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パーパスPRのポイントは「仲間づくり」。ボーネルンドと考えるこれからのコミュニケーションの在り方。

こんにちは。今回もボーネルンドの村上裕子さんとの対話をお届けします。

前回は、世界の玩具の輸入・販売、あそび場施設の開発・運営を手掛けるボーネルンドが「あそびを届ける」ために実行してきたことをお聞きしましたが、今回は「あそびを広げる」ために各地の行政や企業などのパートナーと一緒に取り組んでいる「あそび環境づくり」を中心にお話いただきます。

 ■村上裕子さん
音楽関連企業勤務を経て、2001年に株式会社ボーネルンド入社。企業ブランディングや販売促進、広報に携わる。2007年に広報室新設を提案、広報室長に就任。2011年、執行役員兼広報室長として東日本大震災の被災エリア支援活動として室内あそび場を提供する活動を行う。2012年より取締役兼広報・広告宣伝部長として、ブランディング・広報・広告宣伝などコミュニケーション活動全般、社長秘書業務を担当する。

——前回お伺いした「あそび場を“社会のインフラ”にしたい」というお言葉、とても印象的でした。

ボーネルンドさんが考えていらっしゃる”社会のインフラ”について、改めてお聞かせいただけますでしょうか。

村上:はい、前編でちらりと触れた通り、私たちはあそび場を、子育てのみならずまちづくりにおいてなくてはならない“社会のインフラ”であり、実際にそうなるようにしていきたいと考えているんです。というのも、子どもたちの居場所として豊かなあそび環境が整っているヨーロッパの国々と比べると、日本には子どもの視点を大切にしたあそび環境や、多世代が集い交流することができる楽しく心地のよい居場所がまだまだ限られているから。自由にのびのびと、あそびにのめりこめ、多様な人々が集える環境が日本中に当たり前にあることが理想だと考えています。

——たしかに、私自身「ボール遊び禁止」という看板がある公園を見るとなんだか寂しい気がしてしまいます。安全面の確保など公園を訪れる人たちへの配慮やルール作りはもちろん必要ですが、子どもがのびのびと遊べる環境がもっと日本中に整備されてほしいものですね。

村上:ただ、公園や施設を国が作るにはどうしても時間がかかってしまうのも事実です。それなら場ができるのをただ待つのではなく、私たち民間企業だからこそできる方法にチャレンジしていきたい。
こう考え、ボーネルンドでは自治体や企業、子育て支援の施設や多方面の団体と協力しながら、日本各地にあそび場をつくっています。パートナーと一緒だと、私たち1社では成しえないスケールのことができますし、実現のスピードも加速します。あらゆる手段を探りながら、子どもたちが安心安全にあそぶことができ、コミュニティともなり得る環境を日本中に増やしていきたいと考えています。

——ボーネルンドさんだけであそび場をつくるのではなく、パートナーである仲間と一緒にあそび場づくりを進め、世の中にあそびを届けていくということですね。仲間が増えるほど、あそび場を社会インフラにするためのビジョンに近づいていくということだと思うのですが、こうした協業はどのくらい前からはじまっているのでしょうか。

村上:20年ほど前からです。きっかけは北九州市の事業で、駅前ビルのワンフロア、約2000坪の大きなスペースをプロデュースする機会を得ました。協議を重ねて「子どもから大人まであらゆる年齢の人々が楽しめる、こころと体と頭すべてを使う屋内公園」のコンセプトが決定。そうしてできあがったのが「あそびのせかい」という室内あそび場です。大型トランポリンや砂場、ままごと遊び、創造遊びなど、あそびの内容ごとに10以上のゾーンを設置し、“あそびのプロ”であるプレイリーダーも常駐する施設で、2002年のオープン当時は世界最大級の室内あそび場となりました。

2002年11月にオープンした北九州市の「あそびのせかい」
予想をはるかに上回る36万人の親子が訪れ、会期を3ヶ月から1年8か月に延長するほどの大成功に

実は、この「あそびのせかい」がボーネルンドが手掛けている室内あそび場「キドキド」の前身。そして2004年にキドキドをスタートさせたところ、キドキドを見学くださった方から、自分たちが運営する施設にこのあそび場のノウハウがほしいというお話を複数いただきました。あそび場をひとつつくると、また違うエリアの方が知ってくださる。足を運んでくださる。あそび場づくりを通じて、ボーネルンドに共感くださる方を増やし、自治体、企業、各種団体の方々と関係を築くことができると身をもって感じたきっかけでした。

