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TEMU、EUのDSA法違反で消費者擁護団体BEUCからイエローカード?!

また1つ、中国発オンラインマーケットプレイスがEUの厳しい法の網にすくわれそうになっています。

今回照準を当てられたのはTEMU

TEMUは、中国の企業PDDホールディングスが運営するオンラインマーケットプレイスで、現在PDDホールディングスはアイルランドに拠点を置いています。
現在、同社はアイルランドで7位の売り上げを誇る大企業です。

今年1月に南アフリカで正式にローンチされ、現在49か国でサービスを展開しているTEMUは、直近の2024年3月時点で世界の月間サイト訪問数がなんと4億7,900万件!(ECDB調べ)

TEMUは2023年9月からヨーロッパのいくつかの国で順次サービスを開始したわけですが、報道によれば現在EU内では月間7,500万人以上のユーザーを抱えていると言われています。

そして、何かにつけてライバルECのSHEINと比較されるTEMU。
TEMUもまた、商品の安さが最大の売りで、TikTokやYoutubeなどのマイクロインフルエンサーを多用して宣伝するなど、SHEINと似たマーケティング手法で若者を中心に人気を集めています。

2023年Temu利用者の年齢分布(ECDB)

ただ、SHEINや他のオンラインマーケットプレイスと一線を画すとすれば、PDDホールディングスの広範なサプライヤーや配送パートナー ネットワークによって実現される、顧客への送料無料と返品無料サービスが挙げられます。

また、SHEINよりもさらに多くの割引と低価格を提供しており、わずか1セントで販売されるアイテムなどの特別オファーもあります。

それから、ショッピングプロセスにゲームを導入しているゲーミフィケーション手法もTEMUの大きな特徴です。
サイト訪問者は運試しのちょっとしたゲームをしながらショッピングを楽しむことができるため、これによりTEMUユーザーは1日あたりAmazon(11分)やSHEIN(12分)の約2倍の時間をTemu(22分)に費やしています。

2023年米国の消費者がショッピングアプリを1日に使用する平均時間(ECDB)

さて、そんなTEMU。
いよいよEUの厳しい目に止まってしまいました…。

先週、欧州の消費者擁護団体(BEUC)(The European Consumer Organisation)は、TEMUについてEU、欧州連合に苦情を申し立てました。

(ちなみにBEUCとは、仏語のBureau Européen des Unions de Consommateursから略されています。)


※記事引用部分はTemuと表記しています。


急成長中のオンラインマーケットプレイスTemu、消費者の安全を守るEUの新法に背く

BEUCネットワーク(*1)の消費者団体は本日、急成長を遂げている中国のオンラインマーケットプレイス「Temu」が消費者保護を怠り、最近のEU法で違法とされている操作的な慣行を行っているとして、当局に苦情を申し立てた。

EU(*2)で月間7,500万人以上のユーザーを持つTemuは、商品の販売元に関する重要な情報を消費者に提供しないことが多く、そのため商品がEUの製品安全要件に適合しているかどうかを共有することができない。また、このオンライン・ショッピング・プラットフォームは、レコメンダー・システムや、どのような基準で特定の商品が提案されるのかについての情報提供も不十分である。

さらに、このオンラインマーケットでは、消費者が本来望んでいる以上の金額を使わせたり、アカウントを閉鎖するプロセスを複雑にするといった操作的な手法(ダークパターン)が横行している。

Temuは、上記のすべての点で、EUの新しいオンラインコンテンツ法であるデジタルサービス法に違反しており、今後当局による調査が必要である。

欧州消費者団体(BEUC)のMonique Goyens事務局長は、次のように述べる:

Temuはヨーロッパを席巻しているかもしれないが、今日我々は、消費者の利益を無視し、当局が抑制しなければならない多くの違法行為に光を当てたい。このオンライン・マーケットプレイスには、消費者がこのプラットフォームでより多くの買い物をするように仕向ける操作的な手法が横行している。例えば、消費者が特定の商品をクリックすると、より高額な様々なバージョンが提示されたり、アカウントを閉鎖するために障害物コースを通過しなければならなかったりする。Temuはまた、消費者が誰から商品を購入しているのかが分からないまま放置されることも多い。このようなトレーサビリティの欠如は、消費者が十分な情報を得た上で決断することや、製品がEUの安全規則に適合しているかどうかを知ることを妨げている。

Temuはここで甘んじている。 なぜなら、消費者のオンライン上の安全を守るために作られた新しい法律であるEUのデジタルサービス法に違反しているからだ。マーケットプレイスで販売される商品は、オンライン、オフラインを問わず、またヨーロッパ、アメリカ、中国を問わず、ヨーロッパの消費者に販売するのであれば、安全でなければならず、ヨーロッパの法律を遵守しなければならない。

製品の安全性と消費者法をめぐる既存の問題

これまで様々な団体が、Temuで販売されている製品の合法性と安全性に疑問を呈してきた。例えば、イタリアの消費者団体でBEUCのメンバーでもあるAltroconsumoは、2023年10月、同プラットフォームで購入された化粧品をテストしたところ、13品目のうち9品目に成分表が含まれていなかったか、一部しか含まれていなかったことを明らかにした。(*3)

