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ロングセラー『おまえうまそうだな』の続編登場!貴重なラフも大公開! 絵本作家宮西達也さんインタビュー🦖

いよいよ今年も、残りわずかになりました。
この時期、ご家族が集まったり、久しぶりに友だちや親戚と会う…という方も多いのではないでしょうか。
身近な人との愛や絆に触れるこの時期に、ぜひ読んでいただきたい絵本があります。

それが『おまえうまそうだな』(宮西達也/作・絵)からはじまる「ティラノサウルス」シリーズ

静岡県三島市にあるTATSU’S GALLERYにて

 2003年刊行の『おまえうまそうだな』は、その後シリーズとして15タイトルの作品を刊行し、子どもから大人まで多くの読者に愛されてきました。
 第16作目となる今回の作品『おまえうまそうだな さよならウマソウ』は、20周年を記念して、1巻目とつながる物語になっています。
 作者の宮西達也さんに、シリーズにこめた想いや20周年を迎えたお気持ちを伺いました。(聞き手:児童書編集部 浪崎裕代)

宮西達也(みやにしたつや)
1956年、静岡県生まれ。日本大学芸術学部美術学科卒業。作品に『おまえうまそうだな』(けんぶち絵本の里大賞)に始まる「ティラノサウルス」シリーズ『はらぺこヘビくん』『ペンちゃんギンちゃんおおきいのをつりたいね!』『モグラのモーとグーとラーコ』(いずれもポプラ社)「おとうさんはウルトラマン」シリーズ(Gakken)、『うんこ』(けんぶち絵本の里大賞・びばからす賞)『にゃーご』『ちゅーちゅー』(けんぶち絵本の里大賞)『きょうはなんてうんがいいんだろう』(講談社出版文化賞・絵本賞/いずれもすずき出版)『ふしぎなキャンディーやさん』(日本絵本賞・読者賞/金の星社)など多数の人気作品がある。


最新刊『おまえうまそうだな さよならウマソウ』

<20周年を迎えて>

――宮西先生、20周年おめでとうございます。あっという間のようで、思いかえすとたくさんの思い出がありますね。20周年を迎えられて、今のお気持ちをおきかせください。

宮西達也先生(以下、宮西):
 
10年ひと昔というけれど、その倍。あかちゃんが生まれてから成人する以上の年月なんですよね。こんなに長く継続して描き続けているシリーズははじめてです。
 作者が描きたいと思うだけではシリーズを描き続けることができないので。僕のちからだけでは、こんなに長く続けることはできませんでした。
 読者のみなさんが読みたいと思い続けてくださったことで、16作、20周年を迎えることができたと思っています。作者のぼくはもちろんですが、いろいろな人の想いがつみかさなっての20周年なんじゃないでしょうか。支えてくださった読者のみなさんに、感謝の気持ちでいっぱいです。

<1巻目『おまえうまそうだな』制作秘話>

――さいしょに『おまえうまそうだな』を描かれたときのきっかけや、作品にこめた想いを教えてください。

宮西:
 ぼくは、絵本作家になったころ、今のようにはたくさんの方にぼくの本をほしいと思ってはもらえない時期がありました。
 それでも、絵本が描きたくて、いろいろなアルバイトをしながら絵本を描き続けてきました。そうしてだんだんとぼくの本を買ってくださる方が増えていきました。
 本が売れるようになったので、車も持てるようになり、好きなものも買えるようになりました。
 そうすると、周りからは「すごいね」「えらいひとなんだよ」と言われるようになったんです。
 ぼく自身はお金も車も持っていなかったころとなにも変わっていないのに、なぜそんな風にいわれるんだろうと考えるようになりました。 
 お金や権力を持っている人がえらいんだろうか。それよりも、優しい心や思いやりの気持ちを持っている人の方がもっとステキなんじゃないか、と考えたときに、『おまえうまそうだな』のお話のタネが生まれました。
 お金や権力の象徴になるキャラクターとして、ゾウ? ライオン? いや、もっともっと強いものがいいと考え、「そうだ。恐竜がいい。しかも、最強といわれるティラノサウルスにしよう」と決めました。
 お金と権力の象徴のティラノサウルスに、力はまったくないけれど純粋な優しい心を持つあかちゃん恐竜を出会わせたときに、ひとびとはどちらをステキだと思うだろうと考えて、『おまえうまそうだな』を描きました。


