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サステナビリティ活動の「火種」を消さない秘訣は、対話から。

今回も日本イーライリリーの川副祐樹さんと、クレアン浦上英朗さん、プラップジャパンの福島京さんの対談をお届けします。
日本イーライリリーが、新たなサステナビリティ活動を検討する過程をお聞きした
前編に続き、後編では活動の対外発信に際して意識した点、これからの取り組みの展望にフォーカスしてお話いただきました

<対談メンバー紹介>

■川副 祐樹さん
日本イーライリリー株式会社(コーポレート・アフェアーズ本部

大手内資系メーカーで、海外赴任もはさみながら幅広く社内外広報や農業分野での技術営業に従事。2020年、社会情勢と人生を考え、故郷である兵庫県に戻り転職。外資系製薬企業の企業広報として、社内外ステークホルダーを巻き込み、ソーシャルインパクトの創出にも挑戦中。

■浦上 英朗さん
株式会社クレアン(サステナビリティ・コンサルティンググループ)

ITソリューション企業を経て、2003年に株式会社クレアンに入社。企業のCSR/統合レポートの制作支援の他、CSR/統合経営の推進についても現状分析、目標策定、重要課題(マテリアリティ)策定、社内浸透など、多数の企業を支援。

■福島 京さん
株式会社プラップジャパン(コミュニケーションサービス統括本部 第6部)

大学・大学院で国際関係について学ぶなかで、社会課題に対するアプローチ手段としてPRに興味をもつ。パブリシティを強みとするPR会社、途上国発ファッションブランドの広報を経て、プラップジャパン入社。「プラップ・サステナビリティ & SDGsラボ」のメンバーとして、PR×サステナビリティ領域の可能性を模索中。

<前編記事はこちらから>

——前編では、日本イーライリリーが手掛けるサステナビリティ活動であるコミュニティ貢献活動プログラムの新たな“傘”となる施策として、「ヤングケアラーを取り巻く環境改善」に新たに取り組むことを決定するまでのプロセスをお聞きしました。前編のおさらいも兼ねて、本活動が目指す方向性について、改めてお聞かせいただけますでしょうか。

川副:社内の有志メンバーと議論をしたり、支援団体の方とお話をさせていただいたりする中で、今回の取り組みの方向性を次の通り整理しました。①ヤングケアラーが健康関連の情報にアクセスできる環境をつくること、②自分の時間がなかなかとりづらいヤングケアラーに対して、時間や場を提供している団体を支援すること、③日本におけるヤングケアラーという認知を正しいものとする、という三点です。
特に三点目に通じますが、活動の序盤では「日本イーライリリーがヤングケアラーに関する取り組みを行っていることを全従業員が認識している」状態を目指すべきゴールとしていました。私たちがこのテーマに取り組む以上、社内に対してコミットメントを伝えていく必要があると考えていたんです。

福島:活動を対外発表するにあたって、「“日本イーライリリーは、ヤングケアラーのこれからを創る取り組みをしていくんだ”という決意をまずは社内に向けて発信することが重要。社員たちがヤングケアラーのことを知り、その存在に気づき意識を向けるための活動をきちんと行いましょう」という川副さんの言葉が印象に残っています。

——取り組みの実行主体となる社員さんたちにきちんと認識・納得してもらうことが成功のファーストステップですね。具体的にはどのようにコミットメントを発信したのでしょうか。

川副:当社では15年にわたって継続している地域貢献活動として「リリージャパン・デイ・オブ・サービス」というボランティア月間があります。この月間のキックオフイベントの機会を活用し、活動の開始を発表しました。
なお、このタイミングでヤングケアラーの専門的知見をお持ちであるNPO法人「ふうせんの会」さんとのパートナリング契約も締結しました。ヤングケアラーの元当事者の方が所属しているふうせんの会さんと協働することで、一方的にならず、よりヤングケアラーに寄り添った活動を探っていきたいと考えていた背景があります。

福島:キックオフイベントでは、ふうせんの会さんをお招きしたオンラインセミナーも開催し、ヤングケアラーを取り巻く現状や課題、元ヤングケアラーの方の体験談などをお話いただきました。社員の皆さんがヤングケアラーという言葉を表面的に知るのではなく、実態をしっかり理解する場として機能して、とてもよい機会でした。

