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オルチャタの本場バレンシアでVampire Weekendの「Horchata」を聴きながらオルチャタ飲んでみた

つい先月の4月5日、2019年の「Father of the Bride」以来5年ぶりとなる5枚目ニューアルバム「Only God Was Above Us」をリリースしたばかりのVampire Weekend

おっ!
今日はニューアルバム聴いたよ!って話?!

…と思いきや、

ニューどころかオールドにさかのぼって、オールドもいいところのオールド。

2010年にリリースされた2ndアルバム「Contra」の話、いっきまーす。
(どーもすみません💦)

「Contra」アルバムジャケット

さらにさかのぼること2008年、彼らのデビューアルバム「Vampire Weekend」で、そのとんでもないポップっぷりに完璧にハートを撃ち抜かれた私は、2年後の2010年、当然の如く「Contra」にも貪りつき、再びハートをズッキューンされます。

私の人生はその後スペインに場が移るわけですが、バレンシアに来て度肝を抜かれました。

それは、バレンシアはパエリアだけでなく、Horchata(オルチャタ)の原料となるChufa(チュファ)の名産地で、Horchataめちゃんこ飲んでたから。
(Chufaは、日本ではタイガーナッツの名で知られています。)

「Contra」でVampire Weekendがオルチャタ飲んでる曲あるじゃん!!!と。

でも、それと同時に私の中でとある疑問も浮かんじゃったんだなー、これが。

というわけで今回は、バレンシアの名物オルチャタを紹介しつつ、Vampire Weekendの2ndアルバム「Contra」に収録されている「Horchata」について語ります!
バレンシアについても紹介しますので、今回は私が運営するROCK! ROCK! I LOVE ROCK!マガジンスペインの日常から ¡Hola!マガジン同時投稿回にします。


Vampire Weekend「Contra」収録曲「Horchata」

「Horchata」は、アルバムのトップバッターとして1曲目に収録されています。
頭にHがつきますが、オルチャタ(もしくはオルチャータ)と読みます。

ご存じない方のために、まずは聴いていただきましょうかね。
こんなに超かわいいメロディの曲なんですよ♪

歌詞を見てみましょ。
歌い出しはこんな感じです。

In December, drinking horchata
12月にオルチャタを飲んでいる
I'd look psychotic in a balaclava
balaclava(目だし帽)被ってるとイカれて見える
Winter's cold is too much to handle
でも冬の寒さが尋常じゃなくて手に負えない
Pincher crabs that pinch at your sandals
キミのサンダルをつまむカニ

In December, drinking horchataと、歌い出し第一声から早速オルチャタ飲んでるー!

「December」や、「Winter's cold is too much to handle」と歌っていることから、頭の中には寒い寒い冬の12月に(きっと温かい)オルチャタを飲んでいる情景が広がります。
(Pincher crabsのくだりは、詩的すぎて私には手に負えないので、ここでは華麗にスルーします笑。)

Vampire Weekendはニューヨーク出身のインディーポップ・ロックバンドです。
ニューヨークの冬は、さぞかし寒かろう。うんうん。

当時スペインへ渡る前の、日本でこの曲を聴いていた頃、あぁきっとアメリカでは、ホットチョコレートやココアみたいな、体があったまる飲み物で「オルチャタ」っていうのがあるんだな~と想像していました。

もちろんこの時点で私が想像するオルチャタは、ホットな飲み物。
そしてなんとなく甘いんじゃないかと。

「Horchata」と書いてHを発音せずに「オルチャタ」と歌っていることから、後に「Horchata」がスペイン語だと知ります。
(挨拶の「¡Hola!(オラ!)」のように、スペイン語ではHがつく言葉はHは発音せず、次に続く母音を直接発音するのが一般的です。)

アメリカの真下(地図上で)には、メキシコなどスペイン語圏の中南米諸国がありますから、この時点では、オルチャタはきっとメキシコか、その他の中南米からアメリカに持ち込まれたホットドリンクなんだろうというところまでを想像していました。

それがスペインに来てビックリですよ!
だって、スペインにもオルチャタがあって、でもそれは冷たい飲み物だったんだから!

Vampire Weekendから教わった(そして勝手に想像していた)オルチャタのイメージがどんどん壊れていきました。

バレンシアの夏の名物ドリンク:オルチャタ

太陽とお友達の街、バレンシア。

5月も半ばを過ぎ、バレンシアは早くも初夏…、下手すりゃ夏?の様相を呈してまいりました。

日焼け止め必須!