『おまえうまそうだな』表紙のラフ
ラフは必ず紙を束ねて絵本の形に近づけて作成するのが宮西先生の製作方法
シリーズ第1巻、2003年刊『おまえうまそうだな』表紙
『おまえうまそうだな』ティラノ登場シーンラフ
『おまえうまそうだな』ティラノ登場シーン
『おまえうまそうだな』ティラノサウルスとウマソウの出会いのシーンのラフ
『おまえうまそうだな』ティラノサウルスとウマソウの出会いのシーン

――ティラノサウルスに出会わせるあかちゃん恐竜(ウマソウ)をアンキロサウルスにしたのはなぜですか?

宮西:
 まずは、ティラノサウスが白亜紀後期の恐竜なので、その時期にいた恐竜を調べました。 
 イメージにぴったりな恐竜はあまりいませんでしたね。プテラノドンは飛べる特技がありますし、人気があるトリケラトプスは3本の角のイメージが強くて、攻撃的な要素が見えてしまう気がしました。
 ぼくには、アンキロサウルスがいちばんぴったりに思えたんです。

――いちど見たら忘れられないティラノサウルスや他の恐竜たちのイメージはどのように決められたのでしょうか。

宮西:
 
先ほどお話しした恐竜を主人公に決めた理由の他に、恐竜の絵本を描きたいと思った理由がもうひとつあるんです。
 恐竜は大昔、たしかに生きていたのに、今はだれにも見ることができません。化石が見つかってはいても、色や詳しい形状はわかっていません。想像力をかきたてられませんか?
 ティラノサウルスでいうと、前あしが短いこと、ツメの本数など、図鑑でわかる範囲は守りながら、自分が想像する恐竜の姿を描けると思ったんです。
 この「ティラノサウルス」シリーズだけでなく、絵本を描く時、ひとつのキャラクターを決めるまでには、20 こ、30こ、50こ……いろいろなイメージをどんどん描いていき、どれがいちばんお話に合うキャラクターになるか考えて、ひとつに決めるんです。

――キャラクターが生まれるまでに、そんなにたくさんの候補を描かれるんですね。そうして作られた1巻目が出版されたときの思い出などがありましたら教えてください。

宮西:
 あの頃は、どんどん描きたいものが浮かんで、どんどん本を描きたい、描けるぞという頃でした。
 なかでも、『おまえうまそうだな』のラフができたときには、自分でもこれはすごい本ができたなと思いました。
 恐竜の本というと、「ガオー」といって戦う暴力的なイメージが強いけれど、この絵本には優しさと思いやり、感動する要素が入っています。恐竜の強さのイメージも入れながら、笑える要素、泣ける要素まで入れることができて、自分の作品なんですけど、ラフの段階から大満足の出来でした。

――先生の絵本には「泣ける」絵本が多いのですが、そういう絵本の中にもどこかクスっと笑ってしまう場面が入っていますね。

『おまえうまそうだな』で、ティラノサウルスがウマソウを育てるシーン。強いティラノサウルスをまねしてがんばるウマソウの姿に思わず笑ってしまう

宮西:
 ぼくは、1冊の絵本でいろいろな気持ちをあじわってほしいんです。ただ泣けるとか、ただ笑えるというのだけではなくて。
 もちろんそういう絵本を描くこともありますが、とくに、せつないお話の場合は、なるべくどこかでふっと笑える場面を作りたいと思っています。

――宮西先生の絵本は、いろいろな画材が使い分けられていますが、「ティラノサウルス」シリーズでは、インクの色をそのまま使ったようなビビットな色合いを選ばれたのはなぜですか?

