図を描くことが学習に効果的な理由 ー 脳科学と認知心理学の知見から
もうかれこれ20年前の話
文章を読んで、図を描くという非常にシンプルな行為に興味をもったのは、かれこれ20年も前のことでしょうか。
かなり個人的な話になってしまうのですが、当時ルームメイトだった友人がA.T.カーニーというコンサル会社に就職が決まり、お互いに別々で住むことになりました。(当時の日本でルームシェアって相当珍しかった)
友人に久しぶりに会った時、彼がA4の方眼ノートを持ち歩いているのに気づきました。ノートを見せてもらったら図や話の構造をビッシリと描きこんでいたのが目に止まりました。
その時はあまり気に留めなかったのですが、後にアメリカに渡り、さらには脳科学の勉強をしているうちに、「あ、もしかしてこのためだったのか」と思ったのが今回の記事の執筆動機です。
はじめに
私たちは日常生活の中で、図やイラストを使って自分の考えを表現する機会が数多くあります。例えば、アイデアを整理するためのマインドマップ、旅行計画を立てる際の地図、問題解決のためのフローチャートなどです。
このように図を描いて思考を可視化<外化>することは、人間の発達にとって重要な行為のよう。ガザニガは動物と人間の決定的な違いは、この思考を外化する能力って言ってますね。
また、近年の脳科学と教育学の研究により、図を描く行為が学習効果を高めることが明らかになってきました。
本記事では、図を描くことが脳の機能にもたらす影響や、教育現場・会社での実践方法について解説したいと思います。
図を描くことが、なぜ学習に効果的なのか、その理由を探っていきましょう。
図を描くことと脳の関係
脳科学の研究により、図を描く行為が脳の特定の領域を活性化させることが明らかになっています。特に、右脳の背外側前頭前野(紫のとこ)が図を描く際に重要な役割を果たしていると考えられています。
ちょっと深い話をすると1980年から90年にかけて右前頭葉損傷患者が構造化されていない状況での問題解決に困難を示すことを示唆した症例研究が行われました。
この症例研究の一般化を試みたゲール・ドランらの研究チームは、fMRIを用いて、デッサンを行っている際の脳活動を調査しました。その結果、右脳の背外側前頭前野が活発に働いていることが観察されました。この領域は、構造化されていない問題を解決する際にも重要だと考えられています。
彼らの実験のポイントは、
構造化されてない問 vs 構造化されている問
というものでした。
構造化されていないというの
問題の初期状態、ゴール状態、適用可能な操作が不完全にしか特定されていない。
問題の解釈が一意に定まらず、複数の解釈が可能である。
問題に唯一の正解がなく、複数の解が存在する。
ゴールに到達したかどうかを評価する明確な基準がない。
という全くもってオープンエンドな問ですね。
つまり、図を描くことは、複雑で構造化されていない情報を整理し、問題解決につなげる認知スキルの1つなのです。(だからコンサルの見習いはここからトレーニングするのかと腹落ちしました)
ここが朗報!
長期的に図を描く練習を積むことで、脳の構造自体にも変化が生じることが報告されています。ある研究では、熟練した芸術家は、初心者と比べて、右脳の外側前頭前野の灰白質が増加していたそうです。
このように、図を描く行為は脳の機能と密接に関わっており、特に高次の認知能力の向上に寄与すると考えられているんです。
だったら、学校教育でも、図を描く練習を積極的に取り入れたいですよね。
教育現場における図を描く練習の効果
シャロン・エインズワースは、図を描く練習の教育効果について、以下の5つの観点を提唱しています。
1 学習者の興味や関心を引き出し、能動的な学びを促進する。
自分の手で図を描き、考えを可視化することで、学習内容への理解も深まります。ここポイント。人のではダメなのです。
2 科学的な概念やプロセスを理解する助けとなる。
実験結果をグラフ化したり、複雑な理論をイラストで表現したりすることで、科学的リテラシーが向上するようです。
3 情報を整理し、論理的に思考する力が養われる
マインドマップなどを作成することで、アイデアを体系的に整理する訓練になります。
4 学習内容を効果的に記憶するための方略となる。
重要なポイントを視覚的に表現することで、記憶の定着が期待できます。
5 他者とのコミュニケーションを円滑にする。
言葉だけでは伝えにくい概念も、図を用いることで自分の考えを効果的に共有できるようになります。
これらの観点から、学校でも図を描く練習を授業に取り入れるといいみたいです。
例えば、理科の実験レポートにグラフや図表を描かせたり、歴史の授業で年表を作成させたりするなど、様々な場面で図を活用できそうですね。また、美術の授業と連携し、教科横断型の授業を展開するのもいい感じです。
まとめ
本記事では、個人的な経験から、図を描くことが学習に効果的である理由について、脳科学と教育学の観点から解説してきました。
脳科学の研究により、図を描く行為が右脳の背外側前頭前野を活性化させることが明らかになっています。この領域は、複雑で構造化されていない問題を考える際にとても重要な役割を果たします。
手を動かしてささっと図を描くことは、単なる表現方法にとどまらず、脳の機能を活性化し、学習効果を高める重要な行為なのですね。
学校でも会社でも、図を描くことの意義を理解し、実践していくことが求められています。
図を描くことを通じて、より深い学びと成長に繋げていきましょう!
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