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社員参加型のサステナビリティ活動を「掛け声」で終わらせない工夫点。

こんにちは。PRAP OPEN NOTE編集部です。今回は、日本イーライリリーの活動事例をもとに、パーパスにもとづくサステナビリティ活動の“作り方”と“広げ方”を考える対談を前後編でお届けします。
日本イーライリリーでは、2022年2月から
ヤングケアラーを取り巻く環境改善をテーマとしたサステナビリティ活動を展開しています。日本の超高齢社会において重要なテーマの1つである在宅ケア。本来⼤⼈が担うと想定されている家事や家族の世話、介護、感情⾯のサポートなどを日常的に行っている⼦どもたち、いわゆる「ヤングケアラー」になぜ着目し、どのように活動を検討したのか。
この取り組みを手掛けた日本イーライリリー企業広報の川副祐樹さんと、活動をサポートしたクレアンのサステナビリティコンサルタント浦上英朗さん、プラップジャパンのPRコンサルタント福島京さんが語り合いました。

<対談メンバー紹介>

■川副 祐樹さん
日本イーライリリー株式会社(コーポレート・アフェアーズ本部)

大手内資系メーカーで、海外赴任もはさみながら幅広く社内外広報や農業分野での技術営業に従事。2020年、社会情勢と人生を考え、故郷である兵庫県に戻り転職。外資系製薬企業の企業広報として、社内外ステークホルダーを巻き込み、ソーシャルインパクトの創出にも挑戦中。

■浦上 英朗さん
株式会社クレアン(サステナビリティ・コンサルティンググループ)

ITソリューション企業を経て、2003年に株式会社クレアンに入社。企業のCSR/統合レポートの制作支援の他、CSR/統合経営の推進についても現状分析、目標策定、重要課題(マテリアリティ)策定、社内浸透など、多数の企業を支援。

■福島 京さん
株式会社プラップジャパン(コミュニケーションサービス統括本部 第6部)

大学・大学院で国際関係について学ぶなかで、社会課題に対するアプローチ手段としてPRに興味をもつ。パブリシティを強みとするPR会社、途上国発ファッションブランドの広報を経て、プラップジャパン入社。「プラップ・サステナビリティ & SDGsラボ」のメンバーとして、PR×サステナビリティ領域の可能性を模索中。

——本日は、日本イーライリリーさんが取り組んでいるサステナビリティに関する取り組みについて、お話を詳しくお聞きする機会をいただき、ありがとうございます。報道を見ていて、とても意義のある活動と感じています。

[参考報道]

一連の活動は、御社のグローバルのサステナビリティビジョン「ソーシャルインパクト(Social Impact)」に基づく活動だそうですね。

川副:はい、当社のグローバル全体でのサステナビリティに関する活動の見直しがきっかけでした。「世界中の人々のより豊かな人生のため、革新的医薬品に思いやりをこめて」というOUR PURPOSE(使命)の実現に向けて、ビジネスに限らず地域コミュニティや社員、また多くのステークホルダーと関わりを持っていこう、という大きな指針を改めて検討しました。この中で、コミュニティをよりよくする「ソーシャルインパクト(Social Impact)」の創出、社会課題を解決・改善するための動きが加速したんです。
日本においてもすでに様々な活動がありましたが、多くが疾患や部門に紐づくものが中心でした。それゆえに「日本イーライリリーはコミュニティに対してなにをやっているの」と聞かれると、「こんな活動もあんな活動も手掛けています」という回答になってしまうことには課題を感じていまして。

福島:プラップジャパンが活動を支援している“みえない多様性PROJECT”もそのひとつですが、すでに事業部単位でたくさんの素晴らしい取り組みをされているからこその悩みですよね。

川副:ソーシャルインパクトというフレームが生まれたこの機を活かして、「日本イーライリリーといえば、この活動」と感じられるような“傘”となる施策を日本独自でつくりたいと感じていました。ただ、すでに取り組んでいる複数の活動にプラスオンして行うものとなりますし、上層部からの指示で実施するような活動ではおそらく社内に根付かない。企画段階から社員を巻き込むことに重きを置いて、取り組みを始める必要があると考えていました。

——サステナビリティに関する取り組みを実行する企業において、「社員をどう巻き込むか」という点は非常に苦労する一方で欠いてはならない視点です。もう一歩踏み込んで、社内をどのように巻き込んでいったのか聞かせてください。

川副:広報活動に携わるメンバーは複数名いるのですが、我々だけでは日本イーライリリーらしさや、取り組むべき社会課題を絞り切れませんでした。多様な社員の力やアイデアを借りながら、「提供できる価値」や「当社が取り組むべき理由」をみんなで探すことが、“傘”となる象徴的な取り組みにおいては必須だと思っていたんです。
また社員はもちろん、その取り組みが社外からも支持されるには広報的な観点が欠かせないですし、“ウォッシュ”を生まないように、専門家の意見も聞きながら進める必要もあります。そこでまずは、社員を巻き込む構想段階でプラップジャパンさんにご相談をしました。