日も長くなってきて、ほぼ毎日お天気が良いので、人々はカフェへバルへと足を運びます。

バレンシアに夏が来ると、人々が好んで注文するのが、そう、オルチャタです。
スペイン語ではHorchata。バレンシア語ではOrxataと表記します。

バレンシアのオルチャタ

気になるお味は?

オルチャタの味は、豆乳やアーモンドミルクなどの植物性のミルク、あの辺の味をイメージしてもらうといいかも。

豆乳が苦手な人は共感してもらえるかもしれない、オルチャタにも独特の青臭さがあります。
そして、一般の市販されているオルチャタや一般的な飲食店で出されるオルチャタは、尋常じゃないほどクソ甘い

私は豆乳やアーモンドミルクはイケる口なんですが、オルチャタだけはこの青臭さと激甘が苦手で、今までにも数えるほどしか試したことがありません。

でも、バレンシアでは老若男女、ほぼみんなオルチャタが好きなんですよね~。
小さい子供ですらゴクゴク飲んでます。

飲食店では写真のように少しシャーベット状か、もしくはキンキンに冷えたオルチャタが提供されます。
そのほかにも、オルチャタのアイスクリームなんてのもあります。

それから、バレンシアのオルチャタはFartón(ファルトン)と呼ばれる、棒状の甘いデニッシュをセットでいただくのが一般的。

オルチャタとファルトン

ファルトンの上にはアイシングや粉糖がかけられていて、私にとってはこれまた激甘(笑)。
ファルトンはオルチャタに浸して食べるのが、ツウな食べ方です。

なんでも浸して食べる。それがスペイン笑。

スペインではカフェ(本来はカフェテリアと言います)やバルの他に、オルチャタを専門とするカフェHorchatería(オルチャテリア)もあるほど!

オルチャタはスペインの人々にとっても愛されている(何度も言うけど夏の!)飲み物なんです。

オルチャタの原料

スペインのオルチャタの原料は、Chufa(チュファ)
日本ではタイガーナッツという名で、たぶんオシャレ自然食品のお店辺りで手に入れることができるのではないでしょうか。
Chufaは、ショクヨウガヤツリ(キハマスゲ)という植物の塊茎を乾燥させたものです。

Chufa。またの名をタイガーナッツ。

バレンシアでは昔からChufaの栽培が盛んで、市内から北西に位置するエリアAlboraya(アルボラヤ)は、スペインのChufaの発祥の地なんて言われています。

バレンシア市内からアルボラヤの街中に続く幹線道路には「Avenida de la Horchata」(アベニダ・デ・ラ・オルチャタ:オルチャタ通り)という名前が付いているほどで、アルボラヤ町内のこの通り沿いには、いくつもの老舗のHorchatería(オルチャテリア)があります。
そして、このアルボラヤを中心にバレンシアで作られているChufaは、Chufa de Valenciaという名でブランド化されています。

Chufa de Valencia

スペインのオルチャタの作り方

オルチャタの作り方をサクッとご紹介します。

Chufaを24~48時間ほど水に付け置きしてふやかし、その後水と砂糖、風味付けと青臭さを抑えるためにシナモンやレモンの皮を加えて、ブレンダーやミキサーでよく混ぜます。

出来上がった液体を目の細かい濾し器で濾し、その後冷蔵庫でさらに冷やして出来上がりです。

オルチャタの原料はChufaだけじゃない?

冒頭から「スペインのオルチャタの原料は」と敢えてメンションしています。

というのも、実はHorchataという言葉の由来は、「大麦」を意味するラテン語「hordeata」で、そもそもは大麦を原料とした飲み物がオルチャタのようです。

その後、地中海沿いのそれぞれの国や地域ではその土地でよく栽培される植物でも似たような飲み物が作られるようになりました。

スペインのオルチャタと言えば原料はChufaですが、例えばイタリア・マルタ島ではアーモンドやヘーゼルナッツとバニラエッセンスで作られたOrzata(オルヅァータ:オルジェーシロップ)がありますし、フランスやイギリスでもアーモンドとオレンジの花びらで作られたOrgeat(オルジェット、オルジェー:オルジェーシロップ)がそれです。

中南米ではお米やメロンの種(!)ゴマなどに様々なスパイスを混ぜてオルチャタが作られています。
また、メキシコではホットオルチャタなるものもあるようです。

Vampire Weekendの「Horchata」でずっと疑問に思っていたこと

バレンシアでは夏に飲むオルチャタを、Vampire Weekendは12月の極寒な冬に飲んでいる…。

そして、オルチャタの原料はChufaだけじゃないことがわかった今…

え!?待って!