<独特な色づかいと印象的な星空の秘密>

宮西:
 この作品は、絵のインパクトがたいせつだと思ったんです。
 ビビットカラーが目立って、強そうな恐竜が描かれた絵本で、まさか優しさや思いやりが描かれているとはなかなか想像しないでしょう?
 表紙や中の絵をぱっと見ただけでは、恐竜が戦う暴力的な絵本なんじゃないかなと思って読んで見ると、涙が出てしまうというようなギャップがほしかったんです。
 いい意味で読者を裏切れる描き方をするには、4つのくっきりした色と、その4つの色を重ね合わせて作る色がぴったりだと思いました。
 背景の色によって気持ちを表すこともできますから。驚かせるような場面
はオレンジにしたりね。

迫力満点の体当たりのシーンの背景には鮮やかなオレンジが使われている         (『おまえうまそうだな』より)

――もうひとつ、このシリーズで印象的なのが星空です。
今回のラストシーンでもそうですが、恐竜たちが自分の気もちに向き合うとき、お互いへの気持ちを語るときなど重要なシーンに星空が使われています。宮西先生の星空の思い出や星空を背景に描く理由を教えてください。

心をうごかされるシーンには星空が描かれることが多い(『おまえうまそうだな』より)

宮西:
 
<けんぶち絵本の里大賞>という絵本の賞を受賞したときに、北海道の剣淵町で見た星空に感動したんです。
 明かりがない真っ暗なところに連れて行ってもらったら、ぼくが描くような本当に降るような満点の星空だったんです。
 今まで見えていなかっただけで、本当は空にはこんなに星があるんだって感動しました。
 星が自分を見てくれているような感じもして、それからはひとりぼっちに思えるようなときにも星は見てくれていると思うと心も強くもなる気がして……。感動する場面には、視覚的にもあの星空を見せたいと思って星空を描いています。

――当初からシリーズにしたいという思いはあったのでしょうか。

宮西:
 ありませんでした。『おまえうまそうだな』が出たときに、たくさんの方が読んでくださって、もっと読みたいという声をたくさんいただいたので、描いてみようと思って、だんだんとシリーズが増えていきました。

<シリーズ化の良いところ、難しいところ>

ティラノサウルス」シリーズ

――「ティラノサウルス」シリーズ16巻、全てのティラノサウルスが同じティラノサウルスだと思っている読者もいらっしゃるようですが、同じティラノサウルスは1巻目と今回の新刊のティラノだけなのですよね?

宮西: 
 そうなんです。1巻から15巻まではぜんぶ違うティラノサウルスです。
 1巻目の『おまえうまそうだな』と新刊の『おまえうまそうだな さよならウマソウ』のティラノサウルスとウマソウだけが初めて再登場したキャラクターです。
 でも、同じティラノサウルスだと思ってくれたのはうれしいです。それだけキャラクターの印象が深いということですから。いちど見たら、次に違う絵本で見ても同じだと思ってくれるのは、それだけおぼえていてくれたということでもありますし、うれしいです。

――その後、2巻目の「おれはティラノサウルスだ」が出版され、3巻目には「きみはほんとうにステキだね」4巻目が「あなたをずっとずっとあいしてる」と続き、3巻目以降メッセージをダイレクトにタイトルに出されるようになりましたが、どういう想いがあったのでしょうか。

宮西:
 メッセージ性を出したいと思ったのではなくて、最初にこだわっていたのは本当のことをいうと、タイトルに違う人称代名詞を使っていきたかったんです。「おまえ」「おれ」「きみ」「あなた」。
 そうして、本文からタイトルにするといい言葉を抽出してつけていたのだけれど、7巻目でとうとうその一貫性を出せなくなりました。

――一貫性というと、「ティラノサウルス」シリーズでは、どの作品の中でも赤い実が象徴的に描かれていますね。

宮西:
 はい。赤い実にはいろいろな想いをこめて描いています。
 いつか赤い実についての物語を描きたいと思っています。

――赤い実のひみつの物語、楽しみです! これまでの作品それぞれに思い出があるかと思いますが、格別な想い入れや思い出のある作品はありますか。

宮西: 
 最初に描いた『おまえうまそうだな』は、元々シリーズにするつもりがなく、この1冊だけと思って描いたのでとても思い入れがあります。
 『おまえうまそうだな』は、ぼくの作品についてあまり語らなかった父が、「達也、いい作品ができたなぁ」といってくれた作品でもあります。
 そのときは、とてもうれしかったですね。
 でも、その後にもいろいろな恐竜を描きました。物語も、父と子の愛、母と子の愛、友情などさまざまな形の愛や思いやりの心を描いてきたので、どれもたいせつな作品ばかりです。

