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書き手と読み手の共鳴を生みだすための文章レッスン

今朝は小説の作業はお休みして、noteのために『ピカソとその時代』の感想文にリトライしていたのですが、ひじょうに難しく、1時間くらい書いては消してを繰り返していました。文字通りの悪戦苦闘。

前に映画批評のようなものを書いたことがありました。『エスター』という映画をたまたま観たので、あぁ感想でも書いてみようかと思って書いてみたのでした。そういえば今年の目標のひとつに、批評的なものも書けるようになりたい、というのがあったのでちょうどいいと思って。

『エスター』の批評は、2時間くらい集中してひと息で書いた、と記憶しています。その日は朝に小説の作業をし、昼に演出・演技論の作業をし、夜は自由に過ごそうと思って、PCのファイルやメモの整理をしていた。すると、

「『エスター』を観た」

という見出しの下に箇条書きで感想が2、3個書いてあって、あぁこの感想ももう少し具体的に書いておかないと、数か月後読み返したときにいったいなにが書いてあるかわからないようになってしまうだろう、と思ったんです。メモのコツは他人に書くつもりで書くこと、と知的生産をテーマにした数々の名著に書かれているけど、本当にそうだと思う。ただメモをとるだけでは意味がない。いや、意味がないなんて言い過ぎかもしれないが、やはりそういうメモは現在の役に立っても未来の役には立たない。

記録するということは過去に浸ることではない。記録は未来の方角を向くためにある。だから、5年後、10年後、そのときに思ったことや考えたこと、感情も、あるいは出来事自体も、すっかり忘れてしまった頃に読み返したとしてもやはりそのときのことをありありと思い浮かべられるような鮮明さで書く必要がある。それが、未来の方角を向いている記録、ということなんだと思うんですよね。

過去の自分が、未来の自分に対して、なにかしら、メッセージのようなものを残している。それはまるでナスカの地上絵のように「ただある」だけで、私たちには解読不可能な代物であるかもしれません。

けれど、意味なんてもともとなかったのかもしれません。書きたいから書いた。意味付けをしようとするのはいつも受信者で、発信者にできることは、受信者の意味付けを自分の意図する方向へ促すことくらいしかできない、と思うんです。僕のこのような考えかたにひじょうに大きな影響を与えたのは、ピエール・バイヤール『読んでいない本について堂々と語る方法』です。いかがわしいタイトルで誤解されがちですが、中身は立派な哲学書です。「読む」という行為の根源的な部分に迫る著作です。一読してみても決して損はないと思います。僕はある程度ここから「書く」を教わったような気がしています。

僕にとっての「良い文章」と「悪い文章」の基準とは、つまりそういうことなのだと思います。5年後、10年後に読んだときに、出来事や感情をありありと思い浮かべられるように書く、ということ。

だからといって、細かく書けば思い浮かべやすくなる、ということでもないと思います。ものを思い浮かべるという行為は、読みものと自身のうちにあるなにかを共鳴させること、なのだと思うんです。共鳴を生みだすためにはある程度の余白(あるいは余地)のようなものが必要になるでしょう。だからといって、余白ばかりではこれもまた共鳴を喚びこみません。自分なりのあんばいを見つけなくてはなりません。僕はこうやってnoteに定期的に投稿することによって、あんばいを調整しています。読み手にあわせてチューニングをすること。このチューニングさえできていれば、書き手は書きたいものを書くことができる。ある程度読み手はついてきてくださるものだ、と思うんです。

で、具体的にどうやってチューニングをするのか、ということです。それは、自分の過去の記録を定期的に読み返すことです。数年前の記録を読み返して、自分と文章がどれくらい共鳴するかを検証するのです。

ただ読み返しておくだけでも十分いい。でも余裕があれば読み返したときに想ったことを書き留めておくとさらにいい。僕の場合は、現在の自分と過去の自分を較べる、ということをだいたいしています。また同じところで躓いたり悩んだりしていないか、をチェックします。場合によっては、過去の自分はその躓きや悩みをすでに一度クリアーしている、なんてこともあります。そのときと同じ攻略法をつかえないか思案するのです。そして同じ事態を今後引き起こさないようにするにはどうしたらいいか、考えをめぐらせるのです。

と偉そうに書いているようにとられてしまうかもしれませんが、これは僕の努力義務のようなものです。ほんとどうしようもない人間だけど、どうしようもないなりに頑張るためのひとつの方法のようなものです。

記録は、かならずや応えてくれます。

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