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【薄い本】Schadenfreude


Schadenfreude (シャーデンフロイデ)
『人の不幸は蜜の味』


・・・


カーテンの隙間から見えるのは太陽ではなく、どこまでも続く曇り空。鈍い光が、隣の女を照らしている。
隣にいるのが彼女だったら、気持ちも空も晴れたかもしれない。だがそんな純粋な心など、とうの昔に学校のロッカーに置いてきた。

『ねえ、飲み物。なんか無いの。』

いつの間に目覚めたのか、女がのそのそと動き出す。顔は美人でスタイルもいい。セックスするには最高の女だが、頭の中はどうしようもなくお花畑だ。そんな彼女はパンティだけ履いて上は付けないという不恰好さで、冷蔵庫を勝手に開けて中のコーラをラッパ飲みし、胡座をかいてタバコを吸い始めた。僕はぽつりと呟いた。

『普通女はそんなだらしなくタバコ吸わないでしょ』


『関係ないよ。男女ビョードーだよ、男女ビョードー。』

聞こえていたようだ。女は天井に向かってふうっと煙を吐きながら答えた。男女平等の意味が違うように思うが、そんな小さな違和感もこの淀んだ空間の中じゃ煙と共にすぐに消える。


『男女平等といえばさ、なんで男性ばっかりセクハラセクハラ言われんだろうね。女性から男性へのセクハラはなんも言われないし。女性専用車両とかもわざわざ設けてさ。こういう話になると女性の方が強く出るよねぇ。』

ふと感じた疑問をぶつけてみた。彼女はまだ吸い始めの2本目を灰皿に押し付け、笑った。

『そりゃあ、男が慌てふためくのが面白いからじゃん?立場が弱いのを利用するんだよ。立場が弱いからこそ、騒ぎ立てたら絶対あたしたちが勝つようにできてんの。だから痴漢の冤罪とかもあるじゃん。そうやって慌てるのを見て喜んでんのよ。あたしはそんなのやらないけどさ。くだらないし恥ずかしい。』

胸を丸出しの女に羞恥心というものが僅かにでもあるのかと思ったが口には出さないでおいた。聞かれたら怒り出して面倒くさい。
とんでもない持論を聞かされても、不思議と少し納得してしまった。人を納得させるように話すのだけは上手い奴だ。

『それよりさぁ、言ったとおり、今日彼氏と別れてくるから。また相手してよ。』

彼氏が居ようが居まいが関係なくいろんな男と寝るくせに、彼氏に悪いというその妙な律儀さはなんなのだろう。

彼女の今の彼氏は、勉強が出来て背も高く、顔もよい。噂ではモデル活動もちょくちょくやってるらしい。そんな天からの二物など何も抱えていない彼が、僕は大嫌いだ。
美男美女の、一見理想的に見えるカップルが今日終わる。そう思うと、妙にワクワクしている自分がいた。


『また来るね』

そう言って出て行く彼女の背中から尻にかけてを舐める様に見て、次はどうしてやろうかと思いを膨らませた。



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