ということは、Vampire Weekendが「Horchata」で飲んでいるオルチャタは、バレンシアのChufa原料のオルチャタではない可能性が高いってこと??

お米とかメロンの種(!メロンの種は想定外。毎回驚くw)、もしくはオルジェーシロップで作ったホットなやつを飲んでる説、濃厚になってきました…。

Chufa de Valencia呼称認証評議会、Vampire Weekendにバレンシアのオルチャタを送る

Vampire Weekendが飲んでいるオルチャタは、スペインのオルチャタ、私が知っているオルチャタじゃないかもしれない…。

ガクブルで調べていくうちに、さらに驚きのニュース記事と、当時の報道をYoutubeで見つけてしまいました。

記事はこちら。

スぺ語だらけでなんのこっちゃいなので、要約しますね。

2010年、バレンシアのConsejo Regulador de la Denominación de Origen Chufa de Valencia(Chufa de Valencia呼称認証評議会)は、リリースされたばかりのVampire Weekendの2ndアルバム「Contra」に「Horchata」という曲があることを発見!

バレンシア産のChufaブランド「Chufa de Valencia」を宣伝するために、なんとVampire Weekendに「スペイン・バレンシアのオルチャタも美味しいから飲んでみて!」と申し出ました。

するとVampire Weekendから「喜んでー!」とどっかの居酒屋みたいな快諾のお返事があり、その後彼らはロサンゼルスでバレンシアからのオルチャタを受け取ったとのこと。

やるじゃん!バレンシア!
当時若者の間で大注目されていたとはいえ、異国のインディーズバンドの曲を目ざとく見つけて連絡取ってみるなんて、目の付け所あるじゃん!!

ちなみに別のネット記事には、「この曲のオルチャタは、メキシコの同名の飲み物と関係があるようだが…」と書かれていたので、あぁ…、やっぱりVampire Weekendの「Horchata」は、バレンシアのオルチャタじゃないのね…。

「Horchata」を聴きながらオルチャタを飲んでみた

Vampire Weekendの「Horchata」が(たぶん、きっと間違いなく)バレンシアのオルチャタではなかったことに一抹のガッカリを抱きつつ、夜19:30、私は頭にBOSEのヘッドホンを装着し、ふらりと外へ出ました。
(こう見えてわたくし、ROCK聴くならBOSEでしょ!派です。)

オルチャタ、全然好きじゃないけど、こうなったら「Horchata」聴きながら飲んでやる!

やけ酒ならぬ、やけオルチャタしてやる!

この日のために「The best horchaterias in Valencia」(バレンシアのベストHorchatería)で市内で美味しい(そして比較的私も飲めそうな)Horchateríaを探しました!

夜20時前のバレンシア。まだめちゃんこ明るいです。

着きました!
本日のお店は、Horchatería Subies

本店は、アルボラヤのさらに北東、Almàssera(アルマセラ)という町で1959年から創業しています。

本店まではさすがにちょっと遠いので、今回は3号店となるバレンシア店に行ってきました。

Horchatería Subies バレンシア店(Plaza San lorenzo, 2)

オルチャタのサイズは3種類あり、私はいちばん小さいサイズpequeñaをオーダー。

そうそう。
バレンシアっ子は忘れちゃいけない、Fartón(ファルトン)も2本!

ファルトンは1本からオーダー可能。

この日は昼食をとるのが遅く、実はこの時全然お腹空いてなかったんですけど、映えのために最低でも2本やろ!と2本注文しました。

映え、重視です。

そして…
いくら極小サイズのオルチャタとはいえ、きっとこれだけだと途中でギブする可能性が十分考えられたため、Café con leche(カフェオレ)もオーダー。
カフェオレは、はい、いわゆるチェイサーです。

オルチャタとチェイサーのカフェオレ。

この記事を書こうと思いついてから連日鬼リピの「Contra」を、1曲目「Horchata」にセットし直し、準備完了です!

いざ!実・食!
あ、あとミュージックもON!

