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🇩🇪ビジネス書として「ゲーテとの対話」を読む

長い記事になりました。
お急ぎの方は、(4)の日本語による引用だけでも、読んで下さるとうれしい。
⚽ワールドカップ⚽で、🇯🇵日本は🇩🇪ドイツに見事勝利したが、ドイツへの憧憬とリスペクトの気持ちを込めて、記事を書いてみました。

エッカーマン著(山下肇[訳])
「ゲーテとの対話(全三冊)」
岩波文庫

(1)

 書店に行くと、いわゆる「自己啓発書」が数多く並んでいる。若い頃はけっこうビジネス書を読んだことがある。
 しかし、ビジネスで成功をおさめた話というものは、ハッキリ言えば、ほとんど役にたったことがない。
 著者にとっての成功体験をそのままの形で「あなた」に妥当するはずもない。これからあなたがまったく同じことをやって成功するものならば、すでに他の人も実行しているだろう。個別具体的なノウハウを知っても、そのようなものは時とともに常に変化していく。
 ビジネス書の多くは、目次だけ目を通せば、おおよその内容は想像できるし、「目から鱗」ということも非常に少ない。

 不遜にもそんなふうに考えるようになってから、自己啓発書の類いはいっさい読まなくなった。


(2)

 小説をはじめとする文学は、役に立たないもので、語弊はあるが、なにかを学ぼうとして読むよりも、「暇潰し」「単なる楽しみ」として考えている人も多いのではないだろうか?
 けれども、文学ってけっこう実用的だなぁと思うようになった。
 普通の小説だって、「思考実験」として読めば、様々な登場人物の心理を立場を変えながら考えることができる。角度を変えて考えることができるようになる。
 聖書のような本も、宗教書としてではなく、人を「説得」するための本として読むこともできる。


(3)

 前置きが長くなったが、この記事では、エッカーマン「ゲーテとの対話」をビジネス書として読んでみたい。
 私が読んだときに、線を引いたところを中心に引用してみたい。
 エッカーマンはゲーテと親しい関係にあった人物であり、「ゲーテとの対話」は、エッカーマンがゲーテと談話・対話したことを収集してまとめた書物である。日記形式で書かれているので、好きな箇所から拾い読みすることができるので、忙しい方にも読みやすいのではないだろうか?最初からすべて読む必要もない。気軽に「論語」のように、開いたページから読み始めることができる。

 ヘッダーに掲げたドイツ語の原書の裏表紙には次のように書かれている。

>>. . . das beste deutsche Buch, das es gibt.<<

Friedrich Nietzsche 

(ドイツ語で書かれた最善の書、フリードリヒ・ニーチェ)


(4)

引用は、ヘッダーに掲げたドイツ語の原書と岩波文庫による。

●1823年9月18日 木曜日 イェーナ(前掲書[上]、p59)

さしあたっては、いつも専ら小さな対象ばかりを相手にし、その日その日に提供されるものを即座にてきぱきとこなしていけば、君は当然いつでもよい仕事をはたして、毎日が君に喜びをあたえてくれることになるだろうよ。

Machen Sie vorderhand, wie gesagt, immer nur kleine Gegenstände, immer alles frischweg, was sich Ihnen täglich darbietet, so werden Sie in der Regel immer etwas Gutes leisten, und jeder Tag wird Ihnen Freude bringen.

(中略)

(前掲書[上]p60)

現実には詩的な興味が欠けている、などといってはいけない。というのは、まさに詩人たるものはら平凡な対象からも興味深い側面をつかみだすくらいに豊かな精神の活動力を発揮してこそ、詩人たるの価値があるのだから。現実は、そのためのモティーフを、表現すべきポイントを、本来の核心を、あたえてのではなくてはならないが、さてそこから1つの美しい生きた全体をつくりだすのは詩人の仕事だ。

Man sage nicht, daß es der Wirklichkeit an poetischem Interesse fehle; denn eben darin bewährt sich ja der Dichter, daß er geistreich genug sei, einem gewöhnlichen Gegenstande eine interessante Seite abzugewinnen. Die Wirklichkeit soll die Motive hergeben, die auszusprechenden Punkte, den eigentlichen Kern; aber ein schönes belebtes Ganzes daraus zu bilden, ist Sache des Dichters. 

●1831年2月17日 木曜日
(前掲書[中]、pp.240-241)

「人はいつも考えているものだよ、」とゲーテは笑いながらいった、「利口になるには年をとらねばいけないとね。だが実のところ、人は年をとると、以前のように賢明に身を保つことはむずかしくなってくる。それぞれの年代でたしかに変って(*ママ)はくるけれど、だからといって、いっそうよくなるとはいえないものだ。事によっては、20代と60代でも、どっちが正しいといえない場合もある。

「たしかに世界は、平地にいるときと、前山の頂きにいるときと、また原始山脈の氷上の上にいるときでは、ちがって見えるだろう。ある立場にたてば、世界の一角は他の立場におけるよりもよく見えるだろうが、しかしそれだけのことで、ある立場における方が別の立場よりも正しいなどということはできない。そのために作家は、自分の人生のそれぞれの年代に記念碑を遺そうとするならば、生れ(*ママ)つきの素質と善意を手放さないこと、どの年代でも純粋に見、感じること、そして二次的な目的をもたず、考えたとおりまっすぐ忠実に表現すること、それがとくに大切だ。そのようにして彼の書いたものが、それが書かれた年代において正しければ、いつまでたっても正しいものとして通用するだろう。たとえ作者が後日、自分の思いどおりにどのように発展し、変化しようとも。」

>>Man meinnt immer, << sagte Goethe lachend, >>man müsse alt werden, um gescheit zu sein; im Grunde aber hat man bei zunehmenden Jahren zu tun, sich so klug zu erhalten, als man gewesen ist. Der Mensch wird in seinen verschiedenen Lebensstufen wohl ein anderer, aber er kann nicht sagen, daß er ein besserer werde, und er kann in gewissen Dingen so gut in seinem zwanzigsten Jahre recht haben, als in seinem sechzigsten. 
Man sieht freilich die Welt anders in der Ebene, anders auf den Höhen des Vorgebirgs, und anders auf den Gletschern des Urgebirgs. Man sieht auf dem einen Standpunkt ein Stück Welt mehr als auf dem andern; aber das ist auch alles, und man kann nicht sagen, daß man auf dem einen mehr recht hätte, als auf dem andern. Wenn daher ein Schriftsteller aus verschiedenen Stufen seines Lebens Denkmale zurückläßt, so kommt es vorzüglich darauf an, daß er ein angeborenes Fundament und Wohlwollen besitze, daß er auf jeder Stufe rein gesehen empfunden, und daß er ohne Nebenzwecke grade und treu gesagt habe, wie er gedacht. Dann wird sein Geschriebenes, wenn es auf der Stufe recht war, wo es entstanden, auch ferner recht bleiben, der Autor mag sich auch später entwickeln und verändern, wie er wolle.<<


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