――シリーズを続けることで悩んだこと、うれしかったことはありますか。

宮西:
 シリーズには良いところも難しいところもあります。
 初めて読む方には新鮮なことでも、ずっと読んでくださっている読者は、こういう感じと期待して読まれるじゃないですか。その期待を裏切りたくない。
 新しい本を出しても、ファンの方は、ティラノが優しい気持ちを持っているに違いないと思って読むと思うんです。その気持ちを裏切らないようにしながらも、お話の先を想像されないような新しいお話を描くのはなかなかたいへんです。

――「ティラノサウルス」シリーズに込めた想いを教えてください。

宮西: 
 このシリーズでは「自己犠牲」を描いています。
 自分を犠牲にしてまでひとのことを想う、それは本当に最高の愛なんじゃないかと思っています。
 なかなか人間そんなことはできません。ぼくもできません。
 でも、本の中でそういうことを描いて、読んでくださるかたが少しでも共感してくださったり、絵本をとおして話し合ってくださることで、自分が自分がと自己中心的に生きるのではなく、まわりの人のことを想って、優しさと思いやりを少しでも持ってくれたらうれしいなと思っています。

20周年のシリーズステートメント

<新刊『おまえうまそうだな さよならウマソウ』制作秘話>

――新刊について伺います。宮西先生は『おまえうまそうだな』を出された当初、このお話自体の続きは描けないとおっしゃっていました。今回、「続きのお話を書きたい」とおっしゃっていただいた時にとても驚き、同時にラフをいただくのが楽しみになりました。20年間の中で先生の心境にどのような変化があったのでしょうか。

宮西: 
 あのころも、描きたい思いはあったんです。
 でも、描いてはいけないんじゃないか、この後のお話は読者にゆだねたほうがいいんじゃないかと思っていました。
 でも、いつも心の中では、「あのティラノはどうしているのかな」、「ウマソウはティラノをさがしつづけているんじゃないか」と考えていました。
 ティラノサウルスはあのとき、自分からウマソウを親元に返してあげようと決心しましたが、ウマソウから見ると、お父さんとお母さんの元に帰ったとしてもティラノサウルスからは捨てられてしまったような気持ちがしたのではないかなとか。
 そう考えていたときに、20周年という年に、もういちどふたりをちゃんと会わせてあげたいなと思うようになりました。
 ぼく自身も、『おまえうまそうだな』を描いたときには<お父さん>で元気いっぱいでした。子どもたちと一緒に未来を生きていく気持ちでいました。
 『おまえうまそうだな さよならウマソウ』を描いた今はティラノとおなじように<おじいちゃん>になって、昔ほどは、ずっと先の未来を子どもたちや孫といっしょに生きていけるという思いではなくなったんですよね。
 でも、力はなくても<おじいちゃん>は<おじいちゃん>としてできることがあります。子どもたちや孫に残せるものがある。ティラノに自分を重ねながら描きました。
 そして、ウマソウも<おとうさん>になっています。お父さんになったウマソウは、別れたときのティラノの気持ちもちゃんとわかるようになっていると思ったんです。
 続きのお話を描いて、まるで今回の16巻『おまえうまそうだな さよならウマソウ』を描くために1巻目の『おまえうまそうだな』があったのではないかと思うくらい、2冊でひとつの大きな物語のようになりました。
 作者のぼくも、読者のみなさんも、それぞれの立場で、自分の心の中にある20年や親子や孫とおじいちゃん、おばあちゃんへの思いを考えさせられる本にできたと思っています。
 そして、16巻『おまえうまそうだな さよならウマソウ』で、続きのお話を描いたことで、ティラノサウルスとウマソウの間に1巻目と16巻目の間の20年の空白が生まれました。その間のふたりの物語は読者のみなさんそれぞれが想像してみてほしいなと思います。

――今後はどんな「ティラノサウルス」シリーズを描いていかれたいでしょうか。

宮西:
 時代が変わって、人との関わりも変化しています。
 そのときそのときの状況を考えて、本当の優しさや思いやり、さまざまな愛を描いていきたいです。

20周年を迎えて、宮西先生から読者のみなさまへのメッセージ

――「ティラノサウルス」シリーズでたくさんの方に優しさと思いやりの心がひろがっていってほしいです。宮西先生、ありがとうございました。

みなさんも、今年の年末年始は、「ティラノサウルス」シリーズの絵本を読みながら、優しさと思いやりについて、ご家族で語り合ってみるのはいかがでしょうか?

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