今年初め、ドイツの消費者団体でBEUCのメンバーでもあるvzbvは、Temuが誤解を招くような商品レビューを表示したり、価格割引の表示方法で消費者を惑わせたりすることで、消費者法に違反しているのではないかと疑っている。(*4)

*1:BEUCは欧州委員会に苦情を申し立てたが、BEUCの加盟団体のうち17団体が各国の管轄当局に同じ苦情を申し立てた。これらの団体は、Arbeiterkammer(オーストリア)、Testachats / Testaankoop(ベルギー)、BNAAC(ブルガリア)、dTest(チェコ共和国)、Forbrugerrådet Tænk(デンマーク)、Kuluttajaliitto ry(フィンランド)、UFC-Que Choisir(フランス)、EKPIZO and KEPKA(ギリシャ)、Altroconsumo(イタリア)、Consumentenbond(オランダ)、Federacja Konsumentow(ポーランド)、DECO(ポルトガル)、Spoločnosť ochrany spotrebiteľov(S.O.S.)Poprad(スロバキア)、CECUおよびOCU(スペイン)、Sveriges Konsumenter(スウェーデン)。
また、ULC(ルクセンブルク)、BEUCの英国メンバーであるWhich?、ノルウェーのメンバーであるForbrukerrådet、スペインのメンバーであるASUFINがメディア活動でこの行動を支援している。

*2:Agence France Presse, ‘EU toughens safety rules for online retailer Shein’ (26 April 2024).

*3:Altroconsumo, ‘Temu: qualità scarsa e sicurezza a rischio. L'analisi di 28 prodotti acquistati sull'ecommerce del momento’ (2 October 2023, accessed on 29 April 2024).

*4:Vzbv, ‘vzbv mahnt Online-Marktplatz Temu ab’ (26 March 2024, accessed 29 April 2024).

Source:Surging online marketplace Temu flouting new EU law meant to keep consumers safe(BEUC/ Press releases)


私見

以前紹介した、SHEINがEUのDSA法に基づくVLOPに指名された話では、月間アクティブユーザー数が4,500万人以上に達するオンラインプラットフォームはVLOPに指名されると話しました。
DSA法についても紹介していますので、ぜひご覧ください。

今回のBEUCの調査によれば、TEMUではEU内で月間7,500万人のユーザーがショッピングを楽しんでいるとのことですので、これはもう、近々VLOP入りするのではないでしょうか。

TEMU、批判に応えるも…「不十分な対応」?

BEUCはこのプレスリリースの他に、同日(5月16日)欧州委員会Directorate-General for Justice and Consumers(司法・消費者総局)のAna Gallego Torres氏と、欧州委員会Directorate-General for Communications Networks, Content and Technology(通信ネットワーク・コンテンツ・技術総局)のRoberto Viola氏両名に宛てたe-mailの本文を公開しています。

■The Consumer Voice in Europe(欧州における消費者の声)
Subject: Coordinated complaints against TEMU by BEUC members for multiple DSA infringements(複数のDSA違反に対するBEUC会員によるTEMUに対する協調的苦情について)
https://www.beuc.eu/sites/default/files/publications/BEUC-X-2024-048_Coordinated_complaints_against_TEMU_for_multiple_DSA_infringements.pdf

昨年EU市場に参入したばかりのTEMUは、「現地の慣行や嗜好に沿うよう積極的にサービスを調整しており、事業を展開する市場の法律や規制を完全に遵守することを約束する」と述べました。

TEMUは今回の申し立てを受け、「BEUCの申し立てを真摯に受け止め、深く検討する。消費者に対するTEMUのサービスを改善するため、関係者との対話を続けたい」と声明で述べています。

これに対し、EU主要国の各メディアの反応は、やや冷ややかな印象を受けます。

国単位で次々と大きな影響を与えていくTEMU

TEMUの爆速的な急成長に戸惑っているのは、EUだけではないようです。

スペインのご近所国モロッコでも、今週はじめ、TEMUに関する懸念が報道されています。

Too Good to Be True? Chinese App Temu Sparks Fierce Debate in Morocco(真実にしては出来すぎ?中国アプリTemuがモロッコで激しい議論を巻き起こす)(MOROCCO WORLD NEWS)
https://www.moroccoworldnews.com/2024/05/362780/too-good-to-be-true-chinese-app-temu-sparks-fierce-debate-in-morocco

さらにロイターによれば、ドイツは、EU非加盟国からの安価な小包に対する免税措置を廃止する可能性のある、EUの輸入税の全面見直しを支持していると報じました。

Germany backs ending EU tax break that helps Shein and Temu keep prices low(ドイツ、SHEINとTEMUが価格を低く抑えることに役立っているEU減税の廃止を支持)(Reuters)
https://www.reuters.com/markets/europe/germany-backs-ending-eu-tax-break-that-helps-shein-temu-keep-prices-low-2024-05-23/

現在のEUの規制では、EU非加盟国からオンラインで購入した荷物の価格が150ユーロ未満の場合、関税は免除されます。
TEMUやSHEINのような低価格の商品をEUへ輸出するオンラインマーケットプレイスにとって、これは非常に魅力的であり、だからこそEUで成功し続けられる最大の要素でもあります。

しかし今後もしEUでこの免税措置が廃止されると、TEMUやSHEINだけでなく、日本からの越境EC小売業者にとっても深刻な打撃になりますね…。


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