——ボーネルンドさんには「あそびを通して子どもの健やかな成長に貢献する」というパーパスが根付いています。でもパーパスは社員が内に秘めているだけでは意味がなく、それを具現・体現するアクションが伴って初めて意味を成すもの。ただ自分たちだけで起こせるコトは限られてくるので、このパーパスに共感してもらえる仲間づくりが重要になります。
そのためには「価値観やビジョンの共有」が大きなポイントだと思うのですが、協業するパートナーは、近しい価値観を持った方が声を掛けてくださっているのでしょうか。それとも紆余曲折ありながら、価値観をすりあわせていく形なのでしょうか?

村上:前者が近いです。「あそび場をつくる」という目的はもちろん、「あそびを通して子どもの健やかな成長に貢献する」という当社の理念・思想・ポリシーまで一致する方と一緒に取り組んでいる形です。
私たちがやっていることに心底共感してくださる“仲間”って、ものすごく多いというわけではありません。実際問題、実現にはハードルが高いことも多いですし、「こんなに効率悪いことできない」と思われてしまうこともたくさんある。深いところで考え方が一致していないと、一緒にゴールに到達するのは難しいと思います。

——パートナーシップにもふたつのレイヤーがあると思うんです。ひとつは支持や賛同で、「あなたたちの活動を応援しますよ」というもの。そして、もうひとつがまさにボーネルンドさんが長年にわたって取り組んでいる協業。後者の場合「ボーネルンドと一緒にこの地にあそび場をつくる」というエネルギーのいる話なので、志が一致していなければ走り切れないですよね。

村上:本当にそうですね。ボーネルンドではありがたいことに、多くの民間企業や団体の皆さんと一緒に協業させていただいています。たとえば最近では、株式会社ファイターズ スポーツ&エンターテイメントやボートレースとのパートナーシップ締結を発表しました。いずれも地域コミュニティの活性化に向けた取り組みで、あそびの領域ならボーネルンド、と思っていただいてご一緒するに至っています。
実現に向けての課題は、私たちが想像する以上にたくさんあると思うんです。それでも多くの皆様が協業したいとお声掛けくださって、あそび場を広げる取り組みを継続できているのは、パートナーの皆さんそれぞれに社会的な使命感があってのこと。私たちに共感や信頼を寄せてくださっているだけではなく、パートナー自身の信念や志があってこそだと思います。

——ところで先ほど、既存施設を見学された自治体の方から相談を受ける形で新たなパートナーシップが生まれる様子を紹介していただきましたが、仲間づくりのために先行事例以外で、他に重要な要素はありますか?

村上:生活者としての当社との思い出や記憶からお声掛けいただくことが多いということ。たとえば、以前ボーネルンドの店舗に通っていたり、お子さんやお孫さんと一緒に私たちのあそび道具を手に取っていたり、キドキドとの接点を思い出したりと、私たちボーネルンドが積み重ねてきた40年間のどこかをきっかけに、担当の方が自らお声掛けくださることがよくあるんです。
いまご紹介したのは一例ですが、色々なパートナーと各地であそび場をつくる中で、強い想いを持つ方に出会い、その志に触れるたびに、企業のビジョンと同じように、関係者個人の想いが組織を動かす大きな力になると感じています。

——パートナーの中にたったひとりでも熱量がある方や、思想レベルで志に共鳴する方がいることで、取り組みはさらに加速していきますよね。
仲間づくりには、企業同士の利害でつながる以上に、個人対個人の「関係づくり」が重要と私たちも考えています。強い想いを持っている方に寄り添い、その熱を絶やさないようにするために、ボーネルンドさんが「関係づくり」において意識されているポイントをお伺いしたいです。

