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「暖かさと戯れる」

丈瑠と穂乃果は、美術館デートの日。

今日は、付き合い出して3回目のデートだった。

季節は春、ぽかぽかと暖かく清々しい朝の日差しを感じる。

美術館の前で待ち合わせ、穂乃果は薄青いワンピースに

生成りのカーディガンを羽織ってやってきた。

「お待たせ」 「おはよう」

30分早く着いて、待っていた丈瑠。

ジーンズとグレーの、綿ニットという出で立ちだった。

仲良く手を繋いで、美術館の中へと入っていった。

作品は全て、中世のヨーロッパの油絵を集めたもの。

当時の様子が表現されていて、どれも迫力があり、

目を見張るものばかりだった。

その中でも特に、

二人が同時に声を合わせて、立ち止まった作品があった。

それは、お城に住んでいる王様の絵画だった。


二人とも、うっとりと見惚れている。

「きれいだね」 「お姫さま」


言葉少なげに会話をしていて、急に丈瑠は頭がふらつくように、

「あー」って言った瞬間、その絵画に吸い寄せられるように、

丈瑠の髪の毛が少し触れた瞬間に、絵の中にすーっと入っていった。

手を繋いでいたので、穂乃果も一緒に中に吸い込まれてしまった。


周りの人々は、全く気づいていない。

あまりにも一瞬の出来事で、声も小さく「あー」って聞こえた、

…だけだった。


絵画の中に、吸い込まれた二人。

城の城壁の直ぐ近くに二人が、放り出されるように現れた。

二人とも、吸い込まれたショックで気絶をしていた。


たまたま城に用事があって、馬で通りかかった隣国の王子が、

第一発見者となった。

穂乃果を見て…

「お姫さまだ」と大きな声を出して、騒ぎ立てた。

抱きかかえて、馬に乗せて城内へと入っていった。


丈瑠の姿は、そこにはなかった。

なぜなら隣国の王子が現れる前に、お城に貢物を届けにきた、

農民が抱きかかえて連れて帰っていた。


離れ離れになった二人。 身分も農民とお姫さま。

二人とも、このまま、中世の時代を生きていくかのように思えた。


丈瑠は、毎夜12時に穂乃果に会いに行っていた。

城の城壁の下で、「ヒュー」と口笛で合図を送っていた。

その合図を聞いた穂乃果は、バルコニーに出て丈瑠と

会うことが出来ていた。


何日も続いたある日、丈瑠は穂乃果を下へ降りて来られるように、

ロープを放り投げた。

穂乃果は、ロープをしっかりと柱に縛り付け、ゆっくりと降り始めた。

下では、丈瑠が待ち構えていた。


ふと手がつるんと滑って、

穂乃果が、「あー」という瞬間に下にいる丈瑠の頭上に落ちてしまった。


丈瑠と穂乃果は折り重なって、また気絶をしてしまった。


二人が気付くと、元の世界、美術館のお城の絵画の前にいた。

二人一緒に、束の間の中世と現世を行き来するJourney


美術館を出た二人は、その後もずっと手を繋いだまま、

決して離れようとしなかった。


「お姫さま、きれいだったね」 「農民姿も、似合っていたよ」


二人仲良く話をしながら、噴水のある公園を歩いていた。



あの時、発見されるタイミングが逆だったら、

農民の娘に穂乃果が、丈瑠が王子になっていたかも知れない。



※この物語は、フィクションです。


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