(キックオフイベント当日の様子)

——近年SDGsウォッシュが揶揄されています。うがった見方になるかもしれないのですが、対外発信にあたって日本イーライリリーがヤングケアラーを取り巻く環境改善に取り組む意義や必然性について疑問や否定的な声があがることは想定されていなかったのでしょうか。

川副:社員たちは想像以上にすんなりと受け止めてくれましたね。福島さんからお話のあったオンラインセミナーには想定以上の社員が参加し、正直なところ驚きもありました。社会貢献活動に対しての賛同が得られやすいこの風土は、当社の大切な資産だと改めて感じさせられました。
一方、社外に対しては社内以上に「なぜ当社がこの取り組みを行うのか」という点をしっかり説明する必要性を感じていましたし、プラップさんから何度もお尻を叩かれた(笑)ところでもあります。

福島:この活動を「よい事例だね」と知られるだけでなく、「日本イーライリリーが行うべき活動なんだね」と納得してもらえないと、社会に影響を与える活動として成立しないと考えていました。お尻を叩いてしまって(笑)、申し訳ありません。
ただこれは対外発信前に即席で用意しようと試みたことでは決してなくて、テーマ選びのフェーズから具体活動を検討する段階まで、皆さんでずっと考えていたことなんですよね。それを解像度の高い言葉として対外向けに言語化した、という表現が近いです。

川副:そうですね。対外発信時には、この活動に取り組む理由について「超高齢化社会において、製薬会社としてケアを必要とする患者さんだけでなく、ケアする人(=家族や子どもたち)のより豊かな人生をサポートする必要性」 をご説明していますが、これらはすべて有志メンバーとの議論が基となっています。

福島:有志メンバーだけでなく、川副さんや広報メンバー、浦上さんと当社で何度もディスカッションして定義しましたよね。どんな社会貢献活動でも意味はありますが、「ソーシャルインパクト」の言葉の通り、どうしたらインパクトを最大化できるか、日本イーライリリーのよさ・らしさを最大限出せるかという観点で話し合ったことを思い出します。

浦上:印象深いですね。それでいうと日本イーライリリーさんは、“今は目に見えていないけれど困っている人たち”や、“患者さんだけではない人たち”も日本全国で支援しています。特にこのことを突き詰めながら、手を差し伸べるべきはどんな人なのだろうか、と皆さんで一緒に議論しました。

福島:前編のお話にあった通り、皆さんで議論を重ねた分、活動をやるべき理由はたくさん考えてきましたし、堂々と説明もできます。一方で、PR的視点で言うと説明の仕方は今後も練り続けるべき課題としても感じているんです。
私たち自身は理解しているけれど、プロセスを知らない人に対しても端的に共感してもらうための工夫というか。パッと聞いてわかる納得感があって、なおかつ注目したいと多くの人に思ってもらうにはどう表現すればよいか、今後もブラッシュアップしていきたいと考えています。

——キックオフイベント以降では、ヤングケアラーに向けた書籍の寄贈を昨年12月に行われていますよね。どのような背景でこの施策の実施に至ったのでしょうか。

川副:「社会との接点を増やし、将来の選択肢を広げるような幅広い情報を知りたかった」という元ヤングケアラーの声にヒントをいただいて、「必要な情報にアクセスできるための環境改善」のひとつとして、ヤングケアラーの方たちに向けて53冊の本を選書し、ふうせんの会さんに寄贈しました。本との出会いによって、ヤングケアラーの生活の突破口となったり、居場所を広げたりすることに少しでもつながればという思いのもと、メンバーやクレアンさん、プラップさんでアイデアを出し合った施策です。

(書籍寄贈記念式の様子)

——複数のメディアで好意的に取り上げられているのは「日本イーライリリーがヤングケアラーの環境改善・課題解決に取り組む理由」がきちんと伝わっているからなのだと拝見しています。

