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サステナビリティPRは線香花火。打ち上げるよりも、持続性と熱量が大事という話。

今回も引き続き、「サステナビリティとPR」をテーマに対談をお届けします。前編では、サステナブルな取り組みと企業の向き合い方を中心にお話してきましたが、後編で考えるのは、生活者に賛同してもらうための「届け方」。
対談相手は前回と同じく、「プラップ・サステナビリティ&SDGsラボ」の城島佐知子さんとプランナーの持冨弘士郎さんです。

<対談メンバー紹介>

■城島 佐知子さん
「プラップ・サステナビリティ&SDGs ラボ」首席アナリスト。企業の環境配慮・環境経営を支援するコンサルティングファームの広報誌企画・制作から、サステナビリティに関するPRへの関わりをスタート。自動車メーカーや小売などの環境/CSR報告書制作、グリーンエネルギーやCO2排出量削減政策に関するコンテンツマーケティングなど、環境分野での様々なコミュニケーション施策を実施している。また、ダイバーシティ、女性活躍推進、健康経営など、サステナビリティに関連する多様なテーマのコミュニケーションを支援している。

■持冨 弘士郎さん
2010年プラップジャパン新卒入社。製薬、食品、小売、消費財、D2C、エンタメなど様々な業界のPRを担当。2017年より戦略プランニング専門の部署に籍を移し、PR視点のクリエイティブ開発やプロジェクト立案など、幅広いコミュニケーション施策を企画・ディレクションしている。プロボノワークとしてSCD/MSAという難病の認知向上を目的とした活動「#酔っぱらいではありませんプロジェクト」を運営中。
受賞歴:PRアワードグランプリ シルバー、PR AWARDS ASIA FINALIST、JAA広告賞 など

——前編は、サステナビリティに関する取り組みを世の中に伝えるための第一歩は、目の前のお客さんが納得してくれる価値や共感できる言葉を探すことから、というお話でした。

こういった取り組みを知ってもらう活動は、どうしても時間がかかるものだけれど、腰を据えて実行していける企業こそが世の中に応援されたり、賛同されていくんだなと改めて感じているところです。

持冨:おっしゃる通り、こういった情報発信は今後どの企業においても増えていくと思いますし、増やす必要もあると考えています。城島さんが、プラップ・サステナビリティ&SDGsラボを発足したのもそんな経緯があるんですよね。

城島:そうなんです。私たちは、サステナビリティのコミュニケーションは、生活者や社会を含めた多様なステ―クホルダーに向けて行われる必要性があると考えています。ただ、これまで行われてきたサステナビリティの情報発信は、サステナビリティレポートのように、専門家やESG投資家に向けた難解なものに集中していました。

——たしかに。

城島:一方、ここ数年のサステナビリティブームの中では、メディアでの話題化を狙うあまり、ウォッシュに繋がりかねない表層的なコミュニケーションも行われていると感じます。私たちは、そのどちらにも陥らず、専門家の視点からも生活者の視点からも充分で分かりやすく適切にサステナビリティの取り組みを伝えていくことが、「サステナビリティPR」だと考えています。

——そんな「サステナビリティPR」を実行する際に城島さんが意識しているのはどんな点でしょうか?

城島:「企業としてすごくいいことをやっています」とストレートに語るだけではなく、取り組みを知ってもらうためのアイデアが欠かせないと思っています。サステナビリティの取り組みは、得てして、わかりやすいものや派手なものではありませんからね。
なので今日はプランナーの持冨さんに、疾患啓発など社会課題に絡めたPRのアイデアをつくるときにどんなことを考えているのか聞いてみようと思っていたんです。

持冨:社会課題に関わるPRの場合、社会性をアピールすれば多くの人に興味を持ってもらえそうな気になってしまうんですよね。でも実際は、商品やサービスのPRと同じで「新しい要素」がないと振り向いてもらえない。
取り組む課題そのものが新しかったり、解決の方法が斬新だったり。アイデアにも、メディアや生活者の関心を引く新しい要素を盛り込むことは意識しているかもしれません。わりと単純な視点ですが、社会的価値について語り合っていると、案外その視点が抜け落ちてしまうことがあるので。

——社会的価値を訴える綺麗なPRストーリーを用意しただけで満足してはいけないと。

持冨:もちろんストーリーも大切なんですが、そこに至る入口を、できるだけ新しい形で用意できるといいですよね。
企業の取り組みではないですが、以前OPEN NOTEで紹介したSCD/MSAという難病啓発のプロジェクト「#酔っぱらいではありません」もまさにそんな感じでした。

