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エッセイ | 当たる占いと論理的ということ


(1) 大森荘蔵「『論理的』ということ」


 大森荘蔵先生の著作に「『論理的』ということ」(「流れとよどみ」、1981)というエッセイがあります。

 日常生活の中で『論理的』という言葉は、「余計な飾りがない」「画一的で融通がきかない」「理路整然としている」という意味で使われています。
 しかし、大森先生は、「論理的展開というものは理路整然としているというよりは冗長であるという点にその特性があるように思える」と述べています。
 どういうことでしょうか?少し引用してみます。


 現代の記号論理学が明確にしたように、我々が「論理」と呼ぶものは、3歳の童子にでもできる若干の語の使い方を基礎にしている。
 
「… …でない」という否定詞
「… …かまたは… …」という撰言詞(せんげんし)、
「… …でありまた… …」という連言詞
「… …はみんな」という総括の言葉
それに「何々は… …である」の「である」、

 この5つの語がどのように使われるのかを規則の形で書きあげたのが「論理学」なのである。

 もっともこれらの語の使い方は人によって多少違いがあるので、標準的な使用法をまぎれのない形で設定することは必要である。

 その規則も至極単純なもので、例えば、「Aであり また Bである」ならば「Aである」、といった式のものである。

 しかし こういう単純な語の単純な使用規則を組み合わせると、我々が「論理」といっているもののすべてが出てくるのである。

 このことは、コンピューターの複雑な働きもごく単純な基本回路の組み合わせであること、また難しい幾何学の定理も単純自明な公理の組み合わせから出てくることと事情は同じである。


(引用) 大森荘蔵、「『論理的』ということ」、「流れとよどみ」より。


 基本的に「論理」とは、たった5つの言葉を組み合わせて出来ているものということです。


(2) 当たる占いの論理


 占いというと、一般的には「非論理的」なもののように思っている人も多いかと思います。

 「えっ?、なんで今日会ったばかりなのに、分かってしまうの?」「当たってる~」という感想を占いに対して持ったことがある方もいるでしょう。

 しかし、よく当たる占いというものは、非常に「論理的」である場合が多いのです。

 例えば「排中律」という定理があります。「『~である』か『~でない』のどちらかであって、両立することがない」という定理です。

 「明日は雨が降っているか、雨が降っていない」という主張は正しい。しかし、天気予報としてはまったく意味のない情報です。
 しかし、少し尾ひれをつけて「あの候補者は当選するか、当選しないかは微妙な情勢です」と言えば、不思議なことに、ニュースとしての価値があるように響きます。

 占いの論理も、天気予報や当落予想と似ているところがあります。

 「私の助言を聞けば、しあわせになれますよ」と占い師が言ったとしましょう。
 幸せとは何か?、という(難しい)問題をひとまず置いておけば、「人は幸せになる」か「人は幸せにならない」かのいずれかです。

 ただ「私の助言を聞けば」というものが曲者です。

 仮に、幸せになったとすれば、相談者は占い師の言った言葉を実践したからだと考え、幸せにならなかったら、自分の実践が足りなかったからだと考えることでしょう。

 以前「地獄に落ちるわよ」という言葉で有名な占い師がもてはやされたことがあります。
 あの方の言葉遣いをよく吟味してみると、非常に巧みな「論理」が使われていることがわかります。論理的であるから、外れることがマレだったのです。

 論理学の排中律に、「~ならば」という留保条件というスパイスを加えると、「当たる占い」(当たっているように思える占い)になるのではないかと考えています。

 どちらに転んでも、当たるような言い方を巧みに操るのが「当たる占い師」なのでしょう。
 また、不確定要素の大きい核心的なことには触れない、というのも要諦の1つです。


まとめ


 三段論法のように、三行程度で終わる「論理」もあるけれども、数学の証明のように、何百ページにも及ぶものもあります。
 
 日常会話では、簡潔にまとまった、分かりやすい文章のことを「論理的」という場合がありますが、大森先生がいうとおり、本来「論理」とは「冗長」なものです。当たり前のことをグダグダ言い換えていくプロセスが論理だということです。

 結論だけをきくと驚くような「予言」も、論理的な帰結に過ぎないなんていうことが多いように思われます。



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