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第315号『千円札は拾うな。』

『千円札は拾うな。』という本をご存知でしょうか。

2006年に出版された本なのでもう結構前ですね。内容を要約すると以下のようになります。

「目の前に落ちている千円札を拾おうとすると前傾姿勢になってそれしか見えなくなる。そうなるともっと周りにある大きな利益を見落としがちになりますよ」

ざっくり言うとこんな感じです。言われてみると「そうかもね」と頷ける部分もあると思いますが、まぁ千円札を拾ってからでも周りを注意深く観察することは出来ますよね。

著者が言いたいことってのは当然ながらそういうことではなく「千円札を拾うその瞬間に大切なことを見落としているかもしれないですよ」ってことなんだと思います。

本の内容は他にもいろんなテーマが語られていますがこれらも要約すると「人がやることと同じことをやっていたらいつまでも逆転は出来ないですよ、勝つためには発想を切り替えましょう」ということです。

おっしゃることはごもっとも。至極当然の話だと思いますが、世の中の多くの人はみんな右へ倣えで同じ考え方をしてしまうようなのでこちらの本も当時は多くの人に影響を与えてベストセラーになりました。

改めてふとこの本のことについて考えた時に私は「本の内容自体には共感できるけど絶妙な論点ズラしが気に入らないなぁ」と思いました。

例えそれが100円であっても拾いますし同時に周りを注意深く観察し大事な瞬間は見逃しませんよ!と言いたいところです。

ただね?実は主題はそこではなくてですね。この本のタイトルが『千円札を拾うな。』で無かったとしたら多くの人は(私を含めて)この本を手に取ることも興味を持つことも、こうして話をすることも無かったんじゃあないかってことです。

『論点ズラし』であることをわかった上であえてフックを作る為に本のタイトルを『千円札は拾うな。』というキャッチーな題名にされたのであれば、お見事だと思いますしまんまと乗せられてしまったというやつですね。

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今回のテーマはこの『論点ズラし』と似た話で『しらじらしいけど結局みんなが夢中になって突っ込んでる現象』というモノについてお話したいと思っています。

世の中には『しらじらしいモノ』っていっぱいありますよね。

誰がどう見ても「なんじゃそりゃ、馬鹿げてる」と思われるのになんだかんだみんなが夢中になってしまうもののことです。

掘り下げてお話をするためにもひとつ事例を出しましょう。

『ゴチバトル』金額計算が気持ち悪くてしらじらしい

日本テレビの『ぐるナイ』という番組の中でレギュラー化している長寿コーナー『ゴチバトル』をもはや知らない人はいないと思いますので簡単にしか説明しませんが。

高級料理店に集まった芸能人たちが設定金額に合わせた料理を注文してピタリ賞を狙いつつ、一番予想金額が遠かった人が全員分のお支払いをするという大人気罰ゲーム企画です。

目標金額が3万円とかに設定されていて。1品ずつ注文して食べるのですがそれが実際には4000円の料理だったものを3000円と予想するとナレーションで「なんと1000円の誤差!これはイタイ!」なんてことを言われるわけですよ。で、次に食べた料理の金額が5000円の料理で予想金額を7000円とか言うとナレーションですかさず「なんと2000円の誤差!これまた大ハズシ!」とかいうわけです。

みんなわかってますよね?

「いや、プラマイ1000円で誤差は変わってないやん」

って。

私はあの番組のこのしらじらしさが大嫌いで一時期は視聴することも拒むほど嫌悪感を抱いていました。

けど、このしらじらしさって私だけでは決してなくて日本全国のお茶の間で家族全員が一致団結して全く同じツッコミをしながら楽しんで観ているわけじゃないですか。

まさに『しらじらしさの許容』ってやつですよ。別の言い方をすると『ツッコミ待ち』とも言えますし、もっと更に突っ込んだ言い方をすると『必要悪』とすら言えるわけです。

だって、あんなにもしらじらしくて気持ちが悪いのに20年以上も続く人気コーナーになるってことは、それだけ多くの人々を楽しませ続けたってことなんですから。

そう、許されているわけですよ、あの番組のしらじらしさは。

国民的な番組にもなればこういったしらじらしさも許容されるようですよ。

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さて、ようやくここからが今回の記事の本題へと突入するわけですが。

国民的な人気番組の話はさておき、我々がいるゲーム業界にもこの手のしらじらしさというものは存在します。

あー、いや、そんな言葉で片づけるつもりはありませんのでハッキリと言葉にしておきますが、要するに『害悪』です。

笑って許せる範囲のしらじらしさはかわいいものですが、実際の仕事となるとやはりそうもいきません。

以前、漫画『チェイサーゲーム』の“プロデューサー編”でも取り上げたエピソードの内容も踏まえて紹介しつつ、そのへんの害悪の話をしようと思います。

もちろん、ただ気分が悪い話だけではなくそれに立ち向かう勇気の話をしようと思いますので、憂鬱な月曜日からの仕事の活力となるように背中が押せると幸いです。

それでは明るく前向きに張り切っていきましょう!

しらじらしい害悪をブッ飛ばせ!

漫画『チェイサーゲーム』の第三部“プロデューサー編”のエピソードの中でこんな話がありました。

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