備投資額が少なくなっている、という状況です。日本に「在宅勤務時の生産性は、オフィス勤務時より下がった」と答える人が多い理由の一つに、企業の設備投資が不充分で環境を整えられないことがあると考えられます。

4. 差を埋めるためにすべきこと

今後リモートワークの拡大が予想される中、日本は世界との生産性の差を埋めるためには何をシていくべきなのでしょうか。

(1)業務の再現性を高める

日本企業には、業務の進め方が属人的であるという特徴があります。オフィス勤務の際は、仕事を割り振る際に、頻繁かつ対面でコミュニケーションをとりながら進めることができますが、リモートワークになった途端、コミュニケーションをとる際はスケジュール調整も必要な上、対面ではない分どうしてもスムーズさにかけるという側面があります。

その時、普段から属人的な業務体制になっていると、コミュニケーションの量に対して、情報伝達しなければならないことが多すぎて、生産性が下がってしまうという結果になってしまいかねません。

業務の再現性を高める、つまりマニュアルによる規定などで業務の属人化を防ぐことで、リモートワークの際に必要となるコミュニケーションを減らせば、生産性が下がる要因を一つ消すことができると考えられます。

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(2)アウトプットの提出に責任を持つ仕組みを作る

日本には、労働の成果ではなく、労働時間に給与を払うという風土があります。これは、労働の質を均質化(全ての時間でこれくらい頑張っているはず、という見方)をしているからです。裏を返せば、サボることを前提にしていないので、サボった分の労働力は会社の損失となります。つまり、社員の働きを監視しづらいリモートワークでは、従業員はサボっても給与が下がらないことで、生産性が下がってしまうことが起こり得ます。

米国などでは、成果主義が主流です。これは労働時間ではなく、労働の成果に給与を支払うという考え方です。この考え方であれば、成果に給与を払うので、従業員がサボって長時間働こうが、集中して短時間働こうが、得られる成果が同じであれば同じ給与を支払うということです。

この仕組みであれば、リモートワークで従業員がサボっていようが頑張っていようが、最終的に得られる成果は同じなので、会社にとっての損失はありません。結果的には長時間労働に繋がるサボりの動機が従業員にも生まれづらく、生産性も維持されます。

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(3)テクノロジーへの投資をする

日本は、企業のリモートの設備費用負担割合が低いことは前述しました。これを増やすことで、従業員のリモート環境が改善され、生産性が上がることが予想されます。

問題は、この情報を日本企業が把握しているのかということです。あまり話題に上がっていないこの情報を、メディアや政府が、もっと取り上げるべきではないでしょうか。

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(4)ジョブ型に類似した採用もしくは業務体系をとる

日本のメンバーシップ雇用は、自分の仕事はここからここまで、といったような仕事の境界が決まっていません。業務を進めていく中で、周りの進捗などの兼ね合いで、自分の仕事を決めて行きます。よって、周りの状況が把握しにくいリモートワークになると、うまく回らなくなるのです。

対照的に、ジョブ型雇用では他者と自分の仕事の境界が明確です。よって、リモートワークでも迷わず業務に取り組みやすいのです。

日本は新卒一括採用の文化があるので、人材を確保するためにジョブ型は適していないかもしれません。しかし、雇用する上での業務の分担はジョブ型にしていくことができるはずです。それによって、リモートワークの生産性も上げることができるのではないでしょうか。

まとめ

今回は、日本のリモートワークのリアルについて徹底的に分析しました。最近では、ITベンチャーを中心にリモートワークも拡大を見せています。直近では転職を検討される方の軸の1つに「リモートワーク」が上がることも珍しくなくなってきました。

しかし、転職での会社選びにおいて、働き方だけではなくその会社が本当に自分に合っているかを見極めることも、とても重要な要素になってきます。

弊社では、これまで蓄積したベンチャー転職支援データに基づき、どのような事業フェーズやカルチャーの会社にフィット感が高いかを診断できる「Preventure診断」を提供しております。転職活動の指標にしていただけると嬉しいです!

また次回の記事でお会いしましょう。

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