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人生の椅子

『私はその日人生に、椅子を失くした。』
(「港市の秋」/中原中也)

この詩を初めて読んだ日を、よく覚えている。
ああ、私もそうだと思って途方に暮れたから。

ここ最近は、いつもそうだ。

ここに居たいのか居たくないのか、自分でもよく分からない。

家族の輪、友人の輪、社会の輪。

どこにも、私が安心して座る椅子が無い。
核心ではないけれど、そんな気分だ。
どの輪の中も、悪くは無い。
だけど、椅子がないだけ。

夜中、かすかな光を頼りに『助けてよ』と思う。

でも、誰に?なにを?

分からない。
ただ、楽にして欲しい。
立ちっぱなしは、少し疲れる。

どこかに座りたい。
いや、座りたくない。

海の真ん中にひとりでも良い。
いや、みんなの傍に居たい。

矛盾と孤独を抱えて、立ち尽くしている。

ただ、あの詩を読んだ頃とは違う事もある。
他人に用意された人生の椅子が気に入らないのならば、自分で探すか拵えるしかない。
それを、私はもう知っている。


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