あっちはIn Decemberだけど、こっちはIn Mayだよ…とか考えつつ、

あっちは冬の寒さ尋常じゃないって嘆いてるけど、こっちはまだ5月だってのに汗ばむ陽気で萎えちゃうよ…とか考えつつ、

オルチャタをゴクリ。

やっぱりクソ甘えぇぇぇぇーーー!!!
(私にはね。私には。)

この小っちゃいグラスが大ジョッキに見えるほど、飲んでも飲んでも減りません。
だんだん気が遠くなっていきます。

そうだ!ファルトンいってみよう!

パクリ。

こっちもクソ甘えぇぇぇぇーーー!!!
(私にはね。私には。)

もはやVampire Weekendそっちのけで、激甘なオルチャタとファルトンとの闘いになってまいりました。

あ!チェイサー(カフェオレ)があった!

ゴクリ。

しまったーーー!!!こっちも甘えぇぇぇぇーーー!!!

いつもの習慣で、無意識に砂糖を全部入れていました…_| ̄|〇

でもカフェオレはまだ苦味があるから、口直しするにはまだマシかも。

ファルトンをオルチャタに浸して食べる
     ↓
オルチャタ飲んでファルトンを(無理やり)流し込む
     ↓
カフェオレでお口直しする

これを繰り返すこと数回。

口の中には次から次へと激甘たちが流し込まれていきます。

もう鼻血出そうです。

何やってんだ私は。

Vampire Weekendよ、どこいった。

やけオルチャタしたかったのに、ただただ激甘と激闘を繰り広げ、気分は惨敗でHorchateríaを後にしました。

腹いっぱいでトボトボと家路につく21時前の夕暮れ。

最後に

長年抱いていた、Vampire Weekendの「Horchata」の謎を解き、彼らが飲んでいたものとはちょっと違うけど、「Horchata」を聴きながらオルチャタを飲むという、長年の夢も実現することができました。

今、ちょっと達成感みたいなものを感じています。

でも、やっぱりオルチャタは克服できませんでした。
やっぱり苦手だー!

Vampire Weekendのメンバーは、コロンビア大学在学中に知り合い、バンドを結成しました。
そのため、デビュー当時は「高学歴のポップロックバンド」などと言われていました。

メロディ重視でいくと、たしかにキラキラポップでかわいい曲ばかりです。
しかし、実は緻密に組み立てられたこだわりの演奏だったりします。

また、歌詞は読み解けば読み解くほど、時事的なことや歴史、文学、宗教、カルチャーなどに精通していて、でもその思いをエモーショナルに直接ぶつけるというよりは、詩的に抒情的に、決して押しつけたりせずふんわり表現しているので、わかる人にはわかる…というような、奥深さがあります。

もう1つテクニックの面から言うと、例えば本作「Horchata」では、

In December, drinking horchata
Look down your glasses at that Aranciata
With lips and teeth to ask how my day went
Boots and fists to pound on the pavement

というように、Vampire Weekendの曲にはライムが巧みに盛り込まれているのも大きな特徴です。

これらの作詞を手がけるリード・ボーカルEzra Koenigは、日本のアニメも大好きで、ママレード・ボーイやらんま1/2なんかが好きなんだそう。

2017年に彼がNetflixで制作したアニメ(カトゥーンと言った方がいいのか)「Neo Yokio」は、ママレード・ボーイがルーツになっています。

最初のアルバム3作は、イギリスの小説「ブライヅヘッドふたたび」(イーヴリン・ウォー著)がモチーフになっているそうで、今回紹介した2ndアルバム「Contra」というアルバム名は、この小説の中に登場するセリフが由来になっています。

そのほかにも3アルバムの随所にこの小説のエッセンスが隠されているので、小説を読みながらVampire Weekendを聴くっていうのも、なかなかオツかもしれませんね。

本当に頭がいいバンドなんですよ。
(私の語彙のなさときたら…w)

新作アルバムが出ると、前作とはガラリと雰囲気が変わっちゃってて驚くこともよくありますが、Vampire Weekendのアルバムは、トーンはずっと変わっていないのが好きです。

でもそうかと言って、「またこんな感じ?」とウンザリするほど同じってわけでもない。

これもたまらなく良いのです。

今月30日(来週!)、Vampire Weekendはバルセロナでおこなわれるフェス「Primavera Sound」に来ます。

ヤバい!!
行きたい!!!
そしてまたオルチャタを飲もうか、はたまた小説でも読もうか…。
ウソです笑。


《今回取り上げた場所》
🗺️Valencia(バレンシア市)

🗺️Alboraya(アルボラヤ)

🥛Horchatería Subiesバレンシア店


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