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ソムニウム~夢~

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夢をモチーフにした詩と短編小説です。
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2021年8月の記事一覧

ソムニウム(78)流れ

ソムニウム(78)流れ

雨上がりの道を歩く
駐車場の空きスペースに
人のかたちをした
水が立ってて
俺はお前だ、 
お前は流れだ、
流れが枯れるまで生きろ、
と言う
わかった、
と答えて歩く
たっ たっ じゃたっ たっ
とくん とくん 
たくん たくん
人のかたちの水の流れが
自分の中に確かにある
濡れて輝く立ち木の梢が
顔をかすめてきらきら光る

(終わり)

ソムニウム(77)メールボックス

ソムニウム(77)メールボックス

巨大なマンションに住んでいる
メールボックスの前に立つ
自分名義の小さなポストが
高い所に増設されてる
開くと請求書が数十枚
レンタルソフトの滞納料金
何年溜めたか分からない

結婚を約束していた女医が
キッチンで突然死してしまう
心臓の疾患と思われる
彼女の職場へ報告に行き
中華料理を出されて食べる
麻婆豆腐が異様に美味い
いろいろ訊かれて
答えられない
彼女の死体を見た記憶がない

マンション

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ソムニウム(76)水色のオウム

ソムニウム(76)水色のオウム

大風が吹いて
家の中がメチャクチャ
家族は怖がり 自分は平気
庭に出て
植木鉢と 金髪のヘアウィッグと 
水色のオウムを拾って戻る
廊下に中華包丁を持った
手配中の殺人鬼が隠れていて
包丁の刃を 後ろから首に当てられる
払って逃げる 手の平が切れる
生命線がぱっくり開く
殺人鬼が家の奥へと入り
家族の誰かを襲ってる
悲鳴が上がり
どん、ごろごろ、と
首が転がる音がする
白い蛇革のスーツケースが

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ソムニウム(75)龍のしっぽ、半透明の山

ソムニウム(75)龍のしっぽ、半透明の山

朝陽に染まった町並みの上を
自分の影が飛んでいる
他にもいくつか
飛ぶ影がある

家に戻ると
生まれたばかりの赤ん坊が
窓辺に置かれたベッドに寝てる
栗色の明るい瞳
むちむち太った白い手足
太いしっぽが生えている
メタリックな鱗が美しい
龍のしっぽ、
と妻が言う
赤ん坊がにっこり笑う

視界いっぱいに迫る岩肌
青ざめた白とクリーム色
流れる雲の隙間から
尖った山の頂が見える
高い空をいく飛行機のよ

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ソムニウム(74)ノルウェージャン

ソムニウム(74)ノルウェージャン

子供が病気で入院する
悪いことをいっぱい考え
医者の前で取り乱し
家に戻ってベッドに倒れ
天井を見ながら
はたと気づく
嫌い続けてきた母と
今の自分はそっくりだ
不安と心配の区別がつかない
同じ鋳型の魂だ
彼女を嫌い 突き放し 縁を切って生きるのは
自分を嫌い 突き放し 縁を切って生きること
逃亡中の犯罪者かよ
情けなくなり ふて寝する
夜中に子供が退院し
ひとりで歩いて帰ってくる
おかえり、と玄

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ソムニウム(73)血文字

ソムニウム(73)血文字

真っ黒に日焼けした銀髪の女の子の家に泊まる
四角い螺旋階段を地下へと下りる
一階ごとに
金や緑やピンクの髪の姉や妹が
男といる
地下四階から灯りがなくて
父親と母親が廊下に立ってる
挨拶すると
あうう、と唸る
地下五階が彼女の部屋
朱色の石室
朱色のベッドで
銀髪の女の子と抱き合い 交わる
熱い吐息と ひんやりした乳房
何度も何度もささやかれる 
理解できない短い言葉
とろけるように達しながら

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ソムニウム(72)スサノオの祠

ソムニウム(72)スサノオの祠

美大の奥にある工房で
駐車場から車が飛び出すミニチュアセットを作ってる
先輩や同級生にほめられて嬉しい
車の名前はアルフェラッツだ
大講堂へ行くと講演会をしている
講師の一人が若い頃の父親
整形していて顔が違う
体育館が巨大な居酒屋になり
酔って力比べをしている もう一人の自分を見る
上半身裸でスキンヘッドで 背中と腕の筋肉が凄い
組み合ってる相手はもっと凄くて
人のかたちを突き破ってる

やぶれ

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ソムニウム(71)成田山

ソムニウム(71)成田山

高層ビルの屋上で
占星術の授業を受けている
VTOL戦闘機が飛んできて
至近距離を旋回する
VTOLによく似ているけれど
人の作ったものではない
他にも高い空の上を
虹色の飛行物体が飛び交い
半透明のジャンボジェットが
ゆっくり現れ 消えたりする

昔働いていた会社へ行く
前とはかなり変わったでしょう、
と若社長が笑顔で言う
老人と子供の幽霊が
彼の両脇に現れる
ああ、まずい
憑かれてる
パァン、

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ソムニウム(70)ムント

ソムニウム(70)ムント

磨き上げた柿のように
つるつるぴかぴかの赤ちゃんが笑う
限界集落で暮している
薪を刈って背負って斜面を下りる
反対側の斜面に建ってる
何件かの家に灯りが点いてる
あれを消しに戻らなければ、
と夕陽を浴びながら見つめていると
すべての家の灯りが消えて
ムント
という言葉が聞こえ
苔むした緑色が目の前に広がり
数人の知人が現れる
すでに亡くなった人もいて
話すたびに記憶が削られていき
自分が誰だか忘れ

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ソムニウム(69)模様替え

ソムニウム(69)模様替え

 鉛筆で描かれた漫画を読む
 漢字とひらがなで書かれたセリフ
 日本語だけど日本語じゃない
 新しい 読みたい
 家の模様替え
 えー嫌だな、
 と思ってるうちに
 模様替えが終わってる
 にぎやかな話し声が遠ざかり
 ドレッドヘアーの映画評論家と
 チーフアシスタントが掃除をしてる
 仕事場の大机は撤去され
 小さな机とパソコンとプロジェクターとスクリーンが置かれている
 部屋の外の廊下には黒く

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