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短編小説 | ふらり映画館🎥

(1)
 家の中にいてじっとしていると、体を少し動かしてみたくなった。この間までつづいた暑さは、昨日降った雨によって、さいわい少しおさまった。ちょうどいい。ちょっと外をブラブラしてみるか。
 せっかくだから、普段あまり通らない道を通ってみよう。

 ひとり、路地裏を歩いた。

 あぁ、この銭湯、最近来てなかったけどまだ続いていたんだ。もうつぶれてしまったと思っていたが、お客さんはいるのだろうか?
 あぁ、ここのホテルはいつの間にか廃業してたんだ。今みんな旅行を控えているからなぁ。
 あら、ここにあったビデオ鑑賞室、やっぱり摘発されたのか。看板は、まだ残っていた。張り紙には、「裸一貫出直します」と書いてあった。そういうことをしていたから摘発されたはずだが。たくましいね。

(2)
 どうも私は路地裏が好きだ。ぶらぶらしていると自然とマイナーなものに目がいってしまう。しかし、そろそろ疲れてきたから、メインストリートへ戻って、まっすぐに家へ帰ろう。

 路地裏から家に向かう途中、ずっと長い間忘れていたのだが、とある映画館の前を通った。人気がないのでもう閉館したと思っていたが、まだ開館しているらしい。久しぶりに見てみようか。

(3)
 今日はどんな映画を上映しているのだろう。

「大人一枚」

私はチケットを買い求めた。券売機はなく、昔ながらの対面販売である。白髪の老婆がカウンターに座していた。

「今日も、下に効く映画をご用意しておりますよ。お兄さんには、キクとおもいますよ、フォ、フォ、フォ~」

本日の映画のタイトル。

「だらしない下半身と誘惑の上半身、ザ・健太のお留守番、またはケンタオルス」

 始まった。客はほとんどいないが、指定された席にすわった。スクリーン全体がきれいに見える。ちょうど見やすい場所だ。

「おお、Oh、そ、そこは」
「Ah, I'm coming. A, Aaa~hn, good. Wow!! You, you are just like a whale. 」

いよいよ、クライマックスだ!、と思った矢先、アフロヘアのカップルが中へ入ってきた。こんな映画にカップルで見にくる若い人もいるんだな、と微笑ましく思ったのだが… …

(4)
 広いガラガラの映画館なのに、アフロのカップルは、私の目の前にすわった。前が見えなくなった。

「あ、あの~、ちょっと席を変わっていただけますか?」

「いや~、それは、やはり、まずいんじゃないですかぁ~?一応全席、指定席ですから」

「お、おおお~、あ、あああ~ん」

 一番肝心な場面を見ることができず、主人公のだらしない下半身は、アフロの頭で覆われてしまった。

 映画は終わった。
 白髪のカウンターの老婆はニタニタと笑った。「キイたでしょう?」
 映画館から一歩外へ踏み出した。
 そこには、燦々と照りつける太陽と、悶々とする我が下半身があった。


おしまい

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