福島:記者さんからは「ヤングケアラーへの理解を深める機会をありがとうございます」と言っていただくことが何度もありました。日本イーライリリーさんの考え方や積み上げてきたことが記者の方にきちんと伝われば、こんなにも素敵な反応をいただけて、熱量ある記事化につながるんだと実感しています。
川副さんは取材対応の中で「ヤングケアラーは黎明期の社会課題で、何をやったらいいか探りながら活動をしています」「記者の皆さんからもフィードバックをいただきたいです」という風にお声掛けをされているんです。単にメディアから取材を受けて、記事化してもらう、という関係性ではなくて、ヤングケアラーの環境改善に向けて奮闘している日本イーライリリーさんの姿勢が伝わっているからこそ、“報道”という形で支援しようと思ってくださっているのだとも思います。

川副:記者さんとお話をする中で「記事化までまだ時間がかかってしまいます」とか「もっと大きな紙面で取り上げたかった」などと謝ってくださることがあったんです。現場で取材をする記者さんは深刻かつ喫緊の課題として捉えてくださり、記事化に向けた熱意をすごく感じました。一方、まだ世の中の認知が高くない課題である分、媒体方針としては優先順位が低くなってしまう部分もあるのかなと解釈しています。
これからもメディアの皆さんと課題感をしっかり共有し、ご意見をお聞きしながら、ニュースの発信の仕方を探り、工夫していきたいところです。

福島:それに関連すると、化学工業日報さんの年始の社説は「ヤングケアラーは社会課題だが支援している民間企業はまだ少ない、社会全体で対策を考える必要がある」という内容でしたよね。記事では、日本イーライリリーの取り組みを丁寧に紹介いただいた上で、今後に期待したい、といわば応援のようなコメントで締められていました。
非常に理想的な語られ方でありがたいと思うとともに、この1年は“仲間”をつくることができた年だったとつくづく感じています。2年目はこんな記事を書いていただく働きかけをして、仲間を増やしていきたいですね。

——「仲間をつくることができた1年」。素敵な表現ですね。川副さんはこれまでの取り組みとこれからの活動予定についてどのように考えていらっしゃいますでしょうか。

川副:対外発表をした活動自体は半年ほどで、まだ大きな結果が出たとは言えませんが、取り組みをゼロからつくり、多くの社員を巻き込むことができました。継続的にやるべき活動としてポジティブに受け止めている社員が非常に多く、ボランティア月間だけでなく年間を通してやっていくべきだという意見ももらっています。全社員が参加するためのファーストステップとして、まず根を張ることはできたと捉えています。
私自身この1年を通じて、ヤングケアラーの問題に取り組む意義は非常に大きいと痛感していますし、今年も継続していくことは大方針です。取り組み自体は本社である神戸からの発信が中心だったので、今年は神戸だけでなく全国、そして社会全体を意識した活動を進めていくつもりです。

福島:ヤングケアラーをテーマに活動を始めたことに対して、日本イーライリリーさんの社内で支持や共感をいただけているのはありがたいですし、わたしも責任を背負っている感があります。やりたいことはたくさんあるので、まずは取り組みを継続することを必須に、“火種”を消さない工夫をしていきたいとメンバーの皆さんと話しています。

浦上:やはり活動を継続的に続けないと、問題は解決しないですよね。

福島:取り組みを一過性のもので終わらせず、継続させていくために、浦上さんが普段コンサルティングで意識されていることがあればお聞きしたいです。

浦上:大切なのは先にロードマップを敷くことです。できる・できないという実現性は別にして、「3年後にこうなっていたいよね」と全員で共有できるビジョンをスタート時点から持っておくことを他の企業さんでもお勧めしています。そうすることで目の前の「できること」だけで終始させずに中長期的に考えることができますので。

川副:そうですね。これまでと同じようにメンバー全員のアイデアを生かしながら、全員と目線を合わせて議論していく。当事者や支援団体の声もお聞きしながら、少しずつ前に進めていく。愚直な形になりますが、試行錯誤しながら取り組んでいきたいですね。

福島:皆さんと練ったアイデアのうち、まずは初回として本を寄贈しましたが、数年後のビジョンという観点では、本以外のモノを贈る形でヤングケアラーを応援するという方向性もあるかもしれません。パートナーやステークホルダーを巻き込んで、ヤングケアラーを取り巻く課題を一緒に解決していくにはそんな発展のさせ方もあるのかなと考えています。