福島:この活動はPR施策が主軸というよりも、日本イーライリリーさんの企業活動全般がお題です。これまで支援させていただいている取り組みよりも、ターゲットや内容が拡張していくと考えたときに、“拡張”の方向が間違ったものになってはいけないという思いがありました。
「ソーシャルインパクト」という名称である以上、自社の自己満足で終わるのではなく、社会に対して明確にインパクトをもたらす必要があります。もちろんPR視点でアドバイスや実行の支援はさせていただきますが、私たちPR会社がアウトプットを測る際の指標とサステナビリティの成功指標は異なります。よりよい形で社会に発信するためには、専門家のアドバイスを仰ぐことが欠かせないと考え、サステナビリティ経営のコンサルティングを手掛けているクレアンさんに手助けいただきたいとお声掛けしました。

浦上:当社でもクライアントとやり取りをする中で、こういった社会貢献活動を見直したいとご相談を受けてお手伝いをすることはよくあります。ただ、このように企画の序盤からクライアントさんとPRコンサルタントさんと一緒にPRの視点も兼ね備えた取り組みをつくっていく活動は多くなく、新鮮な気持ちで取り組ませていただきました。

川副:初めて取り組む座組みだったので、三社間でのディスカッションに時間をかけたことを思い出します。

福島:そうでしたよね。まずは三社で社員さんたちが参加するワークショップの立て付けや目指すべき方向性・ゴールを協議してから、参加していただける有志社員さんを募集しました。

——社員参画を促すにあたっては、具体的にどのように声をかけて、企画を詰めていったのでしょうか?

川副:企画に参加してもらうボランティア社員を全社でオープンに募ったところ、営業職や開発、管理部門、西神工場など幅広い部門から26名の有志社員が集まりました。多様な社員に参加してもらうことを狙いとしていましたが、集まったメンバーの熱意や知識量、考え方は活動当初は本当にバラバラで。
“サステナビリティとは”、“日本イーライリリーらしさとは”、など根源的な目線合わせを意識しながら、「超高齢化社会におけるコミュニティの健康課題」を注力領域として、そこから生まれる様々な社会課題と民間企業である私たちが提供できる価値について議論するワークショップを複数回実施しました。

福島:川副さんの発案で、ワークショップ実施の前後でアンケートを実施して、参加メンバーの皆さんが考えていることをお聞きしたり、意見を吸い上げたりしましたよね。ワークショップ以外にアンオフィシャルなランチョンや、ビジネスチャット上で気軽にやり取りをしたことで、たくさんのアイデアが生まれました。川副さんが意見交換の場を積極的に設けてくださったことで、どんなテーマがふさわしいかより深く検討することができました。

川副:このような社員参加型の企画では、「手を挙げて参加したものの、忙しさのあまり離脱してしまう」ということが時々起きてしまいます。けれど「ワークショップに出られなくなって、議論内容がわからなくなった」「もう参加しなくていいや」と諦めてしまうのは本当にもったいないと感じていて。
26人全員のスケジュール調整はなかなか大変ではありましたが、メンバー誰もが「私も参加している」と感じてもらえるようにしたかったですし、参加メンバーの考えはすべて盛り込みたいと私自身強く思っていたんです。

(参加した有志メンバーの皆さん)

——なるほど、まずは向き合うべき社会課題から皆さんで話し合うことにかなり工夫をしていたんですね。参画した皆さん全員の意見を吸い上げようとすると、方向性を定めるだけでも難しい側面があったのではないでしょうか。

浦上:26名もいらっしゃると、当然皆さんの考え方は異なります。川副さん、福島さんがおっしゃった通り、このワークショップでは本当にたくさんのアイデアが生まれました。
多くの意見が生まれる中で特に意識していたのは、活動の具体的なアイデアまで粒感を揃えることです。“整理”するイメージでメンバー皆さんの考えを、川副さんをはじめとした広報チームの皆さん、プラップさんと当社でいくつかの方向性に集約させました。

福島:そのいくつかの方向性から、日本イーライリリーが取り組むべきテーマ候補を「ヤングケアラー」として選定したんです。

浦上:当たり前ではありますが、このようなサステナビリティに関する活動で何より重要なのは、企業が持っている “資産”や“強み”の活用です。社会側も“その企業ならではの取り組み”を求めています。
たとえば社会貢献活動の例としてよく挙がる「植林活動」が悪いわけでは決してありません。ただ医療や健康に携わる日本イーライリリーとして、ふさわしい活動とは何か。さらに“患者さん側(ケアされる側)だけでなく、ケアする側をも巻き込む”ほうがより影響力を発揮できるのではないか、とワークショップ内でサジェッションをさせていただいて。以下のような判断基準のもと、「ヤングケアラー」というテーマを活動の方向性として定めた形です。