——身体のふらつきや呂律が回らない症状から「酔っぱらいに間違われてしまうことがある」というSCD/MSA患者さんの実体験にもとづき、「#酔っぱらいではありません」というメッセージをデザインしたパスケースを制作して、患者さんに届けていくプロジェクトですよね。

持冨:はい。この課題に取り組むときも、最初は疾患認知の低さや患者さんの仕事の選択肢が少ないことを入口にした疾患啓発活動を検討していたんですが、取り組みが広がっていくイメージがあまり湧いてこなくて。いま思えば、他の疾患にもあてはまる課題を入口にしようとしていたので、新しさがなかったんですよね。それであらためて患者さんのお話を振り返ったときに、「酔っぱらいに間違われる」というエピソードをいちばんに思い出したんです。
そういえば、酔っぱらいと誤解されることのある病気なんて聞いたことがない。この情報こそが、世の中の人にとっての気づきにつながると考え、「酔っぱらいではありませんと書かれたパスケースを患者さん自身が携帯する」というアイデアが生まれました。

「#酔っぱらいではありません」プロジェクトで制作したパスケース

——まさに、みんなが聞いたことのない新しい事実がこの難病を知る入口として機能していますね。
持冨さんが携わった最近の疾患啓発でいうと、片頭痛の理解促進を目的にした「
ヘンズツウかるた」も昨年11月のローンチ以降、さまざまなメディアで取り上げられています。

持冨:日本イーライリリーさんの片頭痛啓発の取り組みとして、片頭痛の見えない痛みやつらさを46枚のかるたで表現しました。読札のエピソードは実際の当事者と周囲の方の声から集め、絵札のイラストも片頭痛当事者のイラストレーターさんに描いていただいています。
当事者の間で共感を生むだけではなく、当事者が周囲に自身の症状を伝える際のコミュニケーションツールとしての活用や、実際にかるたで遊びながら職場や学校のようなコミュニティ内での理解を促進していくところまで見据えたアイデアです。

城島:先日もNHKのニュースで取り上げられていて、私も興味深く拝見していたところでした。
啓発系の施策でかるたのフォーマットを活用するのはさほどめずらしいことではないですが、見えない痛みをキャッチーなイラストで可視化したことと、片頭痛ならではの症状や悩みの多様さという課題に着目している点に新しさを感じます。

片頭痛の見えない痛みやつらさを46枚のかるたで表現した「ヘンズツウかるた」

——メディアでもSDGsやサステナビリティの特集が組まれる機会が増えているとはいえ、企業の取り組みを報じてもらうのは簡単ではありません。

城島:どんなに企業がよい取り組みをしても、読者や視聴者にとっては縁遠く感じられてしまう部分はありますね。マスメディアであればあるほど、特性上「企業の先進的なサステナビリティの取り組み」よりも、「一般の人でも実践できるサステナブルな活動」的な話題のほうがどうしても興味を持たれやすいですし。

持冨:縁遠く感じられてしまう原因のひとつに、ストーリーの物足りなさもあるかもしれません。社会課題に向き合う系のストーリーは、どうしても漠とした内容になりがちなので。

城島:そうですね。この領域のPRの場合、通常のPR以上に個人の想いや熱量、個人的なストーリーを盛り込んでいくべきだと思います。
プラップジャパンの有志社員が立ち上げた「虹色PRパートナー」は顕著な例。私も協力しているこのプロジェクトは、様々な企業・団体のLGBTなど性的マイノリティに関連するコミュニケーション上の課題解決をすることを目的にスタートしたものなんですが、メンバーは全員“自分ごと”として取り組んでいます。

持冨:ロゴ制作もアライのデザイナーさんに協力をお願いしたんですよね。

城島:そうなんです。そうするとやはりチームメンバーの熱量が一致するので、制作前のディスカッションから熱の入り方がまったく違う。個人が持っている熱やストーリーを重ね合わせるとそれだけでPRのコンテンツになるし、人の心を動かすことができると実感しているプロジェクトです。

——マスメディアの力を借りて取り組みを届けていくときでも、必要なのは個人の熱量やストーリーであると。

城島:はい。あとは記者さんも共感してもらうステークホルダーの一人。取り組みに個人の熱量を添えて発信していくだけではなく、受け取る側の熱量やエンパシーを想起していくことも大切だと思います。