——ヤングケアラーを応援したいと思う企業たちが自社のできる方法で支援をする。素敵ですね。本の寄贈の考え方を応用すると、今後より様々な方が参加しやすい枠組みに発展しそうです。

川副:たしかにおっしゃる通りで、たとえばお菓子メーカーだったらお菓子を提供いただけるかもしれませんし、モノだけでなく勉強などのノウハウやレジャーなどの機会を提供してくださる企業もあるかもしれません。
私たち製薬企業一社が提供できることは限られてしまいますが、私たちが声を掛けることで結果的にみんながハッピーになれるように手を組むことができるといいですね。横のつながりというか、民間企業同士の連携もなんとか探っていきたいところです。

福島:“ギフト”の形は多様であることに気づきます。日本イーライリリーがさまざまな企業に対して働きかけをすることで、企業それぞれが自分たちの持ち場でヤングケアラーに関する問題を正しく知り、自分たちができる形で応援する状態が当たり前になる。そんな社会を目指して取り組んでいきたいですね。

浦上:ステークホルダーとの接点創出という意味でもとてもいいですね。川副さんのお話にあった通り、ヤングケアラーを取り巻く課題はまだ発展途上で、残念ながら全国組織も少ないのが現状です。全国規模での展開を目指すうえでの接点作りという意味では、企業だけでなく学校や子ども食堂などもパートナーとなりうるなとお話を聞いていて感じました。
パートナーとして相対する人たちがいると、実施できること・実施しづらいことを現実的に考えるので、取り組みをより前に進めやすくなるという効果もあります。仲間づくり、相手づくりによって“取り組みの火種”を消さないようにしたいですね。

——アイデアから夢が膨らんでいきますね。本日の対談はPRに携わる人たちだけでなく、サステナビリティの取り組みを始めたいけど、どう始めればいいかわからない、という人にとってもヒントや学びがたくさんありました。最後に川副さんから締めのお言葉をいただけますでしょうか。

川副:取り組みの前後で、社内への浸透度合いを調査するためのアンケートを実施したところ、衝撃を受けたのは、元ヤングケアラーの社員が複数存在したということでした。当たり前ではあるのですが、衝撃でした。その社員にヒアリングをさせてもらうと「自分がそういう存在だったのは知らなかった」「今回の取り組みを知って、自分がヤングケアラーだったと自覚した」という声を聞きました。アウェアネスを上げるとはこういうことなのかと身をもって感じると同時に、どこの企業、どこの組織でもおそらく介護で自分の時間が制限されている方が今もたくさんいらっしゃるということを実感した瞬間でした。社会課題を本当に身近に感じるとはこういうことなのだと思います。
今回の取り組み検討にあたっては、社外の当事者の方を招いてお話をお聞きしていましたが、実は隣にいる社員に話してもらうことが社員にとって一番インパクトフルなんだろうな、と。外にばかり目を向けなくても、社員自身が当事者として、取り組みの登壇者となって社会課題を考える。そういったやり方も今後あるのではないかとも思っているんです。
この1年間で、積極的にチャレンジできる土壌があるということを確信したので、これからもトライ&エラーを重ねながら、活動に取り組んでいきたいです。

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サステナビリティに関する取り組みの“はじめの一歩”の踏み出し方から、その後の地図の描き方まで詳しく知ることのできた対話となりました。お三方ともお話をありがとうございます。
取材をした私自身が思い出したのは、以前PRAP OPEN NOTEで紹介したこちらの記事。「サステナビリティPRは線香花火。打ち上げるよりも、持続性と熱量が大事という話。」

数年後のロードマップを関係者間で共有すること。その目標に沿いながらも、“相手づくり”をしながら、時には柔軟に形をアップデートしていくこと。活動に一緒に取り組む仲間や活動を伝えるステークホルダーたちとともに考え続けることが、取り組みの“火種”を消さないためには欠かせないのだと感じました。
なお、プラップジャパンの「サステナビリティ&SDGsラボ」では、サステナビリティへの取り組みを具体化して情報発信するまでのフェーズを一貫してサポートするサービス「ゼロイチコンサルティング」を展開しています。ご興味がある方はぜひお問い合わせください。

「プラップ・サステナビリティ&SDGs ラボ」が開発した新サービス「サステナビリティ・ゼロイチコンサルティング」の提供を本格始動


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