(ワークショップ内で使用した一部資料より抜粋)

——なるほど。“ケアする側をも巻き込む”という発想から、本来⼤⼈が担うと想定されている家事や家族の世話、介護、感情⾯のサポートなどを日常的に行っている⼦どもたち=ヤングケアラーの存在に着目されたんですね。テーマ候補としてヤングケアラーが浮上した中では、実際に当事者団体や支援団体などの第三者にもお話を聞くプロセスを設けられたと聞きました。

福島:巻き込むステークホルダーがものすごく多いので、誰にとってもよい形、かつ独りよがりにならない活動にしたいと考えていました。アイデアはたくさん出たものの、ヤングケアラーの実情が知られていない中だとどうしても想像の範疇を超えられず、皆さんと議論を重ねても確証が持ちづらい部分があったんです。
福祉法人に現場視点での課題をお聞きしたり、ヤングケアラーの支援団体にヒアリングのお時間をいただいて、当事者の方々が必要とされていることをお伺いしたりしました。

川副:ヒアリングには有志メンバーたちも一緒に参加させていただきました。製薬会社にいる以上、顧客や患者さんの声を聞くことはもちろんありますが、部門によっては間接的なヒアリングにとどまってしまうことがあります。これほど最前線にいらっしゃる当事者の方々と直接お話をする場にメンバーそれぞれが同席できたことは、非常に貴重な機会となりました。

福島:ヒアリングでは、当事者の立場から求められる取り組みについてもお聞きできたことで、私たち自身も取り組もうとしている活動に自信が持てましたし、情報へのアクセスや知識など新たなニーズも見えてきたんです。このヒアリングを通じて、具体的な支援活動のアイデアを膨らませることができました。

浦上:すぐに具体策を決定せずに、自由な発想でアイデアを議論することで多様な活動案が生まれて、とてもよい過程だったと記憶しています。

福島:その中で生まれたアイデアを3つの方向性(①ヘルスケア等に関する情報へのアクセス改善や知識向上、②支援団体による提供サービスのサポート、③ヤングケアラーに対する社会認知向上)にまず整理しました。そのうえで、それぞれに対応する活動プランとPR方法を合わせて当社からご提案した形です。

川副:大きな方向性を3つに整理し、それに基づく具体的な活動プランを提示いただいたことで、メンバーの参加意向もちょうど3グループに分かれました。3チームそれぞれの有志メンバーの中からリーダーを立てる形をとったことで、コンテンツづくりは有志メンバーが、コミュニケーション面は私や広報メンバーがサポートする、とスムーズに連携できましたし、結果として活動の幅も広がったと振り返っています。

——スムーズに役割分担ができたのも、これまでの議論の積み重ねがあったからこそですね。トップダウンでないボトムアップ型の取り組みは検討するだけでも時間がかかるものですが、チームメンバーでプロセスを共有し合いながら進めることでこそよい形に着地するのだと実感します。

浦上:今回の活動が成功した背景には、川副さんや広報メンバー、そして有志メンバーの熱意や、日本イーライリリーさんの風土という部分が非常に大きいと感じます。ただ、これをきっかけに一社でも多くの企業さんが自社の強みを活かして社会課題に対してインパクトのある活動ができると思ってもらえるとありがたいですね。

川副:そうおっしゃっていただき、ありがとうございます。今回は26名の社員が主体的に参加する機会を設けることで、メンバー自身がアイデアを出し合う空間をつくることができました。
部門を横断し、これまで関わりの薄かった社員たちが一丸となって、会社としての大きな活動に携われたことは意義があることでしたし、参加メンバーからは「人脈が広がった」「仕事の進め方や社会活動をするにあたってのノウハウが学べた」といったコメントをもらっています。手を挙げた社員が考え、学びとして持ち帰るものがあったことは非常によかったと捉えています。

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サステナビリティ活動の策定タイミングから社員を巻き込むことで、“掛け声”で終止せず、“実行”に至るまでの多様なアイデアを生み、納得した形で活動を推進することができる。さらにPR/サステナビリティの専門家の意見を盛り込むことで、社会にインパクトをもたらし、共感を生む活動に昇華させることができる。サステナビリティに関する活動の“はじめの一歩”を踏み出すためのヒントの多い対談となりました。
「会社として、CSR活動を強化することは決まったけれど、どう始めてよいかわからない」「自分たちの部門だけでなく、他部門を巻き込んで社会貢献活動を考えたい」というお悩みの企業が共通認識として知っておくべきプロセスだと感じます。

後編では「サステナビリティ活動を社会に伝える方法」をテーマに、本活動の対外発信に際して意識した点や今後の展望についてより深くお聞きします。どうぞお楽しみに。

▼後半記事はこちらからどうぞ。








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