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それでも、それでも生きてゆく【推し、燃ゆ】

※本文はネタバレを含みます※

一緒にいたいとか
一生愛し合いたいとか
何があっても裏切らないとか
何があっても味方でいるよとか
それって実現することなんだと思って生きてきました。
そういう風に生きていれば、実現するものなんだと。

でも現実は(私以外の皆さんはきっとずっとご存知だったように)
永遠なんてないし
変わらないものなんてないし
何があっても、とか絶対、なんて存在しない
ですよね(号泣)

だから、「推し、燃ゆ」は辛くて、悲しくて、やるせなくて、もうやめてって思いながらボコボコに殴られたような気持ちで読み終えました。
「推す」という、現代がきっと今までで最もピークに盛り上がっているとも言える、この特殊な人間関係は、
きっと「永遠への憧れ」を閉じ込めた、願いなんじゃないかって思います。


「推し、燃ゆ」の物語について簡単に説明すると、
主人公のあかりには真幸という男性の推しがいて、生活の全てを尽くして推し活動に専念しています。
そんな推しがファンを殴った、という推しのピンチから物語は始まりますが、あかりはどんなことがあっても常に真幸を全力で推し、ファンとして知名度を高めていきます。
また、真幸の芸能活動が好調な時にはあかりの推し活動・私生活も上向きになり、真幸が不調の時には、あかりも一緒にボロボロになるなど、まるで推しに同化しているような毎日を送る中で、真幸が芸能活動を辞めることになり、あかりは突然推しを失う、という展開に発展していく…という物語です。


推しが引退した後の人生を、あかりちゃんは自分の余生だと表現していますが、私はなんだかその言葉があまりにもやるせなくて、涙が溢れました。
あかりちゃんの世界から、自分の全てだった推しという存在がいなくなった後の、物語の最後が、私にとってはあまりにも強烈でした。

綿棒をひろった。
膝をつき、頭を垂れて、お骨をひろうみたいに丁寧に、自分が床に散らした綿棒をひろった。
綿棒をひろい終えても白く黴の生えたおにぎりをひろう必要があったし、空のコーラのペットボトルをひろう必要があったけど、その先に長い長い道のりが見える。
這いつくばりながら、これがあたしの生きる姿勢だと思う。
二足歩行は向いてなかったみたいだし、当分はこれで生きようと思った。
体は重かった。
綿棒をひろった。

あかりちゃんは、推すことで推しと自分、二人の生命をすり合わせていたんだと思うのです。
そんなソウルメイトのような存在が、自分の存在を一生知ることもなく、自分の知らないところで大切な存在を勝手に見つけて、勝手に人生を進めて推される存在であることを辞める。
ここまで心を、身体を、全てを尽くしてきて、一生一緒に生命をすり合わせて生きていけると思っていたのに、推しは推しを卒業してしまう。
本当に辛い、ずっと一緒だったのに、ずっと一緒にここまで生きてきたのにね。

永遠なんてないし
変わらないものなんてないし
何があっても、とか絶対、なんて存在しない
って最初に書きました。
生きていれば、人は成長していくし、変わっていくし、それは仕方のないこと、というか自然なことだと思います。
だからこそ、だからこそ思うのです。
「今」が大事なんじゃ無い?って思うんです。
明日死ぬかもしれない、
明日推しが卒業するかもしれない、
明日記憶喪失になってあなたを忘れるかもしれない、
明日何かの形であなたを失うかもしれない、
だったら、だったらさ、どんな形であれ今が一番大切で、もはや全てなんじゃないのって、思うんです。

だからあかりちゃんが推しのために全てを捧げて、高校を中退するはめになっても、体も心もぼろぼろで、生活もままならず、家族にも追い出されても、それでもあかりちゃんは一人の人との対人関係を、全うしたんだって思うんです、私にはそう思えました。
だから、私は最後まで推しを推せたあかりちゃんを、強烈に、羨ましく思うのです。
人間関係を全うしたあかりちゃんを、心から羨ましく思うのです。
その後にきっと、やるせなさや、壮絶な苦しみや、喪失感が襲ってきたとしてもそれは、「今」を全うしてきたあかりちゃんの勲章です。
推しがいない世界で、どう生きるかはあかりちゃん次第。
こんな風に、人間関係を全う出来たあかりちゃんなら、あかりちゃんがそう望めば、また素敵に生きられるって、思います。

永遠なんてないことが、
変わらないものなんてないことが、
絶対なんてないことが、
未熟な私にはどうしても、悲しくて寂しくて仕方がない。
だからどこまでもそれは好きなだけ怖がっておこう、と思います笑。
でも、忘れてはいけないのは、だからこそ「今」が大切なんだってこと。
明日一生一緒にいたかった人が私を裏切るかもしれない、
嘘をつくかもしれない、
死ぬかもしれない、
でも「今」は「今」しかこないのだから、「今」を全うしていきたい。
どんな形であれ、「今」と人を諦めたくない、全うしたい、と心から思うのです。

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