色鉛筆のたとえばなし
それは、とってもとっても小さかった頃。目に映るものすべてにワクワクして、かけっこするだけでも楽しくって、一瞬一瞬が愛に満ち溢れていた頃。
ひよこちゃんの心の中には、いつもたくさんの色鉛筆がありました。
12色?24色?いやいや、そんなもんじゃありません。この世界のすべての情景を表現できるほどの、数え切れない色たちが心の中にありました。
ある時、幼稚園の手洗い場で、ハンカチを忘れて困っているお友達を見つけたひよこちゃん。「これで手拭いていいよ〜!」って、自分のハンカチを貸してあげました。
ひよこちゃんは本当にやりたいことをやっただけでしたが、それを見ていた先生が「ひよこちゃん、お友達に貸してあげるなんて優しいのね〜!」って、褒めてくれました。
困っていたお友達の顔も一瞬で嬉しそうになって、なんだか分からないけれど、ひよこちゃんの心の中は、綿あめみたいな、淡い桃色でいっぱいになりました。
"そっか、こういうのをやさしいって言うんだ!やさしくすると褒めてもらえるんだ!"
ひよこちゃんは嬉しくなって、桃色の色鉛筆をたくさん使うようになりました。本当は違う色を使いたくなる日もあったけど、そんな気持ちを見ないようにして、桃色ばかりを使うようにしました。だってそうしたら、みんながたくさん褒めてくれるから。
それからまたある日、ひよこちゃんがママと歩いていると、スーパーの前で美味しそうなソフトクリームを食べている男の子を見かけました。
「ママ、あのソフトクリーム、わたしも食べたい!!」
「だめよ、もうすぐお夕飯の時間なんだから我慢しなさい。また今度ね。」
ママがそのまま歩いて行こうとするので、ひよこちゃんは精一杯、自分の気持ちを叫びました。心の中は、雨の日の海のような、どこか寂しげな濃い青色をしていました。
「やぁーだぁー!!いまがいいのーー!!いま食べるのーー!!」
「もう、わがまま言わないの!!わがままな子はママ嫌いです!!」
ママにわがままって言われて、嫌いだなんて言われて、ひよこちゃんは悲しくてわんわん泣いてしまいました。
"自分の気持ちを言うのは、わがままなんだ!"
"わがままを言うとママに嫌われちゃうんだ!わがままは悪いことなんだ!"
ひよこちゃんは、青色の色鉛筆を使うことをやめました。それでもふとした時に青色が出てくることがあったら「出てきちゃダメ!」って、頑張って隠したりしていました。だってこの色を使うと、大好きなママに嫌われちゃうから。
そして、少し大きくなったひよこちゃんは、あることを思いつきます。
"ピンク色は褒められるから良い色。青色は怒られるから悪い色。悪い色なんて全部嫌い!!そうだ、青色を私の中から追い出しちゃおう!"
こうして、今までずっと一緒にいた青色を、外の世界に追い出してしまいました。
その他にも、ひよこちゃんにとっての「悪い色」はいっぱいありました。「こんな色持ってたら、友達に馬鹿にされる!」とか「こんな色持ってるなんて、先生に見つかったら怒られる!」とか、理由は色々ありました。
ひよこちゃんは、みんなに嫌われたくなくて、心の中に「悪い色」を見つけるたびに、外の世界に追い出していきました。心の中を「良い色」だけにすれば、みんなに好きでいてもらえると信じていました。
追い出されてしまった色たちは、ひよこちゃんの中に帰りたくて、外の世界で自分の存在をアピールします。そして、それでも気づいてもらえなかったり、無視されているとなると、もっと大袈裟にアピールするのです。
”ねぇ!僕ここにいるよ!気づいてよ!帰りたいよ!!”
心の中の色鉛筆は、全部全部、良いも悪いもなく、私の世界を繊細に彩る、価値のある色たちです。このうち1本でも無くなってしまったのなら、その色の部分だけが欠けているような、どこか物足りない世界を見ることになるでしょう。
それだけ、心の中にすべての色がそろってはじめて、私たちは豊かで味わい深い世界を体験できるのです。
・・・ねぇ、ひよこちゃん。その"青い色"って本当に悪い色なのかなぁ?
みなさんはどう思いますか?
ちなみに、外の世界に追い出されてしまった色たち。これらが何を表しているのかは、次回お話したいと思います。
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