村上:弊社の営業担当のあるメンバーは、「商談では“ボーネルンドの商品”を売るのではなく、“ボーネルンドの考え方”を知ってもらう。まずはわかってもらうことが入口」と言っています。同じようにボーネルンドショップでは、インストラクターがお客様と対話をし、その場でお子様が商品を試し、納得してからご購入いただく、というやり方をしています。
目の前にいる一人ひとりに理解してもらえるように、ボーネルンドの考え方を伝える。個人対個人で関係を積み重ねていく。これがとても大切だとどの社員もわかっているから、どんな接点でも地道なコミュニケーションを続けられているのだと思います。
パートナーとの協業となると、多くの人が携わっていただくものになりますが、コミュニケーションの方針は変わりません。関わってくださる一人ひとりにボーネルンドの思想をお伝えすること、そして相手のご要望をおうかがいして丁寧にお応えすることでこそ、仲間を増やすことができますし、これを続けることでパートナーの皆さんとの長期的かつ良好な関係構築につなげることができていると考えています。

——社会課題を解決しようと思ったときに1社だけでできることって実は多くないし、同じ志を持つ企業や団体と関係を構築しながら、一緒に新しい仕組みをつくっていくほうがいい。私たち自身、こう考える機会が増え、企画を考える際は「仲間づくりをしませんか」とクライアントに提案することを意識していますが、仲間づくりの本質は、ただ大勢に訴えかけるのではなく、一人ひとりに伝えるためのコミュニケーションなんだとつくづく思います。
仲間を増やしていく過程からお話を聞いて強く思ったのは、熱量を持った協力者を増やすためには、「個人対個人のコミュニケーション」が欠かせないということ。たとえ多くの人を巻き込む「あそび場づくり」という大きな挑戦であっても、取り組みを前に進めるのは、一人ひとりとの関係づくりなんだと実感します。今回は“あそび”という領域でつながっているボーネルンドさんとパートナーさんとのお話をお聞きしましたが、この視点はどんな仲間づくりでも変わりませんし、私たち自身、仲間づくりを考える上で生かしていきたいと思いました。

村上:そう言っていただけると何よりです。
最後に「長期的」な仲間づくりという視点から、ご紹介したいのが岡山県瀬戸内市との協働です。2020年の8月に「瀬戸内市こどもひろばパートナー協定」を締結し、地域の子どもたちが外遊びを楽しむためのあそび場の整備や人材育成などについて、市と協力して取り組んでいます。2年目に入り、これからの活動についてさらに加速させるべく、いまちょうど相談を重ねているところです。市内のお父さんやお母さんだけでなく、子どもたちの視点を生かしながら、子どもたちが安全で楽しく遊べる環境づくりを進めていきたいと考えています。

外遊びを楽しむきっかけづくりに移動あそび場「プレーカー」を導入

——冒頭で村上さんがおっしゃった、あそび場が“社会インフラ”となるためのさらなる取り組みとなりそうですね。
あそび場が“社会インフラ化”するということは、“あそびが止まらない環境”が整備されるということなんじゃないか。前編・後編とお話をお伺いする中でこんなことを考えました。志の近いパートナーと一緒にあそび場づくりを継続してつくっていくことで、これまで以上に“あそび場のインフラ化”を進めることができると思いましたし、お話を聞いてとてもワクワクします。

村上:あそび場が“社会インフラ”としてこれまで以上に認められるようになったら、どんな子どもに対してもあそびを止めずに届けることができますし、子どもを取り巻く大人たちも集まってきて、地域の活性化にもつながります。これからも日本各地のあそび場をつくるだけではなく、継続して発展させていくことで、あそび場を社会インフラ化する活動をさらに広げていきたいですね。

——村上さん、貴重なお話をありがとうございました。私たちプラップジャパンもパートナーの1社として、あそび場を社会のインフラにするために、世の中に共感してもらうための策をこれからも考え、伴走させていただきたいと背すじがのびる想いです。
子どもの成長にはなくてはならない「あそび」。いつの時代も子どもたちの日常に寄り添う存在であることを社員皆さんが心から理解しているからこそ、どんなときも世の中の子どもたちに届ける活動ができているのだとボーネルンドさんのお話から改めて感じました。
そしてたくさん仲間づくりのはじめの1歩は、一人ひとりとの関係づくり。村上さんのお言葉の随所から、PR(Public Relations)の本質である関係性づくりのヒントをいただき、これからのOPEN NOTEで発信していきたいことを考えるきっかけをいただく対話にもなったと振り返っています。

これからも「PRAP OPEN NOTE」では、様々な立場や考えかたの皆さんとひとつずつ対話を重ねていきます。2022年も、ぜひご覧いただけると嬉しいです。


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