持冨:それでいうと、先ほどの「ヘンズツウかるた」の事例でも、ご家族に片頭痛の当事者がいらっしゃる記者さんは、こちらが驚くほど深いレベルで共感してくださいました。
「あのメディアに取り上げてもらいたい」ではなく、「あのメディアの〇〇さんに届けたい」と、個人単位で想像することが重要なんだなと感じます。

——なるほど。それは、記者さんのパーソナリティを事前に知っているからこそできることで、さまざまな企業さんのPRを通じて記者さんとお付き合いをしている私たちPR会社の得意分野かもしれないですね。

持冨:はい。記者さんだけでなく、KOLやインフルエンサーに対するアプローチも同じだと思います。フォロワー数や影響力ではなく、「その人がその問題にどれだけ熱を持って賛同してくれるか」という基準で協力相手を選ぶことが大切なんだろうなと。

城島:「どれだけ理解してもらえるか」「共感してもらえるか」という発想を持つことで、「他ではないあなたに協力いただきたいんです」と、こちらも熱意を持ってお声掛けできるようになりますよね。

 ——ここまでのお話で、サステナビリティPRには、興味の入口としての新しさ、受け手の共感を生む熱量が重要になることが見えてきました。
ちなみにサステナビリティの取り組みは一過性ではなく、継続していく難しさもあると思うのですが、そのあたりはどのようにお考えですか?

城島:「社会に対していいことをしよう」という熱だけでは、継続しづらい部分があるのは事実です。大事なのは「仕組みづくり」。一定の熱量で、取り組みをキープしていくために「持続」「実効性」をふまえた仕組みをつくることが重要だと考えています。
たとえば最近は、企業や自治体、NPOなどさまざまな分野で活躍するプレイヤーが共同で社会課題解決に取り組むコレクティブインパクトという考え方が強くなっています。ひとつの企業ではリソースに限界があるので、複数社で横断的に目標に向かって取り組む仕組みをつくってしまうことも、活動を継続するうえで有効な手段です。

——先日OPEN NOTEでお話をお伺いしたボーネルンドさんも、行政や民間企業と手を取り合って日本各地のあそび場づくりを実行されていました。

城島:まさにコレクティブインパクトですね。私たちはPR会社の立場ですが、クライアントさん同士が連携するのをただ待つのではなく、手を取り合うための関係構築から一緒にサポートしていきたいと考えています。

持冨:そこで手を取り合う企業の間で相乗効果が生まれるとなおいいですよね。この2社が連携することで一つの課題ではなく、複数の課題を同時に解決することができました、みたいな。そうした戦略的な視座でクライアントさん同士を繋げる役割を担いたい。

城島:そのためにはクライアントのことはもちろん、世の中全体をもっと深く知らないといけないですね。単なる連携ではないし、コラボレーションした商品で話題化を図る、というものでもない。
メディアや生活者に知ってもらうための話題づくりは念頭に置きながらも、「持続」「実効性」を意識した仕組みづくりを考えていきたいです。

——話題づくりから仕組みづくりへ。サステナビリティPRでは、PRパーソンの役割も、より継続的なコミュニケーションを前提としたものへとシフトしていきそうですね。

持冨:極端な話、継続するためには大きな話題にならないほうがいいとすら思うんです。話題になった瞬間に関係者のモチベーションのピークがきて、以降話題の低下とともにモチベーションも下がってしまうということが起きるので。
もちろん瞬間的な盛り上がりをつくる戦術も大事ですが、それ以上に一人ひとりに地道に説明を重ね、トレンドに流されない理解者や賛同者を獲得していくことが、サステナビリティPRに求められる基本姿勢なんじゃないかなと考えています。

城島:打ち上げ花火ではなく線香花火のようにコツコツ長く続くことを目指していく発想ですね。多くの社会課題は5年10年かけてようやく解決されていくもの。短期的な露出量をKPIにするのではなく、そのプロジェクトが何年続いたかをKPIにするという視点を持ってもいいのかもしれません。

お二方ともありがとうございました。「話題づくりから仕組みづくり」。「受け手の共感を生むための熱量」。「打ち上げ花火よりも、線香花火」。
企業のサステナビリティに関わるPRをするうえでの気づきが多い対話でした。
次回は、お二人の対話でもふれられた日本イーライリリーさんの取り組み「
みえない多様性PROJECT」に関する対談をお届けします。PRアワードや人事系のアワードも複数受賞しているプロジェクトの裏側を前後編に分けてご紹介する予定です。プラップジャパンが考える「サステナビリティPR」の最新事例として、ご覧いただけると幸いです。


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